第27話 明智紅蓮菜 Aパート
紅蓮菜の家に、怒号が轟いた。
「紅蓮菜! やる気がないとはどういうことだ!」
鬼気迫るウーに、紅蓮菜は舌打ちをして答える。
「人工知能を使った策が失敗した。別の計画を練るまでしばし休む」
「なに勝手に落ち込んでいるのだ! オロチ様完全復活の件はーー」
「無理だろ。魔法少女たちが面倒すぎる。……完全復活など夢のまた夢だな」
「な、なにを……。もういい! 好きにしろ! お前の手など借りん!!」
ウーが消え去ると、紅蓮菜は鼻で笑った。
「そうとう切羽詰まっているな。惨めなやつだ。………しょうがない、少しだけ手伝ってやるか」
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亜夢二亜の様子がおかしい。
学校に来てからずーーーーーーっとぼーーーーーーっとしているのだ。
まさかこのパターンは……恋?
亜夢二亜が? まっさか〜。
どうせ新しいゲームを夜遅くまでやってて眠い、とかでしょ?
……あ、マズイ。これ前フリになってる。
「亜夢二亜、眠いの?」
休み時間、机でボケーっと外を眺めていた亜夢二亜に、話しかけてみた。
「あ、ねり」
「なんかあったの?」
深刻そうに亜夢二亜が頷いた。
「うん、実はね……」
ここでは話せない、ということで、私たちは女子トイレに移動した。
もったいぶるじゃん。なんかドキドキしてきた。
「この前、エラリーが暴走したときに私、紅蓮菜と戦ったじゃない? あのとき紅蓮菜は、本気で私を殺す勢いだった」
「そんで?」
「でも、本気じゃなかったの。意味わからないだろうけど、そうなの。わざと急所を外したりして」
「言葉や気迫は本気なのに、行動が伴ってない。ってことでしょ?」
「そう、それ。なんでなんだろうって、ずっと考えてて」
まったく、あいつは本当に何を考えてるんだか理解できない。
敵であるのは間違いないが。
「前にね、紅蓮菜が言ったの。私のこと気に入ってるって。それと関係あるのかな」
「ふむ……。亜夢二亜は、あいつが一家心中で亡くなったの知ってる?」
「そうなの!?」
「えぇ。あいつはたぶん、それが原因で世界を憎んでる。だからあんたにシンパシーを感じたんじゃない? あんたも他人に傷つけられて世界を憎んでたし」
「そうなのかな……」
亜夢二亜は胸の前で拳を握り、目を伏せた。
「あんたは、紅蓮菜をどうしたいの?」
「私は……私みたいに、目を覚ましてくれたら、いいな」
瞬間、亜夢二亜の目が見開いた。
悪霊が出現したんすね。
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やってきたのはとある刑務所。
こんなところに悪霊って……私の予想が正しければ本日の戦いは苦戦しそうですね。
刑務所の中に突入すると、ゴリラのような見た目の悪霊が晴子姉さんと戦っていた。
すでにロリ化した私と、変身した亜夢二亜が合流する。
「ねーさん、おまたせ!」
「晴子先生、無事ですか?」
「2人とも、気をつけて。この悪霊は怪力よ!」
悪霊は「うおおお」と叫びながら手当り次第に身近なものを破壊しまくっている。
「暴れまくりたいよ〜」
なんともまあシンプルな願望だこと。
壁や牢が壊されまくれ、囚人や刑務官たちは摩訶不思議な現象に困惑しながら逃げ出している。
「よーし、こういう敵には!」
インパクトハンドガンをロッドモードに切り替える。
銃口から魔力を宿らせたロープで悪霊を捕まえ、見事動きを封じてみせる。
「大人しくしなさい!」
「あ、暴れ……」
悪霊はロープを引き千切ろうと、全身に力を込め始めた。
はっきり言って、無駄である。ロープの耐久テストは実施済み。重機で引っ張ったって切れやしないのだ。
「暴れ……暴れまくりたいよおおお!!!!」
千切れちゃいました。
「えぇ……」
ショックを受けていると、晴子姉さんがステッキを悪霊に向けた。
「わかったわねり、そうやればいいのね!」
今度は晴子姉さんがステッキから魔法のロープを発射し、悪霊を捕らえた。
いやいや、晴子姉さんや。いくら晴子姉さんの技でも、ロッドモードでも御しきれないパワーを抑えるなんて無理だって。
「暴れ……」
さあ悪霊よ、もっかい力んで晴子姉さんにも教えてあげな? あんたのパワーを。
「暴れ……暴れまくりたいよおおお!!!!」
千切れませんでした。
「よし、いけるわ、ねり!」
「あの、私が徹夜して作り上げたもんを即興でパクった上にオリジナルより優れてるのやめてくれませんか?」
とはいえ、これは好機。
一気に攻めてしまおう。
「亜夢二亜、2人で集中攻撃よ!」
「う、うん!」
だがそのとき、
「させるか!」
突如氷の刃が飛んできて、魔法のロープが切られてしまった。
直後、紅蓮菜が現れる。
「来たわね紅蓮菜!」
「ふん。相変わらず不愉快な連中だ」
紅蓮菜がチラリと亜夢二亜を見やる。
亜夢二亜は何か言いたげな様子で、紅蓮菜を見つめ返している。
「ちょっと亜夢二亜、いまは戦いに集中」
「わかってる」
ゴリラの悪霊は再度暴れだし、壁を壊して刑務所のグラウンドへ移動した。
まずい、そこには囚人やら刑務官が避難しているはずである。
私たちが追いかけると、
「ちっ、めんどうだな」
紅蓮菜も後に続く。
そして囚人たちの前に出たとき、
「紅蓮菜?」
男性の囚人が、紅蓮菜の名を呼んだ。
紅蓮菜は悪霊だが、強すぎる怨念のせいで一般人の目にも見える。
ホラー映画の悪霊と同じようなもんだ。
偶然にも紅蓮菜の知り合いがここにいるのだろう。
囚人ではあるが。
紅蓮菜が声の方を向くと、ハッと目を見開いた。
「な、なぜお前が、ここに」
「や、やっぱり紅蓮菜だったのか! 生きていたんだなあ」
「……父さん」
え! 父さん!?
だ、だって紅蓮菜の家族は彼女もろとも心中したんじゃ?
男性の囚人は嬉し涙を流している。
これは、いったい?




