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第5話 シャノワ、学校に通う Aパート

 今朝の晴子姉さんは上機嫌だった。

 るんるん気分で朝食を作り、ペットのまぐろのぶつにも普段の3倍ものご飯をあげちゃって、あまりのテンションの高さに苦笑いしてしまう。


 なんでこんなに楽しそうなのか。その理由はシャノワにある。


「ねり、これ重い」


 ランドセルを背負ったシャノワが文句を垂れた。

 この子は今日から小学校に通うのだ。

 地球に来たばかりで何の常識も知らないシャノワを教育するためである。


 宇宙人といえど見た目は普通の褐色ロリ。あとは学校指定の制服とランドセルで立派な小学生の誕生である。


 戸籍やらなんやらの提出書類関係は、私の莫大な財産と影響力でどうにかした。


「文句言わないの。あんた家でテレビみてるだけなんだから、ちゃんと学校行きなさい」


「……」


 シャノワは不満そうに眉を寄せて、視線を落とした。

 スーツを着た晴子姉さんがシャノワの手を握る。


「さ、行きましょう、シャノ」


「……やだ」


「大丈夫。シャノならすぐに馴染めるわ」


 するとシャノワは手を振り払い、ランドセルを脱ぎ捨てて寝室へ逃げ出してしまった。

 まったく、どんだけわがままなんだか。


「ちょっとシャノワ」


 シャノワはベッドの掛け布団に包まって、すっかり狸寝入りをしている。

 結局その後もシャノワは駄々をこね続けて、初登校は延期となってしまった。

 晴子姉さんは「無理やり連れて行ってもしょうがない」と甘やかしたけど、さすがにこれは説教が必要だ。


 そう思ってガツンと怒ってやろうとしたとき、バーチャルディスプレイが出現し、人工知能のエラリーが喋り出した。


「ねり、一旦1人にしてあげてください。これにはわけがあるんです」


「わけ?」


「登校したふりをしてみればわかります」


 エラリーに言われるがまま晴子姉さんと家を出た後、私だけこっそり戻ってみた。

 いったいわけとは何なのか。寝室の扉を開けてみると、シャノワはいなかった。


「あれ? どこ行ったんだろ」


 ダイニングにも浴室にもトイレにもベランダにもいない。

 となると残りは……。抜き足差し足で私のプライベートラボに入ってみると、ぎこちなくバーチャルキーボードを押しているシャノワがいた。


「あ、あんた何してんの」


 シャノワはビクッと驚くなり、机の下に隠れた。

 バーチャルディスプレイには、とくに意味のない文字列が並んでいる。


「何してたのよ」


「……勉強」


「なんの?」


「……」


 シャノワが黙り込んでしまったため、代わりにエラリーが答えた。


「シャノワ様はずっと気にしていたのです。サポート係として役に立ててるかどうか。なのでここ最近、こうしてねりの真似をして自分にやれることを探していたわけです」


 真相を語られ、シャノワは恥ずかしそうに顔をそらした。

 この子が恥ずかしがるなんて初めてだ。

 というか、自分の存在意義について考えていたのも意外である。てっきり毎日ボケーっと過ごしているかと。


「なるほど。ここにいたいから学校には行きたくなかった、ってことね」


 思い返してみると、私はシャノワに結構キツく当たっていたりしたので、それがこの子を追い詰めてしまったのかもしれない。


「ごめんね、シャノワ。私のこと怖かったでしょ?」


「……別に。むしろ、凄い。ただの人間なのに、魔法使いに近い力を得てる」


「まあ、ただの人間じゃないし」


「シャノワ、サポート係として地球に来た。でも、教えることしかしてない。知ってることぜんぶ話したら、シャノワはもういらない。シャノワ、居場所なくなる」


 故郷の星を離れまったく知らない世界に飛び込むだけでも不安なのに、そこで疎外感を覚えようものなら、心がおかしくなってしまう。

 シャノワはそうならないように、行動を起こしたのだろう。

 うーむ、これはとてもじゃないけど説教なんてできる状況じゃない。


「でもシャノワは悪霊の居場所がわかるし、晴子姉さんの魔力量を把握したりできるじゃない」


「なんか、地味」


「裏方なんだから地味でもいいの」


「うーん」


「まあ、そんなに手伝いたいなら、それこそちゃんと学校行かなきゃ。地球のことをたくさん学んだら、おつかいとか、家事とかできるから。確かに目立たない仕事でも、私と晴子姉さんの助けになる」


 シャノワに近づき、目線の高さを合わせるようしゃがんで、


「あと言っとくけど、あんたはもうとっくに私たちの大事な家族よ。この家があんたの居場所。ずっとね」


 頭を撫でてやると、シャノワは目に涙を浮かべて抱きついてきた。


「ねり、今日は優しい」


「自称ツンデレだから」


 これからはもっとシャノワに優しくしていこう。

 もちろん甘やかすわけじゃなくて、必要とあれば厳しく接する。


 その晩、シャノワが寝静まったのを確認し、私は晴子姉さんに今朝のことを話した。

 晴子姉さんも私と同じ気持ちで、シャノワが秘めていた気持ちにボロ泣きしてしまった。


 シャノワは明日から学校に通う。

 勉強も大事だがまずは、心許せる友達ができることを祈る。

ノーマルねりはCカップです。

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