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Bパート

 オロチによって崩壊したビルが、生気を失い道端で気を失っている男性へ落ちていく。

 まもなく潰されて死ぬ直前で、1匹のチワワが男の襟を咥え、間一髪で安全な場所へ移動させた。


 ヘルメットを被ったチワワが、人工知能に問う。


「エラリー、次は!?」


「まぐろのぶつ様、3時の方向に気絶している方がいます」


「了解!」


 まぐろのぶつが人々を避難させている上空で、2人の魔法少女が凶悪な悪霊と戦闘を繰り広げている。


「エラリー、ミドルマスターは?」


「無事、お手伝いロボットを使い自宅へ運びました」


「そうか。まさかミドルマスターが生気を失っちまうなんてな」


「はい。戦力の低下により勝算がより減ってしまいました」


「……それだけか?」


「それだけ、とは?」


「いや、なんでもない」


 いまのエラリーはかつてのエラリーとは違う。

 淡白な発言を咎めたって、仕方ないのだ。


「生気を吸われた人間はどうなる?」


「シャノワ様が仰るには、まさに生きる気力がなくなると」


「エラリー、ミドルマスターを目覚めさせる方法はないか?」


「……検索してみましょう」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 同じ頃、シャノワは自宅にて、ソファに横たわるねりの手をギュッと握っていた。

 テレビには、謎の怪物と称されるオロチと、人々を守るために戦っている魔法少女が映し出されている。


 状況は、相変わらず劣勢。

 戦場は平板町から隣町にまで及び、魔法少女の必死の抵抗も虚しく殆どの人工物が破壊され続けている。


 自衛隊も派遣されはしたが、悪霊相手にまったく歯が立たないでいる。


「ねり……」


 シャノワの瞳に涙が浮かんだとき、呼び鈴が鳴った。

 鉄一郎であった。


 玄関扉を開けると、鉄一郎は大急ぎでリビングに入り、ねりの寝顔を覗き込んだ。


「遠くから3人が戦っているのを見てたんだよ。本当にロリ田ねりがやられてしまうなんて」


「鉄一郎、避難しないの?」


「うん。僕は怪獣になったおかげで耐性がついたみたいで、生気が吸われいんだ。だからなにか手伝えないかと思ってきたんだけど……シャノワちゃん、僕にできることはある?」


「ない。シャノワもなにもできない。ただ、行く末を見守るしか」


「そんな〜。あの悪霊、そんなにやばいんだね。あの晴子さんですら苦戦するなんて」


 シャノワの目から見て、晴子はどの時代の、どの星の魔法少女より抜きん出て強い。

 魔力の塊である隕石を飲み込んだからでもあるし、彼女自身のセンスがずば抜けているからでもある。


 つまり、かつてオロチを封印した魔法少女より強いはずなのだ。

 なのに実際は、オロチに辛酸を舐めている。

 それもそのはず。現在のオロチは、過去のオロチより強大なのだから。


 百年、もしくは千年以上前に比べ、オロチが自身の能力で吸い取れる生気の量は圧倒的に多い。

 なぜなら生き物、人間の数が爆発的に増えたからだ。

 とうぜん得られるエネルギー量も比例する。


 ならオロチが求める完全体とは?

 それはおそらく、彼の理想体なのだろう。

 一瞬で星そのものを破壊できる力。それほどのパワーを手に入れた状態が、彼の理想とする完全体。

 ウーは、誰にも邪魔されず、すぐに世界を破壊できる状態でオロチを目覚めさせたかったのだろうと、シャノワは推理した。

 目覚めてまた魔法少女によって封印されてはたまったものではないから。


 だが、次々と生気を吸収していれば完全体になるのも時間の問題。

 早急な退治が求められるが、


「ねり、起きて。ねり」


 たった1つ、小さな希望すら、存在していない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夢だと判断できる夢を見ることがある。

 私の目の前に、幼い頃の私がいた。

 まだ親と暮らしていた頃の記憶だろう。幼稚園児の私は自室に籠もってずっとパソコンを弄っている。


 ちょうど大天才だと持て囃されはじめた時期だったはずだ。

 まだ心が育ちきっていないこのときの私は、人の目や、私を利用とする欲望や、押し寄せる期待が怖くて、心を閉ざし自分の世界に引きこもっていた。


 世間の何もかもを忘れて、モニターに書かれた数式を目で追っていくのがすごく幸せだった。

 昔は楽だった。頭も発達しきっていないから、都合の悪いことは簡単に脳の隅に追いやって、楽しいことだけに集中できた。


 でもいまでは、そうもいかない。

 なにをしても、常に不安や苛立ちが心から離れない。

 一時的に解放されても、すぐ現実に戻されてしまう。


 この頃はよかった。

 いっそこのまま、小さな世界で永遠に、誰とも関わらず過ごすことができたなら……。


「ねり様」


 エラリーの声が聞こえてきた。

 夢の中の私が反応していないことからするに、直接私に話しかけているらしい。

 どうやって? あぁ、いまのエラリーは私の脳みそと同化しているんだった。


「なあにエラリー。せっかく思い出に浸っているのに」


「緊急事態です」


「……」


「目を覚ましてください」


「……嫌よ」


「嫌、とは?」


「だって戦うの怖いもん。痛いし、責任も取らなきゃいけないし」


 珍しくネガティブなことを口にしてしまった。

 きっと本心なのだろう。ずっと秘めていた不満が、ふつふつと湧き上がる。


「戦うって、あとどれだけ戦えばいいの? もう嫌、疲れた。ずっとこのまま、幸せな夢だけを見ていたい」


「戦わなくて済む方法があります」


「へ?」


「逆脳波コントロールで全人類から欲を奪うのです。そうすれば、二度と悪霊は生まれません」


「……」


「いかがでしょうか」


「そんなの……」


 許されるはずがない。

 またあの悲劇を繰り返すわけにはいかないのだ。

 なのに、素直にNOとは言えなかった。

 なにもかも面倒くさくて、未来や世界に目を背けたくてしょうがない。


「それも……いいかもね」


 そのとき、夢の中の部屋に晴子姉さんが入ってきた。

 まだ20代の晴子姉さんである。


「ねりちゃん、久しぶり」


「久しぶり、です」


 当時の私はまだ晴子姉さんにも心を開いていなかった。


「ずいぶん見ないうちに大きくなったわね〜。将来は何になるの?」


「え、決まってません。……お父さんとお母さんは発明家になれって言うけど」


「発明家か〜。かっこいいわね」


「そうですか? 私は数学者の方が好きです。数字なら、頭の中だけで完結するから。発明家は、誰かのために物を作り続けなくちゃいけない」


「ダメなの? 発明するの楽しそうだけど」


「最初だけですよ。いつか人からの評価ばかり気にして、評価されるために興味のない発明品を作るようになるんです。他人のために尽くすって、果てがないから嫌いです」


「そっか〜。じゃあ数学者になれるといいわね。や、ねりちゃんなら絶対なれるわ!」


「え?」


 予想外の反応をされて、すごく驚いたのを覚えている。

 まさか肯定されるとは思いもしなかったのだ。

 姉さん以外の大人たちはみんなして、分かりやすく金になりそうな仕事をさせようと説得してきたのだ。


「い、いいの?」


「だって、そっちの方が好きなんでしょう? それに、もし何か発明したくなったら、そのとき作ればいいだけじゃない。1つの道に拘る必要なんかない。子供には無限の可能性がある。なんだってできるんだから!」


 晴子姉さんは、私を拘束するのではなく、自由を与えてくれるはじめての人だった。

 結果的に現在私は、発明家でありながら様々な分野で才能を発揮する偉大なる人物として世界に功績を残している。

 もし姉さんに出会わなければ私は、人との接触を極限まで拒絶し、世捨て人として生きていたかもしれない。


 姉さんが優しく微笑んだ。


「ねりちゃんが何者になっても、これだけは忘れないで。辛いことや嫌なことがあっても、諦めちゃだめ。ねりちゃんならきっと乗り越えられるから」


「その根拠は?」


「へ? 根拠?」


 何も考えてなかったのだろう。

 姉さんはう〜んと唸ったあと、笑った。


「私を呼べば、美味しいご飯を食べさせてあげれる!」


「ふふ、なにそれ」


 このとき、私は初めて人を好きになった。

 そうだった。私はいつだって晴子姉さんに救われてきた。晴子姉さんが道を示し、いろんなことを教えてくれた。


 最初は晴子姉さんのために始めた人助けも、いつしか心からやりたいと思ってる。


 姉さんだけじゃない。

 凛のおかげで友情の尊さを学び、シャノワのおかげでか弱い者への優しさが芽生えた。

 亜夢二亜のおかげで誰かの手を引っ張れるくらいには成長できたし、エラリーのおかげで母性を知った。


 まぐろのぶつや鉄一郎先生だって忘れてないよ。


 会いたい。またみんなに。人助けが永遠だろうが、オロチが強かろうが、私なら大丈夫。

 だって!


「エラリー、聞こえてる?」


「なんでしょうか」


「高圧電流で私を叩き起こして」


「かなり危険では?」


「平気よ。私は大天才だもん」


 1000万年に1人の逸材、フェルマーの最終定理を5歳で証明し、レオナルドダヴインチとトーマス・エジソンの子孫でありながら、最初に火をおこす方法を確立した原始人の生まれ変わりとも噂され、守護霊はあのガリレオ・ガリレイである、豊田ねり・E・ダ・ヴィンチなのだから。

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