え?20機で?
え?20機で?
ウクライナの大反攻はかなり厳しい。
現状、ロシア軍の側背を突く形を作れず、ヘッドオンでの力押しを強いられている。
ウクライナ側としては忌避すべき状況にあると言えます。
この様な状況下に陥っているのには様々な要因が認められており、一言で表すのは適切ではありませんが、敢えて現状を総括するなら、「諸兵科連合の機能不全」にあるでしょう。
大反攻における機甲突破は戦車などの機甲部隊だけで成し遂げるものではありません。
今回、ウクライナ軍機甲部隊の衝力が発揮できていない理由は明白で、工兵による地雷原啓開が上手くいっていない、という事。
しかし、これは工兵が駄目という単純な話ではない。
散々阿呆呼ばわりしてはいますが、ロシア軍といえど工兵が地雷原を啓開するのを指を咥えて見ている訳ではない。
ザポリージャやドネツクで防衛に当たっているのは素人同然の動員兵や囚人ではなく、実戦経験を有する契約軍人の精鋭部隊であることが確認されています。
また、ロシア軍の前方に敷設された地雷原は想像以上に分厚く、隙らしい隙が認められていない。更に、一時的に啓開しても穴が発見されれば再敷設されてしまう。
そして何より攻撃ヘリの存在。航空優勢の得られない前線付近ではなく、比較的安全な後方から航空支援を行っている。
航空支援としては限定的であるものの、航空機からほぼ一方的な攻撃を受けると工兵は元より機甲部隊も進行が非常に困難です。
これは、
・カホフカ水力発電所の決壊により、ロシア軍が南部ヘルソン州方面の有力戦力をザポリージャやドネツクに振り向ける事が可能となった事。
これは、かなり大きな影響があり、戦力を集中できる以上に兵站の負担が減っています。戦線的には1/4くらい短くなった程度ですが、兵站的には従前の2/3くらいに軽減されている。戦線を更に1/2まで縮小する事ができれば、ロシア軍は兵站の問題がほぼ解決し、継続的に戦闘が可能とも考えられます。
・前線から80km地点まではハイマースなどでロシア側重要拠点を叩く「地均し」が成立していたが、必要と考えられていた150km以遠の「地均し」に関しては、特殊部隊やパルチザン、ストームシャドウといった攻撃手段が限られており、脅威の排除が徹底できていない。
・ウクライナ軍の航空支援がほとんど機能していない。
ハイマースやストームシャドウは優秀ですが、拠点などの静止目標にしか効果がありません。諸兵科連合を成立させるには航空機による移動目標への対地攻撃と敵航空支援の阻止が必要ですが、現状のウクライナ軍にはコレが絶対的に欠けている。
・訓練不足。
諸兵科連合作戦はプログラムのように逐次行動するのではなく、有機的・並列的に様々な兵科が協働しなければ機能しません。
こういった柔軟かつ即時性が求められる運用はOODAループを取り入れるなどしたNATO軍の得意とするところで、ウクライナ軍も対応可能と思っていました。
しかし、大反攻における前線付近の機甲部隊と工兵の連携には拙さが目立ちます。OODAループも同じですが、諸兵科連合を実践するには実戦に近い訓練とシミュレートが欠かせない。この訓練が足りていないのではないか、とも思います。
そして、ロシア軍に対して度々指摘している「下士官不足」、コレがウクライナ軍にも当てはまるのではないか、という懸念。
まぁ、、、懸念、というのは正確ではありませんね。ウクライナ軍は開戦前からロシアによる侵攻を見越して100万人を動員できる体制を整えていました。とは言え、ロシア以上の急激な兵員の増加に、経験が求められる下士官の数が追いつくハズも無く「下士官不足」は想定されていた「現実」です。
国防という高い戦意に支えられた守勢時には目立たなかったものが、大規模な攻勢で訓練不足が顕在化したと言えます。
これら諸々のファクターにより諸兵科連合は機能不全の状態にあり、機甲突破とは似ても似つかない塹壕戦の様相を呈しています。
ロシア軍とて苦しい状況に変わりはありませんが、現状のごり押しに近い戦術では、マリウポリやメリトポリまで進行するのに1ヶ月やそこらでは難しい。
何らかのブレイクスルーが必要です。
私は、ウクライナを勝たせる事は難しくはなかった、大反攻の開始時にF16が20機も有ればアゾフ海への打通も成っていたとしています。
数万人が戦闘を繰り広げる戦場で、上記の様なマイナスファクターの中、たった20機のF16で劇的に戦局が変わるものだろうか?
当然の疑問です。
補足するなら、現在確認されている両軍のリソース配分が前提です。F16投入によりロシア軍が損害度外視でウクライナ領空に戦闘機を注ぎ込む、といった事態は考慮に入れておりません。
大反攻開始から現在まで、両軍の軍事的リソースと戦局の推移をレヴューして言えるのは、繰り返しになりますが、ロシア軍もギリギリで戦線を保たせている、という事。
そして、ロシアが耐えていられるのは、得意の地上戦、それもガチガチの塹壕戦に持ち込めているからです。
これは、皮肉にも、この大反攻にあたり、ロシア軍の航空支援が形になってきたのが大きい。
本来なら、諸兵科連合の航空機により工兵と機甲部隊を航空支援すべきところ、逆にロシア軍の攻撃ヘリで連携を潰されている。
工兵や機甲部隊は攻撃ヘリからの遠距離攻撃にはなす術が無い。ほぼ一方的に攻撃されるだけです。正面から戦っては勝ち目が無い。
しかし、同様に、攻撃ヘリはF16から攻撃を受けると勝ち目が無いのです。
ウクライナ側に20機のF16が有れば、攻撃ヘリは出て来れないし、出て来ても落とされます。
その上で、F16はロシア軍の地上移動目標をほぼ一方的に攻撃できるのです。
F16は1回の出撃で4・5台の戦車を目標に出来ると推計されます。20機なら100台になります。しかも、F16側に損害が生じる可能性は低い。
ロシア軍戦車などの防衛戦力に邪魔されなければ、工兵は任務を十全に全うするでしょう。機甲部隊も衝力を発揮できるハズです。
まぁ、バカ高い対地誘導兵器を使う前提の話なので、そんなパカパカ撃てるとは思いませんが、、、T62とかに使うもんじゃ無いよなぁ、、、
もちろん、これは机上の想定です。戦場の機微を数理モデル化するのは困難で想定外の事態は幾らでも起こり得る。
しかし、真正面からぶつかる戦闘を数理モデル化したランチェスターズロウズでは数の優位、装備の優位を明確に現しています。
戦車は攻撃ヘリやF16には敵いません。そして攻撃ヘリはF16に敵いません。
面を制圧する全面的な戦闘では20機では到底足りないでしょう。しかし、点で突破する機甲突破戦であれば、20機のF16には戦場を一変させる力が有るのです。
、、、まぁ、無いものをタラレバで語るのは虚しい話。
大反攻の主戦力については、詳報の出ていない面もありますが、一定の衝力を維持して進行しているのは確かな様です。
しかし、何か、もう一手が必要。




