第23話 単なる道具 Aパート
ウーの耳に、キーボードを叩く音が聞こえてきた。
紅蓮菜がパソコンで作業をしているようである。
パソコンにはUSBケーブルを用いてスマホが接続されていた。
「なにをしている」
「私とて情報社会で生きた若者。ちょっとしたイタズラくらい他愛もないのだ」
「イタズラ? 悪霊はパソコンでは動かないぞ」
「わかっているうるさいな。ほんの少し試すだけだ。……物事は、映画のようにいくのかどうか」
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期末テストが終わり、私と亜夢二亜は夏休みに突入した。
高2の夏休みは人生で一番楽しいと聞いたことがあるが、例に漏れず私にとっても特別な夏になりそうである。
近々私の才能を知らしめる万博、豊田ねりエキスポが開催されるのだ。
私の生い立ちや数々の発明品の紹介はもちろんのこと、私がプロデュースしたアトラクションやらパフォーマンスイベントなどなど、お楽しみ要素が目白押しである。
現在その準備に追われて忙しい日々を送っているのだが、今日は違う。
「はいはーいお手伝いロボたち、サクッとやっちゃって〜」
プライベートラボにて、お手伝いロボたちが私を囲み、衣服を着替えさせる。
着るのはロリティングスーツではない、浴衣である。
お気に入りの紺色の浴衣を身に纏い、気分がアゲアゲになったところで、晴子姉さんとシャノワが入ってきた。
「待たせちゃったわね〜。ねり」
2人とも浴衣姿で……ドゥワ! 晴子姉さん、浴衣のサイズが小さめで体のラインがくっきり描かれてしまっている!
エッチすぎるでしょうが!! こんなのが世に出た日には世界中の生き物という生き物が発情してしまい高まる体温によって地球温暖化が助長されてしまう!!
イケない、これでは生物兵器だ。私が責任を持って拘束、観察をしなくては。
「どうねり? シャノの浴衣は」
「あ、うん。可愛いじゃん」
シャノワは嬉しそうに微笑んで、私に抱きついてきた。
「動きづらいけど、我慢してよかった」
まったく、こいつ最近私のこと好きすぎるでしょ。
「じゃあ行こっか、花火大会」
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マンションの前には凛がいて、合流するなり晴子姉さんに頭を下げた。
「お久しぶりです、晴子さん」
「本当に久しぶりね〜」
凛は浴衣ではなく、普段通りの夏服を着ていた。
曰く、動きやすいしセクシーだから、とのこと。
「でこっちが、シャノワちゃん? 子役になれるくらい可愛いね」
シャノワは私の後ろに隠れ、小さく会釈をした。
「どうも」
土手に着くと、多くの屋台が立ち並び、人々が群れを成して往来していた。
人混みは好きではないが、これもまあエキスポの予行だと思って、慣れておこう。
「シャノワ、はぐれないようにしなさいね」
「うん」
「晴子姉さんもね」
「え? 私? 私なら大丈夫よ〜」
いいや一番不安だね。どこで誰がいつ晴子姉さんを誘拐しようと企んでいるかわかったものではない。
晴子姉さんのエッチな体は私が守護らないと。
「私、そんなに子供っぽいかしら?」
さて、花火が打ち上がるまでまだ1時間はある。とりあえず、最後の1人を捜しましょうか。
スマホで通話をかけて居場所を話すと、結構近くにいるようであった。
でも残念、あいつは小学生レベルのチビだから人混みに埋もれてしまっていて、まったく見えない。
「ねり」
何者かが私の袖を掴んだ。
「あら亜夢二亜、いつからそこに?」
「小さくて悪かったわね」
これにて全員集合である。
晴子姉さん、シャノワ、凛、亜夢二亜。私の大事な人たちであり、私を大事に想っている者たち。
頼むから今日くらいは、平和に過ごしたいものだ。
とその瞬間、凛以外のメンツがハッと空を見上げた。
「「「悪霊!!」」」
なんでこう、私の人生って上手く行かないかな〜。
「凛、シャノワをお願い!」
「え? どこ行くの?」
「連れション!」
「3人で!?」
晴子姉さんと亜夢二亜が悪霊がいる方角へ走り出すと、私も追いかけた。




