第1話 出会い
―2040年・東京―
賑やかな声があちらこちらから聞こえて来る。
今日は快晴で花見日和の天気だ。この春、高校3年生になった神楽森糸葉は川沿いの桜を見ようと友人たちとお花見に来ていた。
「こうやって、みんなで桜を見ながらお話しするのも楽しいね。」
糸葉と同級生の羽衣しずくが笑顔で糸葉に言った。「あっ、そうだな…」糸葉は顔を真っ赤にした。なぜなら糸葉は彼女のことが好きだからである。
「おい糸葉、顔が真っ赤になっているぞ!」
糸葉と親友の八蔵咲斗がもてあそぶように言った。
糸葉はその場から走って逃げ、人がたくさんいる方へ向かった。
「最悪だよ…羽衣に絶対バレた。咲斗の奴、絶対に許さないんだからな。」
小さい声でぶつぶつと言いながら川沿いを歩いていた。
すると遠くの方がやけに騒がしくなっていた。糸葉は何があったのか一目見ようと、騒がしくなっているところへ向かった。人だかりができているところを覗くと、人が倒れていたのだ。川に溺れていたところを近くの人が助け出したのだった。1人の男はなんとかして助けようと心臓マッサージをしていた。
突然、溺れていた人が目を開けて叫び出した。
「皆、ここから逃げろ‼︎奴が来る…奴に全員殺される‼︎」
周囲の人々は騒然とし、あたりを見渡した。すると1人の女性が川の方を指差した。
「あれは…何?」
川の中央から誰かが泳ぎながらこちらへ向かって来たのだ。そして大勢の人がいる所へ上がってきた。
「その男を俺に渡せ。」
男は青い髪の毛で、水が身体中からボタボタと出ていた。
「あなた誰よ!それを説明してからじゃないと、この人は渡さないよ。あなた、この人に何をする気なの!」
気の強そうなおばさんがここにいる全員の気持ちを代弁するかの如く、男に言った。そうすると、男はおばさんの方に向かい、胸ぐらを掴んで言った。
「俺の方こそ、あなたが誰か知らない。この件には関与して来るな。さっさとそいつを渡せ。」
「な、名前ぐらい教えなさいよ…それが筋じゃない?」
おばさんは男に目を合わせず、怯えながら言った。
「俺の名前は六角ジン、これでいいだろ?さっさと渡せ。」
「皆さん、私たちに危害が及ばないようにする為にも、この人を渡しましょう。」
おばさんはここにいる人々を説得した。皆が賛成し、溺れていた人を渡そうとしていたが、糸葉には疑問が残った。
(この溺れていた人は、六角ジンから逃げていた。もしここで彼を渡したらどうなるんだ?万が一殺されたりしたら、オレらも加害者の一員になってしまう…)
溺れていた人をジンに渡そうとしたその時、糸葉はジンに向かって問いただした。
「あの、その人を渡したら、彼はどうなるんですか?殺されたりはしないですよね?」
雰囲気は騒然とした。皆はジンと問題を起こすことなく終われると思っていたからだ。ジンは糸葉に近づいてこう言った。
「お前面白い奴だな。こいつを俺が殺すと?そんなことしねぇよ。こいつには死よりも苦しいことをする。お前名前なんて言うんだ?」
糸葉は周りに助けの視線をだした。。しかし、皆は下を向いていた。糸葉は恐る恐る言った。
「神楽森糸葉です…」
「糸葉、お前の名前を覚えておくよ。今度会ったらたくさん話そうな。」
そう言うと、ジンは手から大量の水を出した。
ヌヌヌヌッ、バッシャーン‼︎
―気がつくと、糸葉は最初のお花見をしていたところで寝ていたのだった。
「やっと目が覚めたか。糸葉、お前何したか分かっているか?」咲斗が呆れた様に言った。
「オレ…何したんだ?」
「お前が逃げたきり帰ってこないから、みんなで探したんだよ。そしたら遠くの河川敷のとこでお前寝ていたんだよ。しかも毛布付きでな!寝る気満々だっただろ?」
周りのみんなも笑いながら糸葉を見ていた。
(そうか。あの後、誰かがオレが寝ていたから毛布を掛けていたのか。というか、死んでるかも知れないんだから起こしてくれよ。まあいっか。)
「みんな悪かった。ごめんな。」糸葉は頭を下げた。そしたら羽衣が糸葉の耳元に囁いた。
「糸葉君の寝顔見れたし良いよ。しかも、糸葉君の寝顔めっちゃ可愛いかったよ。」
その一言に糸葉は元気を取り戻した。そしてまた、楽しいお花見が再開された。
一方、溺れていた男はコンクリートの冷たい部屋に囲まれていた。部屋の真ん中に机と椅子がありその椅子に座らされていて、手には手錠が付けられていた。コンコン、ドアのノックが聞こえるとジンともう1人の男がいた。
「本当、君は面倒な奴だね。まあいいよ。とことん尋問して、君の秘密を全て洗いざらい話してもらうからな‼︎」
ジンは怒りげな声で溺れていた男に向かって言った。すると、もう1人の男が言った。
「ジン、こいつの名前は君なんかじゃない。そうだろ、風浦悠平くんよ。」
第2話は続く