タイムリミット
タイムリミット
一部の報告では、ウクライナ軍は大反攻の主戦力を投入したとされています。
幾つかの公開情報等からも、それらしき攻勢の動きが認められていますが、それが実際に主戦力なのかは判断が付きません。
前段階の攻勢で地雷原を突破している箇所も出てきているので、主戦力投入となってもおかしくはないのですが、若干のごり押し感も否めません。
アゾフ海への打通は、未だ100km近くあるので一朝一夕に完遂とはならないでしょうが、作戦の主目的から考えると期間が一ヶ月を超える事はないでしょう。
即ち、8月中には何らかの結果が示される、という事です。
ちなみに、戦史に残るレベルの機甲突破が実現したハルキウでは、50km余りの距離を僅か4日間で機甲部隊が抜き去りました。この時、ウクライナ軍機甲部隊は、ロシア軍拠点の後背に周りこむため弧を描くように進行しており、踏破距離は100km近くになると考えられます。
大反攻では、多重防衛ラインに支えられたロシア軍防衛部隊の反撃の中、倍の距離を抜かねばなりません。一ヶ月というのは長いと感じるかも知れませんが、相当な衝力を維持する必要がある過酷な任務です。
おそらくは、時期から逆算したギリギリの投入タイミングでしょう。
この大反攻の成否により、今後、この戦争がどの様に展開するか考察してみましょう。
まずは、大反攻の主戦力がアゾフ海への打通やメリトポリなどの兵站ラインを断つことに失敗した場合。
現在の攻勢の動きが主戦力であるか否かに関わらず、8月中に大反攻の主目的が達成されなければ、泥濘期の到来により3〜6ヶ月はウクライナ・ロシア双方共に大規模な攻勢を掛ける事は困難となります。
この間に回天とも言えるような事態でも生じない限り、来年の初夏頃までは双方の支配域に大きな変化は起きないでしょう。
その場合、ウクライナはF16の供与を待って改めて大規模な奪還作戦を実行すると考えられます。
では、大反攻が成功し、ウクライナ軍がアゾフ海へ打通を果たした場合は?
ウクライナ軍は秋の泥濘期までに打通箇所以南のロシア軍を掃討し、ウクライナ本土とクリミア半島を結ぶ地峡部までは奪還も充分に可能と考えます。
問題はその先です。
ウクライナは明確にクリミア奪還を掲げています。
このところクリミア半島で散発的に起きている破壊活動は、ウクライナ軍がクリミア半島奪還に向けた前哨戦とも考えられます。
しかし、ウクライナ本土とクリミア半島は地峡と呼ばれる狭隘な地形で隔てられており、地盤も機甲突破には向かない。
加えて、クリミアはロシアが8年余り実効支配してきた地であり、セバストポリなどはそれ以前から租借してきた事実上のホームグラウンドと言えます。
要塞化も進んでおり、例えクリミア大橋を完全破壊したとしても攻略は困難であると思います。
クリミアの手前までは充分奪還可能。
しかし、クリミア半島を大反攻の勢いのまま奪還するのは常識的に不可能、というのが私の認識です。
対して、ゼレンスキーやアメリカは妙にクリミア奪還に自信が有る様に見えます。
まぁ、クリミアの内情はロシアよりアメリカ(CIA)の方が把握しているので、驚きの突破口を突き止めている可能性も無いわけでは無い。
或いは、やはりロシア軍兵站の機能不全を見越しての自信かも知れません。
それでも現在のウクライナ軍の軍事リソースではクリミア奪還は覚束ない。
歩兵は何とかなると思います。しかし、戦車や装甲車などの公表されている数値からはクリミア奪還まで押し込める数は無い様に思えますし、ロシア海軍を抑える必要もあります。
大反攻とクリミア奪還は求められる軍の編成が異なるのです。
クリミアの兵站が完全に破綻して、ロシア軍が「こりゃ駄目だ」と撤退するならともかく、プーチンがクリミアを諦めるとは到底思えませんし、ゼレンスキーやアメリカもその辺が理解できないハズがない。
ロシア軍の兵站が傷んでいる現在(中国や北朝鮮、イランが支援をしているのが大きな不安要素ですが)、西側の支援が継続し、今年末にF16が一定数揃えば、東部戦線を抑えながらクリミアを奪還すること自体は充分可能でしょう。
2年、即ち2025年までの時間的猶予が有るなら、ロシアの軍事力低下を算に入れずともクリミア奪還が成る。そう考えています。
純軍事的に見れば、ウクライナが戦線を開戦前の状態に戻し、クリミアを奪還するのは時間の問題です。
時間の問題、正に時間が問題なのです(3度も言うことではない)。
泥濘期といった時候の問題もこの戦争に大きな影響を及ぼしますが、最終的に戦争を決着させるのは政治です。
その政治、来年は米露宇の三国とも大統領選を迎えます。ウクライナは非常事態宣言下として延期もありえますし、ロシアはプーチンに続ける積もりが有れば選挙なぞどうとでもなります。
焦点となるのはアメリカ大統領選。
アメリカ大統領選がウクライナ戦争に大きな影響を及ぼすと同時に、ウクライナ戦争もアメリカ大統領選に少なからぬ影響を及ぼすでしょう。
現時点ではアメリカ大統領選はバイデンとトランプの再戦となる可能性が高い。
そして、鉄板のトランプ支持層より反発するアメリカ人の方が多いのは確かですが、バイデンもソコに付け込めるだけのパワーがない。
この状況下、バイデンはウクライナの大勝利が欲しいハズです。
ウクライナを勝たせることは、実はそれほど難しい話では無かった。
大反攻の開始時点、20機程度の近代化改修済F16に対地攻撃用パッケージが有れば、今頃はアゾフ海への打通も達成できていたでしょう。
F16供与のお膳立てはアメリカとしてはとっくに出来ていました。訓練の開始などは9ヶ月ほど前倒しすることも可能だったハズです。
それが未だ供与に至っていない理由は、、、よく分かりません。どうにもバイデンには果断さが欠けているように思えます。
まぁ、果断さという点では、マフィアのボス然としていたプーチンにも、明らかな衰えが見えているので、高齢による影響もあるのだとは思いますが、、、
バイデンにとってのベストシナリオは、クリミアを奪還し、アメリカ主導で停戦、からの大統領選という流れです。そしてそれはウクライナにとっても同様。
バイデンがそれを意識していないとは思えない。
アメリカやゼレンスキーの自信はどこから来ている?
クリミア奪還は時間的に可能なのだろうか?
考えられるのは、、、大規模な空挺作戦?そういやウクライナにも空中機動軍が有ったな、、、しかし、これだけでは隠し玉になり得ません。
クリミアに配備されている対空兵装はそれなりの量が有ると考えられ、航空優勢の得られていない現状、空挺部隊は投入できないからです。
短期間での奪還には何かピースが足りないように感じられます。
ゼレンスキーの自信がハッタリでないなら、二つ三つの隠し玉が有るハズ。
まぁ、先ずはこの8月です。
大反攻が一定の成果を収めなければ、クリミアなど遠い話。
アゾフ海への打通が全ての起点となります。




