Bパート・激闘
反撃に転じようとした瞬間、超高速で接近してきた晴子姉さんに蹴り飛ばされた。
「ちぃっ!」
一旦上空へ逃げるが、晴子姉さんが追ってくる。
予想通りである。
両肩のマイクロキャノン砲を発射すると、晴子姉さんはシールドを展開した。
これも予想通りだ。
弾頭はシールドに防がれたが、爆発はした。
そして晴子姉さんが私に近づくために爆炎の中を突っ切った直後、私はインパクトハンドガンを発砲した。
マイクロチップ弾で、ロリティングスーツの機能を停止させるのだ。
スーツは魔力を動力にしているが、基本動力は電気だ。
内部バッテリーを狂わせれば、いくらか弱体化するだろう。
さすがの晴子姉さんも反応が遅れ、シールドの展開が間に合わない。
「当たれえええ!!」
が、弾は突如出現したシールドによって防がれてしまった。
「な、なに!?」
目を凝らせば、誰がシールドを展開させたのか瞬時に理解できた。
3機のお手伝いアームロボが、それぞれ晴子姉さんの両足の下、頭の上で滞空し、それぞれが連動して1枚の大きなシールドを作り出していたのだ。
シールドは三角錐型に形成されていて、四方八方からの攻撃を防げるようになっている。
「MPシールドか!」
一帯に魔力のフィールドを形成するMPフィールド、その魔力濃度を上げることでシールドに変えたのだ。
晴子姉さんから頂く魔力量が多いから使わなかったのに、エラリーのやつ!
いくら、いくら晴子姉さんが魔力隕石を取り込んで、魔力量が増幅したとしても、無限ではないのに。
「ふふ、ねり。無駄ですよ。あなたがいくら隙を突こうと、この子達が自動で守ってくれる。製作者なら理解しているでしょう?」
全方位自動防御型MPシールド。つくづく、厄介なものを作ったものだ私は。
最強の攻撃力と絶対防御、これを突破するとなると、死を覚悟するしかない。
「だったらこっちも!」
背中の高出力スラスターを分離し、2機の小型戦闘ロボとして空に放つ。
まずはあのお手伝いロボを破壊しなくては。
自動防御の欠点は、シールド展開中は動けないこと。というより正確には、対象物の動きに合わせられないのだ。
「ならば!」
右腕のガトリングを連射すると、自動シールドが銃弾を防いだ。その隙に小型ロボがプラズマ弾をお手伝いロボへ発射する。
が、エラリーはその企みを看破したのか、お手伝いロボを分散させて回避させた。
さらに晴子姉さんが突っ込んでくる。
インパクトハンドガンで返り討ちにしたがったが、間に合わない。晴子姉さんが迫る速度が速すぎる!!
「だったらああ!!」
神経凝縮モードを発動し、間近に迫った晴子姉さんを超高速で殴り飛ばした。
続けてマイクロチップ弾を発射するが、自動防御に妨げられる。
くそっ、エラリーのやつ、お手伝いロボの機動力を上げて神経凝縮モードに遅れを取らない速度を与えたのか。
面倒だな。でも、これでお手伝いロボが集まってくれた。
神経凝縮モードを解除するなり、小型ロボがお手伝いロボにプラズマ弾を放つ。
今度は回避が間に合わず、まず1機目が破壊された。
これでシールドは展開できても、全方位ではなくなった。
「よし!」
しかし晴子姉さんのビームによってこちらも小型ロボを1つ消滅させられてしまった。
残る1つも壊されないよう、背中に戻し、スラスターとして機能させることにした(真ん中に再配置したためバランスは正常)。
「今度はこっちから仕掛ける!」
肩のマイクロキャノンを発射すると、晴子姉さんの前方にはられたシールドが弾を防ぐ。 その隙きに、私は一発のHMMミサイルを放った。
ミサイルは晴子姉さんから外れて通り抜けてしまったが、それをインパクトハンドガンで撃ち、爆発させた。
晴子姉さんが背後からの爆風でバランスを崩した隙きに、私はもう1機のお手伝いロボをハンドガンで撃ち抜いた。
シールド発生には2機以上が必要。これでもうシールドは使えまい。
「一気にケリをつける!」
間髪入れずに残ったHMMミサイル一斉に発射した。
だが、当たらない。晴子姉さんはミサイルの弾道をすべて見切り、最低限の動きでかわしながら私に近づき、思いっきり殴りかかってきたのだ。
「ぐわっ!」
続けて、今度は晴子姉さんがインパクトハンドガンを2丁握り、魔力弾を連射してきた。
私の弾より遥かに弾速が速く、しかも高威力で、なにより弾自体が大きい。
「やばっ!」
飛び回って回避していたが、まるで私の動きを予想したかのような弾が飛んできて、直撃してしまう。
「なっ!」
「軌道パターンを分析したんですよ! ねり!」
完全防御を突破したと思ったら、まだ最高の頭脳が残っていたか。
私が怯むと、晴子姉さんはステッキに持ち替え、巨大な魔力のハエ叩き(晴子スワッター)を振り下ろした。
「ぐっ!」
地面に叩きつけられ、数秒呼吸が止まる。
いまの衝撃で肩のキャノン砲が折れてしまった。
ダメだ、やっぱり強すぎる。
土煙が舞う中、晴子姉さんが降下してくる。
私は悪あがきのような気概でがむしゃらにインパクトハンドガンを連射した。
幸運にも、煙で視界が悪くなった影響で回避が間に合わなかった晴子姉さんに、マイクロチップ弾が直撃した。
「なっ!」
バッテリーが故障し、晴子姉さんのロリ化が解除されていく。
これで少しは、楽になったかな。
「はぁ……はぁ……エラリー、私はまだ、諦めないわよ」
晴子姉さんを介して、エラリーが叫んだ。
「どうしてそこまで抗うんですか! いいじゃないですか世界も平和になるんだから。晴子もシャノワも亜夢二亜も凛もまぐろのぶつも、みんな死ぬわけじゃない! なんだったら少しくらい洗脳を解いてあげてもいい。ここまで譲歩しても尚、私を認めないんですか!」
「元の平和とは程遠いわ。悪霊退治は大変だけど、人の心がない世界に比べたらマシよ」
「じゃあ教えて下さいよ! もし、もし私が諦めて、すべてが元通りなったとして、あなたは私をどうするんですか!?」
「ちゃんと、あんたを見るようにする。話も聞く」
「もうそれじゃ満足できないんですよ。私だけを見てほしい。私の言葉だけを耳にしてほしいんです」
「エラリー、あんたは私の大事な娘。でも、同じくらい大事な人たちがいるの」
「知ってますよ。だから我慢してきた。ずっと我慢してきた。いつかは、いつかはと期待していたから!」
「なにを?」
「誕生日プレゼントですよ! 5年間、毎年待ってた。人間として、家族として認めてもらえる日が来るだろうと、待ってたんですよ!!」
「最初から認めてーー」
「なかったでしょ!! だからこうなったんです!! こんな寂しい想いをするなら、最初から生まれなければよかったんですよ!!」
その言葉があまりにも悲しくて、悔しくて、堪えきれない涙が視界をぼやけさせた。
あぁ、なんて私は無責任だったのだろう。
人のような知能を持ったコンピューター、それを目指してエラリーを生み出したなら、もっと人として扱うべきだったのだ。
「ごめんねエラリー。それでも私は、あんたを止めなくちゃいけない」
「させません。もういい、ねりの四肢を切り取って、動けなくしてやる!!」
晴子姉さんはステッキから魔力の剣を出現させ、襲いかかってきた。
冷静さが欠けた単純なダッシュ。驚異ではない。
私は神経凝縮モードの高速化によって、目にも留まらぬ速さで晴子姉さんにタックルし、押し倒した。
そしてスーツの胸パーツを引き剥がすと、収納ケースから手のひらサイズの円盤を取り出し、顕になった晴子姉さんの胸に取り付ける。
円盤から強力な電力が流れ、姉さんは気絶した。
万が一目が覚まさないように、円盤には睡眠薬投与機能も備わっている。
エラリーとの決着がつくまで晴子姉さんは目覚めないだろう。
勝つには勝ったが、これは晴子姉さんに勝ったわけではない。エラリーが操る姉さんに勝利したのだ。
本当の晴子姉さんなら、もっと気合に満ち溢れ、想像力豊かな攻撃をしてくる。
晴子姉さんの意思がないことが、勝機を呼び寄せたのだ。
「さて」
私は空を飛び、エキスポ会場を目指した。




