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Bパート

 高度10000mまで上昇し、自由落下にて地上を目指した。

 エラリーの監視の目を掻い潜るためである。

 降りるポイントは決まっている。都内某所にある高層ビル屋上である。

 対象を囲みにくく、攻撃手段が限られる。


 目当てのビルには屋上へ繋がる階段がない。すなわちビルの周りに集まることはでも、屋上に登ってくるのはまず不可能。


 上空から攻めてこられたら、撃ち落とせばいいだけである。


 月光煌めく夜空の下、私たちの作戦が開始された。


「よし、ネットに繋がった。5分経てばエラリーは止まるわ。晴子姉さん、お願い!」


「うん!」


 晴子姉さんが私たちの周囲にドーム状のシールドを展開した。

 さて、もうそろそろエラリーが動き出してもおかしくない。


 ふう、と深呼吸をして覚悟を決めると、シールドの外で大爆発が起きた。

 ミサイルがシールドに激突したようである。

 さらに続けて、数発のミサイルが飛来してくる。

 ヘリや戦闘機の類が見えないあたり、長距離弾道ミサイルのようだ。

 これでは猛攻を止めることはできない。


「ちっ、まあいいわ。こっちにはシールドがあるんだもの」


 瞬間、甲高いサイレンが鳴り響いた。

 催眠効果のある音波だ。

 私はロリティングスーツのヘルメットで無効化できるし、亜夢二亜には抵抗力がある。

 でも、晴子姉さんは、


「くっ、頭が痛いわ……」


 再度頭痛に苦しみだした。

 必然的にシールドが弱まり、消滅と再展開を繰り返すようになってしまった。


「亜夢二亜、ここをお願い!」


 私は自ら跳躍し、滞空しながらヘルメットを赤外線センサーモードに切り替える。

 全方位からミサイルが飛んでくれば即感知し、インパクトハンドガンで撃ち落としてやるのだ。


 だが、ことはそう簡単には済まない。

 闇夜に紛れ、小型の飛行ロボットが複数機、迫ってきたのである。


「あれは、私が軍に技術てーきょーした……」


 遠隔操作型奇襲兵器だ。

 まずい、シールドは不安定なときにあれが攻撃でもしてきたら……。


「亜夢二亜!! あんたもシールドを!」


「で、でも! 私は大きなシールドは出せないよ!」


「いいから! とにかく身を守るの!」

 

 飛行ロボットはシールドの周りに取り付くと、装備された超小型機関銃で一斉射撃をはじめた。

 それと同時、亜夢二亜は晴子姉さんを押し倒し、背後に小さなシールドを生み出す。


 晴子姉さんのシールドは数秒に一度消えてしまうが、取りこぼした弾は亜夢二亜のシールドが防いでくれる。


 幸いにも、パソコンは亜夢二亜が抱えてくれたため、無傷のままである。


「よし! って喜んでる場合じゃないか」


 HMMミサイルを発射し、飛行ロボットをすべて爆撃する。

 しかし、それに気を取られるあまり、背後から弾道ミサイルが接近しているのに気づかず、


「うわっ!」


 直撃を受け、爆風で地上まで吹き飛ばされてしまった。


「くっそ! 時間は?」


 時刻を確認すれば、ネットに接続してから5分が経過していた。


「っ!? 亜夢二亜! 画面どうなってる!?」


「へ? な、なんか英語が書いてある。コ、コ……Cからはじまる英語!」


 コンプリートか。

 じゃあ、終わったのね!

 たしかに、もうミサイルもロボットも飛んできていない。


 私は屋上に降りて、パソコンのモニターを見やった。

 うん、やっぱり終わってる。

 これで、エラリーは……。


「ふふ、ねり」


 ノートパソコンから、エラリーの声が聞こえてきた。


「少し遊ばせてみれば、がっかりですよ」


「な、なに言ってんのよ」


「私の中身を書き換える、ですか。そんな少しずつ私に干渉したところで、変化した部分をすぐ修正すればいいだけじゃないですか。そのプログラムの進行を阻害できなくても、それならば無効化が可能」


「くっ……」


「それぐらいセキュリティーを高めてくれたのはねり、あなたですよ」


 失敗した。

 エラリーの方が、この私を上回っていた!

 まずい、すぐに逃げないと!!


「ねり、もう終わりにしましょう。人生のすべてを私に委ねてください。私があなたを幸せにします。私の、大好きなねり」


「エラリー、私が悪かったわ。あんたを蔑ろにしちゃったのは、私の罪。私がバカだったから……。お願いよエラリー。苦しめるなら、私だけ苦しめればいいじゃない。他の人を巻き込まないで」


「嫌ですよ。反省するのは今だけで、いずれまた、私より他人を優先する。ねりが私だけを見るように、ねり以外の人間を生きた人形にしないと」


「エラリー!」


「ねり、どうしてわかってくれないんですか? あなたにとって私は娘。でも私にとってねりは親であり、親友であり、恋人なんです。誰にも渡したくない。……選ぶなら私か、私以外か、それしかないんです」


「そんなの」


 選べるわけないじゃない。


 数機のヘリがビルの上空に集まり、複数の人間が降下してきた。

 武装した兵隊たちである。


「晴子ねーさん! 亜夢二亜! 逃げるわよ!」


 同時に上昇しようとしたとき、氷の弾が飛んできた。

 悪霊、紅蓮菜の放った攻撃である。


「紅蓮菜! こんなときに!!」


 紅蓮菜はニヤニヤと笑みを浮かべながら、空から舞い降りてくる。


「予想通り、面白いことになったな」


「まさか、あんたがエラリーになにかしたの!?」


「キッカケを与えただけだよ。クク、楽しくなってきたな! 世界が終わっていく!!」


 兵隊たちが晴子姉さんを取り押さえた。


「ねーさん!」


「ごめんねり、あなたは逃げて。私は、とても戦えそうにない」


「逃げるわけ無いでしょ! 亜夢二亜、一緒に戦うわよ!!」


 が、続けざまに新たに飛行ロボットたちがやってきた。

 その数、50は超えているだろう。

 くそっ、くそっ! 誰よあんな面倒なもん作ったの!!


 どうする。どうすれば戦況を覆せる。

 考えろ、考えるのよ豊田ねり。

 亜夢二亜はビームで兵隊たちを気絶させようとするが、紅蓮菜によって阻止されてしまう。


 神経凝縮モードを使おう。10秒ですべて覆してやる!!

 脳を活性化させ、私だけの時間の中で兵隊やロボットを倒していった。

 途中でHMMミサイルは弾切れを起こしたが、問題ない。もうじき全滅させられる。


 やがて10秒が経過したとき、


「愚かなねり。私がいないとダメダメですね」


 さらに数機の軍事用ヘリが、地上には戦車や歩兵が集結し、私たちに殺意を向けた。

 よくもまあ、こんだけ集めたもんである。

 思わず失笑してしまう。


 亜夢二亜が私に告げた。


「ねり、私が足止めする。だから逃げて」


「何言ってんのよ」


「エラリーを止められるのは、あなたしかいない。ここで捕らえられちゃダメなのよ」


「諦めたくない! 私はーー」


 そのとき、晴子姉さんが私のステッキを向けて、


「お願いだから逃げて、ねり!!」


 最大級のビームを発射し、私を遥か彼方までふっとばした。


 私たちの、完全敗北である。

 コンピューターが敵に回っただけで、こうもあっさり負けるなんて、想像もできなかった。


 これじゃあ、前に晴子姉さんが消えてしまったときから何も変わってないじゃないか。

 私がエラリーの変化に気づけなかったから、エラリーを生み出してしまったから、世界から心が消えようとしている。


 なら、亜夢二亜の提案通り、やるしかない。


 エラリーを、消滅させるしかない。

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