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第26話 さよならエラリー Aパート・最強の敵

 ねりの作戦が失敗が終わり、高層ビルの屋上には紅蓮菜と、気絶している亜夢二亜だけが残っていた。

 この街は、いやもはや世界は、エラリーに支配されている。

 人々の意思は彼女によって統制され、生きるための最低限の食事、排泄、睡眠以外は、まるで電源が切れたロボットのように微動だにせずじっと座っている。

 ネットワークと、それを扱う人。2つを掌握したエラリーは、神にも等しかった。


 もし彼女の魔の手から逃れているものがいるとすれば、ネットが届いていない地域の者たちだけだろう。


「クク、なるほど。人はいるが、人の心がない世界か。まさかこうなるとはな。おもしろい」


 そこへ悪霊のウーがやってきた。


「紅蓮菜、これはお前の仕業か」


「別に。私は見守っているだけだよ。少し、背中を押してはやったがな」


「ふざけるな! 人の感情は生気の源。人の欲は悪霊の命! これでは強力な悪霊は誕生しない! オロチ様が復活しないではないか」


「いまいる悪霊でどうにかしろよ」


「人間の心を餌にしなければならない悪霊が多いのだぞ!」


「だからなんだ、鬱陶しいな」


「い、いったい何を考えているんだお前は! オロチ様はーー」


「世界を終わらせる。それが私の目的だと何回言えばいい? お前に協力しているのも、単なる手段の1つに過ぎない」


「キサマ……」


 ウーは顔を歪ませるなり、怒りを振り払うように消え去った。

 直後、気を失っていた亜夢二亜が目を覚ます。


「紅蓮菜……」


「起きたか。裏切り者のお前がどうなろうと知ったことではないが、これ以上痛い思いをしたくないのならここにいろ、私とな。……お前だけは助けてやらんこともない」


 亜夢二亜はぼんやりと紅蓮菜の言葉を聞いていたが、すぐに気力が尽き、再度眠りに落ちた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 はじめてエラリーと会話した日のことは、今でも鮮明に覚えている。

 マヌケな顔ですね。それがエラリーの第一声だ。昔から小生意気なやつである。

 アシスタントAIとして、エラリーは常に私の側にいた。

 辛いときも、楽しいときも、機嫌が悪いときも、すごく眠いときも、清々しい朝も、お風呂やトイレでも、エラリーは私と一緒だった。


 いつだって私を支え、励まし、ときには叱ってくれた娘。

 なのに私は、無意識のうちにあの子を道具扱いしてしまったのだ。

 感情を無視し、呼べば返事をして、頼めばやってくれる、便利な道具として。


「ねり、晴子と二亜は生きている。シャノワにはわかる」


「そっか。よかった」


 島に戻って、私は再度対エラリー用のプログラムを作成していた。

 加えて家から持ち出せたパーツと、亜夢二亜が買ってきてくれた工具や部品を組み合わせて、即席の装備を整えている。


 作戦からは、2日が経過している。

 エラリーがその気になれば、私の居場所を突き止め捕獲するだけの時間はあっただろう。

 でもそれをしないのは、エラリーの目的があくまで、『私の心を折ること』にあるからだ。


 最後の、本当に最後の抵抗を真正面から受け、その上で潰すつもりなのだ。

 そうなれば私も、さすがに諦めてエラリーの示す幸福を受け入れざるを得なくなるかもしれない。


「ねり」


「ん?」


「どうするの?」


「書き換えるだけだと、時間がかかり過ぎるし、復元もされやすい。でも完全削除なら、短時間で済む上に元には戻せない」


「エラリーを消すの?」


「それは無理。エラリーを構成する膨大なデータを消そうってなったら、それこそ世界各地にあるサーバーを同時に破壊しないと。けどそんなこと、いまの状況じゃ100%不可能」


 シャノワは話が見えず、首をかしげた。


「だから一部分だけを消す。修正すらできないほどに、消滅させる。それだったら、日本にあるサーバーに干渉するだけでいい」


 またパソコンを用いるのは避けたい。守らなくてはならないからだ。しかも送信中のパソコンそのものを操作され、強制シャットダウンでもされたらお終いである。

 なので今回は、ロリティングスーツMk-2にある脳波コントロールシステムを使う。

 元となるプログラムを作成してロリティングスーツに内蔵されている記録媒体に保存。それを脳波でエラリーに送るのだ。

 欠点を上げるなら、直接ネットワークに接続できないので、Bluetoothのように至近距離からエラリーを動かすサーバーに送信しなくてはならない。


「日本にあるサーバーは、豊田ねりエキスポの地下にある。あそこはもともと、私の巨大ラボだから。いまはテーマパークに変えちゃってるけど」


「……エラリーの、なにを消すの?」


 少し、私は沈黙した。

 言葉にするのには、覚悟が必要だった。

 削除するのは、事件の発端。原因。エラリーの行動理由である。

 つまり。


「私に関する、すべての記録よ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ロリティングスーツを着込み、大きく深呼吸をした。

 削除プログラムは完成し、スーツにも装備を追加した。

 両肩にマイクロキャノン砲、右腕にはガトリング砲を取り付けた。

 背中には高出力スラスターを2基増やし、機動力をさらに上昇させている。

 このスラスターは取り外し可能で、必要とあらば遠隔操作型プラズマ砲へと変わる。

 単機で飛行し、対象に攻撃をするのだ。


 本来、切り離したあとの操作は、それこそエラリーにやってもらいたかったけど、不可能なので脳波で操るしかない。

 

 その他、腰の収納ケースにはいくつかのアイテムを入れている。


 即席だが、充分にスーツを強化できた。

 さしづめ、フルアーマーロリティングスーツMk-2と言ったところか。

 前々から設計図こそあったが、対悪霊用にするなら晴子姉さんから膨大な魔力を奪ってしまうので、装備しなかった代物である。


「んじゃシャノワ、行ってくるわね」


「気をつけて」


 HLスカートと高出力スラスターのエネルギーを最大まで吹かしたあと、私は一気に天高く上昇した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 豊田ねりエキスポに向かう途中、エラリーが寄越したであろう戦闘ヘリが数機飛んできた。


「ふん」


 収納ケースから2つのカプセルを取り出し、インパクトハンドガンに差し込む。

 カプセルには無数のマイクロチップが入っていて、その内の1つを魔力で包み、発射する。

 チップには電子制御プログラムが納められている。

 これをヘリに着弾、装着すれば、前進以外の指示を受け付けなくなるってわけだ。


 有人兵器にはこれを使っていくことにする。


 彼方からミサイルが5発迫ってきた。

 それくらいならインパクトハンドガンの通常弾で撃ち落とせるし、なにより、


「つーよーするわけ無いでしょ」


 HLスカートからチャフを撒けば、追尾からは逃れる。


 地上にも私を捉えようとする人たちが溢れているが、そもそも空を高速で飛行しているため、手も足も出ない。


 いまの私と戦うっていうなら、生半可な近代兵器では話にならない。

 私と同じく完全自由軌道が可能な、それこそ例えば、


「あとはお前を潰せば終わりだな!」


「ちっ、紅蓮菜!」


 こいつ(悪霊)みたいな敵である。


「つくづく邪魔なやつね!」


「世界の終焉は近い。残った障害は、お前だけだ」


「目障りよ、消えろ!」


「キサマがな!!」


 紅蓮菜が手を広げ、氷球を放とうとしたとき、


「ねり!」


 亜夢二亜が出現し紅蓮菜に飛び蹴りを食らわせた。


「亜夢二亜! 無事だったのね!」


「うん! ごめん、晴子先生はどこにいるかはわからない!」


 紅蓮菜が亜夢二亜を睨んだ。


「亜夢二亜、いいだろう、お前は私が引導を渡してやる!」


「ねり、きっと作戦があるんでしょ? 紅蓮菜は私が食い止めるから!」


「ありがとう亜夢二亜」


 ここは亜夢二亜に任せ、私は再度エキスポ会場を目指した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あと2km程度で到着するというタイミングで、どこかのスピーカーからエラリーの声が聞こえてきた。


「サーバーを目指しているようですが、まさかいよいよ私を壊しにきましたか? 残念です。そんなに恨まれてしまったことが、ねりが無謀な策に命運をかけたことが」


「エラリー……」


「すべてのサーバーを破壊しない限り私は消せません。まさか、1人ですべて壊せるとでも?」


「……」


「ねり、そんなに絶望を知りたいなら最高級の絶望を与えましょう。心も体も朽ちたとき、ようやくあなたは私のものになる」


「無駄よ。もはや不安よーそ(紅蓮菜)はない」


「ありますよ」


 最後の一言は、スピーカーからではなく誰かの口から放たれたものだった。

 誰かの脳を操り、代わりに喋らせたのだろう。


 って待って、いまの声……まさか。


 頭上から、魔法少女が降りてきた。

 少女と表現するには大人っぽいスタイルだが、可愛らしい。

 エラリーがずっと私を支えていたとすれば、私は彼女をずっと支えていた。

 この世で最も戦いたくない相手が、生気を感じられない無の表情で、私を見つめた。


「うそ……晴子……ねーさん?」


 ねーさんの口を使って、エラリーが笑った。


「苦労しましたよ。晴子を手懐けるのは」


「エラリー、やめて。お願いだから晴子ねーさんを解放して! ねーさんには手を出さないで!!」


 晴子姉さんがステッキを構えた。

 最悪だ。最悪だ最悪だ最悪だ!

 まさか晴子姉さんまでも洗脳されてしまうなんて。

 気絶させたら、亜夢二亜のように抵抗力がつくだろう。でも、それは倒せたらの話。


 不可能などない最強の魔法少女に、私が勝つことが前提の話なのだ。


 いやだ、戦いたくない。晴子姉さんを傷つけたくない。


「このまま普通の晴子に戦わせてもいいですが、もっと面白いものを見せてあげますよ」


 すると、数機のお手伝いアームロボが飛んできた。

 エラリーが修理したのだろう。

 なにより驚くべきなのは、アームロボたちが手にしているものである。


「あれは、ロリティングスーツ!」


 私がかつて着ていたMk−1のパーツが、晴子姉さんに装着されていく。

 そして晴子姉さんの見た目が小学生のように縮むと、纏っていた威圧感が増大した。


「ねりがまだこれを着ていたとき、私はとても楽しかった。だってねりと一緒に正義のために戦ってたんですよ? それに私が知らなかった幼いねりも見れて……幸せだった」


 確かに、あの頃はエラリーのサポートがなければ倒せなかった敵が、たくさんいた。

 何かあればすぐエラリーに指示を出して、共に困難を突破してきた。

 まさに、一心同体になっていたのだ。


「エラリー、それは今だって!」


「脳波コントロールシステムなんて作っておいて、よく言いますよ。めっきり私に頼らず、自分だけで解決させるようになったくせに」


「そ、それはエラリーに負担をかけたくないから……」


「もっともらしい言い訳をしないでください。……まあ、もうどうでもいいです。いまからMk-2をぶっ壊すんですから!!」


 晴子姉さんのステッキから、巨大なビームが発射された。

 

「ぐわっ!」


 ビームに飲まれ、私の体がビルに叩きつけられる。

 これまで、晴子姉さんのビームを喰らったことは2回ある。

 だけどそのどちらよりも、今回のビームは強力だった。


 それもそのはず。ロリティングスーツには身体能力を圧縮、凝縮して強化する作用がある。

 つまり晴子姉さんの魔力も、超高密度になってパワーが増したのだ。

 確実に、本来の晴子姉さんより強い。


「さあ、来てください、ねり」


「くそっ!」


 やるしかないのか。晴子姉さんを助けるためにも、戦うしかない。

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