最終回 Aパート 再結成、チーム豊田ねり!!
オロチの長い首がムチのように亜夢二亜に直撃した。
「きゃっ!」
「亜夢二亜ちゃん!」
小さな体が地面に転がる。
傷は魔力によってすぐ回復されるが、その顔からは疲労が漂っていた。
「先生、私もう……」
「亜夢二亜ちゃんは下がってて!」
「でも先生だって……」
亜夢二亜の言う通り、晴子とて余裕はない。
あらゆる攻撃が通用せず、ひたすらの防戦一方。
おまけに、オロチが生気を吸えば吸うほど強くなっていく。
このとき、晴子の脳裏には確かに「諦め」の文字が浮かんでいた。
「どうした魔法少女? 命乞いをすれば助けてやらんこともない。いいや、そうだな、お前が頭を下げて命を乞い、忠誠を誓えば、他の者は助けてやるぞ。クックック」
「……」
「さあ、どうする?」
悩むまでもない。
これまで何度も他人を優先してきた晴子にしてみれば、自分のプライドなど平然と二の次にできる。
「ダメよ先生! 先生は人類最後の希望!! 屈しちゃ……」
「仕方ないわ亜夢二亜ちゃん。これでみんなが救われるのなら……」
「そんな!」
亜夢二亜が悔し涙を流す。
晴子が膝を付き始めた。
その所作が示すのは、魔法少女の完全なーー。
「ねえさああああ!!」
ハッと、晴子が空を見上げた。
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目を覚ました私は急いでラボに駆け込み、ロリティングスーツMk-2を着装した。
サイズの小さいパーツが、私が小さくなることで連結していく。
ロリ化が終わり、完全に装着し終わると、私は「よし!」と気合を入れた。
「ねり様、Mk-1を使用しますか?」
「晴子ねーさんか亜夢二亜に着せるって? 一時的にパワーアップはできるけど、魔力の消費量も上がって危険だからダメ。でも、代わりにアレを使うかも」
「しかしまだ試作段階では?」
「大丈夫大丈夫、どうせ成功するから」
武装の確認も済ませ、いざ出発するタイミングで、シャノワに呼び止められた。
「ねり、頑張って」
「もちろん! 安心して待ってなさい」
「ロリ田ねり〜! 僕も応援してるから!!」
「そうですね。せんせーがぶち込まれる刑務所だけは守らないと」
「まだ無罪だよ!!」
HLスカートの出力を最大にして、私は崩壊した街へ繰り出す。
晴子姉さんの下へ向かっている途中、横転した車から出られないでいる家族を発見した。
あれは……凛? 避難中だったの?
降下して、車をゆっくり元に戻すと、凛がぐったりしながらドアから出てきた。
他の家族も意識があるようだし、どうやら運良く生気を吸われていなかったようだ。
「車はまだ動くわ。とにかく遠くへ逃げなさい」
「あなたは? 迷子なら一緒に逃げましょう」
凛、他人を心配している余裕なんてないはずなのに。
この子の幼馴染でいられて幸せだな、私は。
「迷子じゃないわ。進むべき道はわかってる」
「でも、子供が1人じゃ危な……ん? あなた、どっかで……」
「おっと、じゃあね」
気づかれる前にその場を離れ、現在オロチが暴れている隣町を目指した。
やがてオロチが見えてきたころ、頭を下げようとしている晴子姉さんが目に入った。
まさか敗北宣言をするわけじゃないでしょうね晴子姉さん!
「ねえさああああ!!!!」
叫びながらハンドガンのソードモードでオロチの首を1つ切り落とす。
「ねり!!」
「ねーさん、まだ無事みたいだね。亜夢二亜も」
「目が……覚めたのね!」
晴子姉さんがものすごい勢いで抱きついてきた。
亜夢二亜も嬉し涙を流し、膝から崩れ落ちている。
えへへ、そんなに私の復活が嬉しいのか。照れるなあ。
「喜ぶのは後だよ!」
切断された首が再生される。
私たちの最終決戦がはじまった。
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手も足も出ない悪霊を前に、亜夢二亜が問いてくる。
「どうするの? ねり」
「考えがあるわ。エラリー!」
「かしこまりました」
程なくして、Mk-1のパーツがお手伝いロボットに運ばれてくる。
パーツにはあらかじめ魔力を流してあり、それらがオロチの体に取り付いていく。
すると、これまでどんな攻撃にも余裕綽々だったオロチが、苦悶しだした。
「やっぱり!」
パーツがオロチに魔力を流し込んでいるのである。
魔力は悪霊にとって毒。いくら打撃、切断攻撃を一瞬で再生できても、内側から侵食し続ける毒を打ち消すには相当なエネルギーを消耗するらしい。
「エラリー、どう?」
「はい。悪霊のエネルギーが一時的に弱まったことで、解析が完了しました。オロチには9つの核があります」
多いな!
「胴体と8つの首にそれぞれ。例え1つ潰しても、他の複数の核によって再生されるようです」
「なるほどね。だったら全部分離させるまでよ」
ビシッと、亜夢二亜を指差した。
「亜夢二亜、あいつの周りで飛び回って! とにかく引きつけるの!」
「あ、うん!」
指示通り、亜夢二亜は血を狙う蚊のように、オロチに接近しては離れ接近しては離れを繰り返し注意を引いた。
鬱陶しく感じたオロチは8つの首を使って亜夢二亜に襲いかかる。
亜夢二亜は回避とシールドでなんとか持ちこたえ、とにかくオロチを引きつけ続ける。
「ねり、まだ!?」
首はバラバラの動きで亜夢二亜を追い詰めていく。
そしてそれぞれの首の距離感が上手いこと縮まった瞬間、インパクトハンドガンのロッドモードで1つに縛り上げた。
「いまよ、ねーさん!」
「おっけー!」
晴子姉さんのステッキから大きな魔力の刃が生える。
オロチはそれを目撃すると、
「させるか!」
8つすべての首から邪気の弾を発射した。
「させてもらいます!」
晴子姉さんをも吹き飛ばす強力なエネルギー弾を、姉さんは回避しながら突撃していく。
あのときは間に合わず正面から抵抗したが、余裕があるのなら避けるのが定石である。
「てりゃあああああ!!」
光り輝く魔力の剣が、8つの首を同時に切断した。
ボロボロと落下した首や、切断面は、依然として元に戻らない。
核が分散してしまったので、再生エネルギーが練られないんだ。
「作戦せーこー! やったわ亜夢二亜! 晴子ねーさん!」
続けて落ちていった首をすべてロックオンし、HMMミサイルを射出して爆撃した。
これで核はあと1つ。
なんだよ、冷静に戦えば結構余裕じゃん!
などと調子に乗っていると、残された胴体がビクビクと痙攣しはじめた。
亜夢二亜が恐る恐る訪ねてくる。
「か、勝ったんじゃないの?」
「しょうもない悪あがきだと信じたいわね」
思わずゴクリとツバを飲み込むと同時、オロチの胴体から9本目の首が生えてきた。
「この程度で図に乗るなよ!! 遊びは終わりだ!!」




