人材不足
人材不足
先日、ちょっとした記事が目に留まりました。
ロシアがキューバで兵士獲得を目的とした人身売買をやっている、というもの。
まぁ、やっている事自体に違和感は無いどころか周知の事実ではあるのですが、これをキューバ政府が人身売買として非難し、関係者の逮捕を公表している事には驚かされました。
ご存知のとおり、キューバは旧共産圏の一員としてソ連崩壊後もロシアと良好な関係を続けていました。まぁ、ソ連という後ろ盾が無ければ経済的に立ち行かなかった国で、アメリカから事ある毎に締め上げられる、地政学的に非常にしんどい国家なので、ロシアや中国と言った非民主主義国家とは仲良くやっていた訳なんですが、、、
キューバ政府が非難しているという事は、当然ながらロシア側とは事前の合意が無かったという事。
実際に人身売買に関わったのは、おそらくロシアのイリーガルファンクション、ウクライナ戦争を機に雨後の筍の如く乱立してきた傭兵会社関連でしょう。
記事を見る限り、ロシア政府を名指しで非難しているわけではなく、あくまで人身売買組織を摘発したという内容ですが、ウクライナ戦争のための徴用と明言している事に鑑みれば、ロシア政府を暗に批判しているも同然。
ロシアのやり方は如何にも拙い。
不法行為を担うイリーガルファンクションであっても、というか不法行為であるからこそ、それなりの流儀というものがあります。
ただでさえ肩身の狭い思いをしているロシアが、貴重な友好国で不法行為を行うのであれば、プロトコルや「お作法」に従って行儀良くやらなければならないし、「おいた」がバレれば更なる孤立を招きかねない。
キューバ政府の非難は、「勝手に始めた戦争に巻き込むな」という反発であり、「次は無い」という警告です。
イリーガルファンクションは、本来、大っぴらには活動できません(ワグネルとかを普通だと思っちゃ駄目)。アングラで傭兵を募ってもキューバでは精々数十人集められれば良い方でしょう。
キューバで不法に人集め(人身売買)するのは、余りにもハイリスク・ローリターンに見える。
これには、一つにはプリゴジンの不在が影響しているとも考えられます。
プリゴジンのワグネルは2014年の活動当初は2百名程度の比較的小規模な傭兵組織でした。その後、順次活動範囲を広げ、ウクライナ戦争では2万5千人ともそれ以上とも言われる数個師団規模の大組織に拡大しています。
傭兵組織という出入りの激しい組織である事を考えれば、10万人程度の人集めの実績があるハズです。
勿論、バックにGRUなどが居ればこそ、ではありますが、プリゴジンが犯罪者として収監されていた経歴が、人集め、特に脛に傷を持つおあつらえ向きな人材を集めるネットワーク構築に適していた事は間違いないでしょう。
ロシアはワグネルを解体して利権を接収したのでしょうが、こうしたネットワークは属人的なもので、引き継ぐ事は容易ではありません。
特に、他国で活動する場合の「お作法」は一朝一夕に構築出来るものではなく、独自のノウハウが必要です。
プリゴジンのワグネルに代わる傭兵組織・人身売買組織には、そうした諸々のものが欠けているのでしょう。
そして、もう一つ、キューバで人買いの真似までしなければならない程、ロシア軍は深刻な兵員不足の状態に陥っている。
ウクライナ戦線に現在展開しているロシア軍は40万人規模と見込まれます。
更に、アメリカ政府はロシア軍の死傷者を最大30万人と見積もっています。
即ち、100万人規模の国軍プラス部分的動員で得た30万人の兵員の半数以上をウクライナ戦争に突っ込んでいる、という事。
陸地だけでも2万kmもの長大な国境線で他国と接するロシアは、国防のための人員を一定数は割かねばなりません。国軍とは別に国境警備隊も存在しますが哨戒レベルの装備と人員に過ぎず、特に、日米や中国に対する備えとなる極東方面には国軍を置く必要があります。
ロシアには、国家親衛隊やピナルバタリオンなどのバッファもありますが、ウクライナに対する40万人規模のリソース配分は、かなり無理をしている、と思っていました。
キューバ政府による公表は、イリーガルファンクションという裏の人材と兵員という直接的な戦争当事者の不足を示しています。
また、1ヶ月ほど前の記事になりますが、戦争の影響でモスクワとサンクトペテルブルクでは失業率が0に近く、4割程の企業が人手不足を訴えているとのこと。
こちらは、間接的な戦争当事者も人材不足で経済を回すことに支障が生じている事を示しています。
ロシアの脳天気なウォーモンガーの中では「100万人動員してウクライナを蹂躙しろ!」との声も出ている様ですが、ロシア国内では100万どころか精々5万人が限度でしょう。
10万人規模の追加動員となれば、動員忌避による国外脱出も相当数に上り、国内経済が回らなくなります。
国外に目を向けても、キューバの例を見れば分かる様に、ロシアの戦争に巻き込まれたくない、というのが各国の本音でしょう。
唯一の例外と言えるのが北朝鮮。
ロシアの窮状は相対的に北朝鮮の価値を高めています。
落ちる所まで落ちている北朝鮮にしてみれば、今更アメリカに睨まれても、どうって事は無い。
地政学的に見ても、アメリカに近いキューバと中露に近い北朝鮮では180°の違いがあります。
プーチンにしてみれば、チンピラに等しい金正恩に頭を下げるなど業腹もいい所でしょうが、どうやらそうも言ってられない状況なのでしょう。
予定されている将軍様との会談では、相当規模の相互支援について話し合われるハズです。
喜色満面の将軍様が目に浮かびますね。
しかし、所詮は負け犬連合に過ぎません。
習近平に跪くのなら、まだ分からなくもありませんが、金正恩に助けを乞うなどプーチンとロシアの凋落を世界に喧伝するに等しい。
態度を曖昧にしている国もロシアと西側、どちらに付くか見直すでしょう。CIS加盟国のアルメニアはアメリカとの防衛協力に踏み切っています。
キューバと北朝鮮、対照的な両国の態度を見れば、どちらに付くべきか大抵の国にとっては考えるまでも無いことです。
色々な意味で、ロシアの人材不足は戦争だけでなく、国が傾きかねない所にきています。




