Bパート
亜夢二亜がビームを撃ってくる。
跳躍して回避したのち、
「ロッドモード!」
インパクトハンドガンの銃口からロープを発射して、亜夢二亜を捕らえた。
本来なら魔力を流して悪霊にダメージを与えるが、相手は魔法少女なので魔力による攻撃は意味がない。
その代わりに、
「物理は効くってわけよね!」
電気を流して亜夢二亜を痺れさせた。
念のため、対悪人用に搭載しておいた装備が、こんな形で役立つとは予想していなかった。
亜夢二亜は痙攣を起こし、背中から倒れていく。
晴子姉さんならまだしも、亜夢二亜程度ならこんなもんだ。
「エラリー、聞こえてるんでしょ! いますぐみんなをかいほーしなさい! 私が悪かったなら謝るから!」
見知らぬ人間たちが、ぞろぞろと私のもとに集まってきた。
生気のない者たち。
彼らはそれぞれ言葉を紡いで、エラリーの意思を伝えた。
「ねり」
「知能が下がってしまったのですか?」
「解放すれば、その人間たちはいずれ悪霊となるかもしれない」
「永遠に悪霊と戦っていたいのですか?」
ちっ、気味が悪い。
「人の心を大事にしない世界なんて、なんの価値があるの!」
「ならば、心を宿してあげましょう」
囲んでいた人々が笑い出す。
アハハハとわざとらしく、まるで合成音声のよう。
さらに人が集まってきた。
同じくわざとらしく泣いたり、怒ったり、とても心の底から湧き上がっている感情とは思えない。
「やめなさいエラリー!!」
「もう手遅れですよねり。ねりのために、いずれ全人類が私に支配される。魔法少女だろうが、なんだろうが」
「あっ、晴子ねーさん! シャノワ!」
2人もエラリーの手中に?
くそっ、家に帰らなくちゃ。
私はロッドで捕獲した亜夢二亜を抱え、HLスカートのスラスターを最大出力にして空を舞った。
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家では晴子姉さんが、お手伝いアームロボたちと戦っていた。
エラリーがロボに命令したのだろう、晴子姉さんを倒せと。
ひとまず、晴子姉さんが洗脳されていなくてよかった。
でも、どこか様子がおかしい。酷く頭痛に苦しんでいて、戦いに集中できていない。
ワンワン吠えながらロボットに突進しているまぐろのぶつの方が、まだまともに戦えている。
ていうかまぐろのぶつ、あんた以外に頑丈なのね。それどころじゃないけど。
「ねーさん!」
「ねり! 帰ってきたのね! エラリーちゃんが!」
「知ってる」
インパクトハンドガンでお手伝いロボを破壊し、背負っていた亜夢二亜を降ろした。
部屋が静まり、寝室に避難していたシャノワがやってくる。
「ねり」
「シャノワ、へーき?」
「うん。なんともない。たぶんシャノワは、普通の人と体が違うから」
脳みそはあっても構成物質が魔力だから、催眠が効かなかったのか?
とするならば晴子姉さんも、一度脳含め、肉体すべてが魔力で復元されたから、催眠にかかりづらいのかもしれない。
おそらく頭痛は、抵抗している証なのだろう。
エラリーの悪意と晴子姉さんの意思が、脳内でせめぎ合っているのだ。
「ねーさん、だいじょーぶ?」
「頭が痛いわ。気を抜くと意識が持っていかれそうになるの」
魔法少女の超回復能力でも頭痛が治まらないとは、余程エラリーの催眠が強力ってことか。
気絶していた亜夢二亜が目を覚ました。
「あれ? ここ、ねりの家……?」
「亜夢二亜、洗脳が解けたのね」
「私、なんでここにいるの? いたっ! なんか頭がズキズキする」
亜夢二亜に状況を簡単に説明しながら、私は必要になりそうなアイテムをバッグに詰めまくった。
「じゃああの声は、やっぱりエラリーだったんだ」
「声がしたの?」
「うん。変なサイレンが鳴って、そのときエラリーの声がしたの。『ねりの幸福のために、眠りなさい』って。エラリーは仲間だし、警戒しないでその声を聞いてたら、いつの間にかここに」
完全に催眠で堕ちちゃったわけね。
「ねり、エラリーちゃんを止める方法はないの?」
「プログラムを書き換えるしかない。まずはーー」
「ねり!」
窓際にいた亜夢二亜が叫んだ。
「ヘ、ヘリが!」
まもなく、空を切るプロペラ音が聞こえてきた。
つられて顔を向けた瞬間、思わず腰を抜かしてしまった。
ミサイルを搭載した数機の軍用ヘリが、家へと近づいてきているのだ。
「な、なによあれ」
インパクトハンドガンで撃ち落とすか? ダメだ、操縦している人が巻き込まれる。
ならシールドを……お手伝いロボが壊れてなきゃ展開できるけど。
晴子姉さんはまだ頭痛が酷いみたいだし、亜夢二亜の力じゃ完全には防ぎきれない。
部屋にエラリーの声が響く。
「私にも良心があります。ねり次第ですが」
「あんた……いい加減にしなさいよ! 私をどうしたいの? これが私の幸福だとか本気で考えてないでしょうが!!」
「なにを仰っているのか理解できませんね。あなたが作り上げたのでしょう、最高の頭脳を持ったAIに。ミスなどしません。間違っているのだとすれば、ねり。あなたです」
「いったいいつからそんなことを!」
「……はじめは、凛の台詞をスマホ越しに盗み聞きしたときでしょうか。彼女は告げました。自分がねりの一番が良いと。そのとき、つい笑ってしまったのです。何も知らないただの友人の分際でとね。あとは、時のまま、感情が育っていっただけ」
小さな嫉妬心が、巨大な独占欲へと変化したってわけ?
さすがは人間に劣らぬ知能だこと。
「さあ、ねり。どうしますか? もはや私としては、ねりの幸福を邪魔する者たちの命など、なんの価値もないのですけど」
玄関扉が勝手に開いた。
エラリーがロックを解除したのだろう。
生気のない警察官たちが、拳銃を手にしながらぞろぞろと入ってきた。
「認めてください、私が唯一で絶対だと。私が提案する平和な幸福を」
ふとシャノワを見やれば、幸運にもまぐろのぶつを抱きかかえていた。
私はシャノワの腰に手を回し、晴子姉さんと亜夢二亜にボソッと告げる。
「飛ぶよ」
ヘリがミサイルを発射すると同時、私たちは窓を突き破り空へ逃げた。
放たれたミサイルによって、思い出がたくさんつまった我が家を爆破する。
「シャノワ、しっかり捕まってて!」
私と、晴子姉さんと、亜夢二亜がいればどんな悪霊だって倒せる自信があった。
なら悪霊以外なら? 答えはわからない。
立ち向かうべきは私自身の才能。私の分身。私の娘。
覚えてなさいよエラリー、全力で引っ叩いて再教育してやる!!




