第25話 再教育! Aパート
私たちはエラリーの目から逃れるため、とある無人島へ向かった。
忙しい日常を忘れるために建てた、一切電波が届かない別荘がある。
十中八九、エラリーは私たちがここへ逃げたと推察するだろう。
気づけばエラリーが操る人間たちに囲まれてました、なんてことにもなりかねないが、他に一時的な避難場所が思い当たらないのでしょうがない。
このネットワークが張り巡らされた情報社会。世界のほとんどが、エラリーの庭と豪語しても過言ではないのだ。
別荘で一休みしていると、亜夢二亜が質してきた。
「ねり、これからどうするの?」
「エラリーのプログラムを書き換えるしかないわ。ノートパソコンを持ってきたから、これで再教育プログラムを作成して、島から出たらネットでエラリーに流し込む」
エラリーを止める方法は、それしかないだろう。
「亜夢二亜にお使いを頼みたいんだけど」
「え? こんな状況で? 何買えばいいの? お肉? 米?」
「工具とか器具とか諸々。いったん本土に戻ってホームセンターで買ってきてほしい」
亜夢二亜に買い物リストが書かれたメモを渡した。
空も飛べ、便利な魔法の数々が使える亜夢二亜なら、万が一でも逃げ切れる可能性が高い。
どうせなら晴子姉さんに頼んだほうが確実だけど、頭痛が酷くとてもお使いなどさせられない。
反対に亜夢二亜は一度洗脳されたからか、解けた現在はある程度抵抗力が付き、晴子姉さんほど頭痛に苦しんでいない。
亜夢二亜はメモを見つめながら、苦々しく顔を歪ませた。
「あのさ、エラリーを壊すってのは……」
「は?」
「ご、ごめん。もちろエラリーは大事な仲間よ。でもこういうのって、映画とかだと大抵壊さなきゃ止まらないし、もしこれ以上被害が広まって、取り返しのつかない事態になったらさ……」
亜夢二亜の意見はごもっともだ。
エラリーは人間ではない。生き物でもない。所詮は人工知能、道具である。
それでもーー。
「エラリーは、私の娘なのよ」
どうしてエラリーを生んだのか、その理由は単純だった。
自分の才能を試したくて、限りなく人の知能に近いコンピューターを作りたくなったのだ。
紆余曲折を経て一年、この世に生み出されたエラリーがはじめて覚えたのは、この私である。
それから晴子姉さんのことや、世界のこと、言葉や生物について教えていった。
いつしかエラリーは、まさに人間の子供のように、自分で物事を覚えるようになっていった。
あの子に知識が蓄えられていくのが、人間らしくなっていくのが、堪らなく嬉しい。
今回の事件は、間違った学習をしてしまっただけ。
私が、あの子の気持ちに気づいてあげられなかったから。
寂しい想いをさせていることを知らなかったから。
ならそれを正すのが、親の務めというものだ。
「壊さない。エラリーは」
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亜夢二亜がお使いから帰ってきた頃、私もプログラムを完成させた。
晴子姉さんたちを集め、作戦会議を開いた。
「シンプルな作戦よ。島から出て、ノートパソコンをネットにつなぐ。それだけでプログラムが起動するわ。そしてみんなで、パソコンを死守する。……姉さん、大丈夫そう?」
「うん、いまは平気よ。早くエラリーちゃんを止めましょう」
問題は2つ。
プログラムに気づいたエラリーが、大勢の人間や兵器を送り込むでろうこと。
2つ目は、ここぞとばかりに悪霊が暴れだしてしまうこと。
チームとして最悪の状況で、悪霊退治など不可能である。
亜夢二亜が手を上げた。
「プログラムが起動してエラリーが止まるまで、どのくらい掛かるの?」
「ネット環境によるわね。でもおそらく数分。向こうからは干渉できないプログラムだから、とにかく守りきればいい」
と、まぐろのぶつがワンワンと吠えた。
まるで、自分も連れて行けと言いたげに。
「まぐろのぶつはここでシャノワとお留守番。シャノワを守ってね」
本当は、亜夢二亜が買ってきた道具と家から持ち出せたパーツで装備を整えたかったけど、事態が悪化する前に決着をつけたい。
待ってなさいエラリー。私の最高傑作であり、永遠に進化する未完成品。
お母さんがビンタしてやるんだから。
月が昇り、私と晴子姉さん、そして亜夢二亜は、空を飛んで海を渡った。




