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ナビウリナ露中銀総裁

ナビウリナ露中銀総裁


ウクライナの大反抗は未だ継続(未だ泥濘期に入っていないのには正直驚いています。気候変動の所為なのかねぇ)している最中ですが、直接の戦闘ではなく、兵站の土台であるロシア経済に少しフォーカスしてみます。


この戦争でロシアは10〜30兆円規模の政府支出を行なっていると推計されます。

尤も、これは新たに発生した政府支出のみで、数十年単位で備蓄してきた膨大な装備・弾薬が湯水の様に注ぎ込まれていることを考えれば、費やされた資産総額では桁が一つ上がるのは間違いない。


更には、この戦争で30万人からの死傷者が生じている外、動員忌避で100万人からの労働人口が国外流出しており、経済運営に支障の出るところまで来ている。

付け加えるなら、プーチンは戦争傷痍者や遺族に手厚い補償をすると威勢の良いことを言っていますが、そんな金は有りません。ロシアはただでさえ年金問題で揺れ動いていたというのに、景気良く遺族年金などを振舞える余地がどこに有ると言うのか。


頼みの綱のエネルギー資源も原油の上限価格設定で足元を見られ、買い叩かれています。世界的に見れば石油価格は上昇していますが、ロシアはその恩恵を受けていません。


この外にもマイナス要因は腐るほど有る中、プラス要因はほとんど見当たりません。ほぼ八方塞がりの状況を受け、ロシアのルーブルは下落を続け、現在、1ドル=100ルーブルのところにあります。

これは、昨年、開戦を受けて1ドル105ルーブルまで下がった事態に次ぐ状況です。


横道に逸れますが、輸出のウェイトが大きい日本では円高悪玉論が叫ばれることも多いのですが、通貨の価値とは国力と信頼がベースに在り、輸出の起点ともなる資材購入のバイイングパワーにも繋がります。

現在のインフレは円安に拠るところが多い状況を見れば、円高を忌避するのは必ずしも健全な状態では無いと理解できるのではないでしょうか。


奇しくも、ソ連最初の指導者レーニンは、資本主義国家を潰すなら、通貨を堕落(下落)させれば簡単だ、と述べています(本当にレーニンが言ったかは不明)。


その意味において、通貨を防衛し、過剰なインフレを抑止する経済面の国防を担うのが「通貨の番人」たる各国の中央銀行です。

日本では日銀、アメリカはFRB(FRBは理事会を指すので、厳密には中銀そのものではありません)、ロシアではロシア中央銀行です。


中銀は通貨の安定を旨とするため、時々の政権とは政策の方向性が異なることもあります。

そのため、各国の中銀には政府からの独立性を担保する措置が採られています。通貨の安定性は、それだけ重要であるという事。


ロシアの中銀トップがナビウリナ総裁です。

ナビウリナはプーチン政権下(青びょうたん政権含む)で閣僚を歴任していましたが、オリガルヒによるポスト争いの結果くらいにしか思っておらず、恥ずかしながら私は殆ど注目していませんでした。


見方が変わったのは、ロシアが一方的にクリミア半島を併合してから2年程経った頃、セントラルバンカーオブザイヤーの欧州部門に選ばれてからです。


ロシアはクリミア併合により欧米から制裁を課された外、クリミア住民を取り込むためのばら撒き等で大きな経済的ダメージを負っていました。

メインストリームではありませんが、ロシア国内においても、クリミア併合に不満を持つ層が一定数いた程のダメージの深さ。

先に触れた年金問題もクリミア併合に一因があります。

その逆風の中、通貨安定のため粘り強く様々な手を打ち続け、ルーブルを防衛してきたのです。


大事なことなので2回言いますが、時に中銀は政権とも対立しなければ任を全う出来ません。

チンピラ皇帝のイエスマン(じゃねえイエスパーソン?か?)には出来ない事をやっているという事。即ち、ナビウリナはオリガルヒではなく、テクノクラートでした。


実際、その出自や経歴にはオリガルヒを匂わせるものは有りません。いや、まぁ、ロシアでテクノクラートの頂点に在るという事はオリガルヒに片足突っ込んではいるのですが。


ナビウリナは優秀です。

昨年、歴史的な安値を付けたルーブルが瞬く間に持ち直したのは、金の備蓄に裏付けされたものであったにせよ、ナビウリナの功績であることに間違いはありません。


持ち直した後、一時は数年ぶりの高値を付けたルーブルですが、その後ジリジリと値を崩し、現在の1ドル100ルーブルの所まで値が下がりました。

ナビウリナは大幅な利上げなど様々な手を打っており、現在の政策金利は年利12%、昨年の瞬間最大風速の年利20%までは行くかも知れません。

ちなみに、日本の政策金利はマイナス0.1%、2016年から殆ど変化がありません。日銀は政策金利に関し、デフレ対策として打てる手が無かったという事です。


利上げはインフレ対策の定番ですが、企業経済には冷や水でもあり、ロシア企業の業績悪化にも繋がります。実体経済の力と国際的信用力が無ければ、通貨を維持する効果は薄いでしょう。

国家としての地力が落ちてきているところに加え、お先真っ暗では、マインドとして資金流出を抑える理由たり得ないからです。


正直、ロシアが正常な手段で国際経済の立ち位置を維持するのは不可能だと思っています。

ウクライナとの開戦時、ナビウリナが中銀総裁を辞する意向を示し、プーチンに強引に引き留められたという話は、最終的にはこうなると理解していたからだと思います。

仮に、ロシアが戦争に電撃的勝利を収め、ウクライナ解体に成功していたとしても、経済的には完全に負け戦となる事は目に見えているからです。


事ここに至っては、露中銀総裁として出来る事は限られ、非常に苦しい選択肢しか残されていません。

四面楚歌のロシアが、曲がりなりにもここまで戦争を継続できたのはナビウリナの手腕に拠るところが少なくはない。ロシアでなければもっと活躍でき、評価される人物であったと思うと残念でならない。


今年のビンボークジオブザイヤーはゲラシモフですが、経済部門ではナビウリナになるでしょう。本当に残念です。(ゲラシモフは残念でもないし当然)

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