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東部方面

東部方面


大反攻が進められる中、ウクライナはロシア軍18万人の兵士が東部に集結していると発表しています。

発表によれば、空挺部隊といったエリート部隊を含む、ウクライナ報道官曰く「強力」な軍勢とのこと。


本稿では、この18万人の軍勢が持つ意味について考察します。


まず、この18万人の部隊構成については、機械化部隊も含まれていると発表されていますが、おそらくは一部に留まり、装甲車がメインで戦車などは少ないでしょう。

戦車など装甲の厚い戦力は大反攻への備えとして必要であり、また、軍勢が終結している東部リマン方面は森林地帯が多く、戦車の運用が限られるためです。

全体的に見た場合、機械化率は低く、装甲をほとんど持たない歩兵戦力と考えられます。


その大多数は昨年9月以降に召集された動員兵です。

部分的動員令により予備役30万人が集められたとされていますが、これまで前線に出てきたのは凡そ十数万人で、少なくとも12万人は前線に投入されていない、と見積もられていました。この、前線未投入の動員兵が東部に集結しています。


18万人と言えば、ウクライナ侵攻当初の総兵力に匹敵する巨大な兵力。インパクトは大きく感じるかも知れません。しかし、実のところ、東部に現れた軍勢は降って湧いたようなものではなく、未投入の人的リソースからある程度予想・計算されていた範疇のものです。


言ってみれば20万人規模と予想されたキーウ再侵攻の人員を東部に振り向けたものに過ぎません。

しかも、ロシア軍の兵站はキーウ再侵攻が噂されていた昨年末より格段に悪化しています。

これは、榴弾砲の砲撃頻度低下などから見ても明らかです。


ここで注目すべきは「動員兵は今まで何をやっていたか」

動員兵に対し訓練が実施されていた、と見る向きもあります。しかし、おそらくは訓練とは別の理由でしょう。


動員が開始された昨年9月以降10ヶ月が経過しており、これだけ期間が有れば基礎的な訓練を実施することも出来ますが、訓練とは最終的には擬似的な戦争に等しい。

12万人以上の動員兵に訓練を施す莫大な人的軍事リソースも物質的軍事リソースもロシアには捻り出す余裕など存在しません。


では、この10ヶ月、動員兵は何をやっていたか。

私は、この戦争でウクライナ側の戦闘が最前線における殴り合いから後方の兵站に対する攻撃に軸足を変えてきた昨年8月以降「ロシア軍は兵站の見直しが必要であり、前線を維持するには10万人の後方部隊が必要」と考えていました。

後方部隊、即ち、兵站部隊や鉄道部隊として動員兵を配置し、ロシア軍の傷んだ補給線を支えていたと考えられます。


、、、まぁ、そういう意味に於いては、散々酷評していた部分的動員令も、一面的にはロシア軍に必要であったと認めざるを得ません(渋々)。


とは言え、結果が大きく変わる訳でも無い。悪あがきが長引いたという意味で、ロシア全体として見れば傷口が広がっただけのマイナスという評価は同じ。


さて、その後方部隊、何故今頃になって前線に出張ってきたのか。

当然ながら、兵士は何もしなくても物資を消費しますが、前線では物資の消費量が6倍以上に跳ね上がり、その多くが弾薬類になります。

観測されている限り、ロシア軍の兵站が改善されている兆候は認められておらず、後方部隊の動員兵を前線に回す余裕は無いハズです。


これは主に二つの要因があると考えられます。

一つにはカホフカ水力発電所の決壊により、負担が大きかった南部方面の補給線で、負担軽減が出来たこと。

ウクライナ軍は現在もヘルソン方面で渡河作戦を含めた作戦行動を行っていますが、大規模な攻勢はかけ難い状況です。決壊後の水は引いてきてはいますが、水浸しとなった大地は再び泥濘化し、戦車などの運用は限定されます。

そして、もう一つ、おそらくロシア軍はウクライナ軍の大反攻に対応する中で、南部方面失陥を覚悟するに至ったのではないかと思われます。


昨年8月にロシア軍の兵站が傷みだしたあたりから、純軍事的に見れば、戦線を縮小し東部に集中するのがロシア軍としての最適解でした。

この場合、ロシア領とも近く兵站の負担が抑えられることから、上手く戦力を集中できていればドンバス制圧の可能性も否定できなかったでしょう。

遅まきながら、今頃になって南部を諦め、東部に一本化する、というかせざるを得ない状況に陥った。

私はそう考えています。


では、ロシア軍が東部に注力し、リマン方面に集結する事でドンバスは陥ちるのか?

無理に決まっている。


開戦当初、或いは昨年6月くらいまでであれば、東部方面に集中する事でドンバス掌握も高い可能性がありました。

しかし、事ここに至って18万人の軍勢でドンバスを陥すのは無理。

正確に言えば、東部に集結しているロシア軍18万人で、ドンバスは陥せません。


これまでも触れてきたように、この18万人の大多数は素人に毛の生えた様な動員兵です。最大の問題点は下士官が完全に不足していること。

また、空挺部隊も含まれていますが、本領であるエアボーンは航空優勢の得られていない状況では実行できず、事実上、単なる優秀な歩兵戦力に過ぎない。

ロシア軍は、この戦争の各所で、スペツナズを殿に使うなど本来の使い方とは異なる用兵で、むざむさと貴重な戦力を浪費する愚をしでかしています。空挺部隊もその一例となるでしょう。

その外にも、何というか、もはや定番となった囚人部隊の名前を「シュトゥルムZ」と言っているのを聞いて、この戦争のアレやコレやが凝縮してんなぁ、、、とおもいましたまる

シュトゥルムはストームトルーパー、即ち突撃兵の突撃の意で、Zは戦勝77年目を記念したロシア軍のマークです。しかも、それを囚人部隊に付けるロシア人のセンスすげぇ、、、もう、名前だけで末路が目に浮かびます。


まぁ、戦力的にもお察しレベルなとこに加え、リマン方面は攻めるに難い場所です。


どう考えても「判断が遅すぎる」そう評価するしかありません。

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