第22話 まぐろのぶつVS犬の敵 Aパート
お久しぶりです。
エラリーです。
話が主、豊田ねりが創造した最高の人工知能です。
みなさんお忘れでしょうが、私は普段ねりの代わりに国際会議に出席したり、プレゼン資料を作成したり、メールのチェックをしたりと、第2のねりとして仕事をしているのです。
当の本人はといえば、本日は我が家のダイニングで晴子さま、亜夢二亜さまを交えて作戦会議をしています。
「理解した亜夢二亜?」
「う、う〜ん」
「ねり、さすがに3000通りに変化する作戦なんて私も亜夢二亜ちゃんも覚えられないわよ」
「だからパターンは大きく分けて4つなんだって」
ちなみに私は1回の説明で瞬時に把握しました。
「しょうがない。2人とも、少し休憩しよう。エラリー、アレお願い」
「かしこまりました」
ダイニングにクラッシック音楽を流しました。
ねりたちは美しい音色で瞬く間に癒やされ、緩んだ表情で芸術に浸っています。
すばらしい音楽の力、だけではありません。
脳にリラックス効果を与える特殊音波を織り交ぜているのです。
ねりがロリティングスーツMk-2に脳波コントロールシステムを組み込んだ際の副産物として、逆にデータが脳に作用するシステムを生み出したのです。
いっそこれを悪用してねりとの上下関係を逆転させたいですね。
なんせ最近はめっぽう構ってくれなくなりましたから。
「あの、ねり……」
「エラリー、いま休憩中だからあとにして」
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「なるほど、それで俺と遊びに行きたくなったわけか」
私はお昼寝中だったまぐろのぶつさまを外に呼び出し、戦闘用ヘルメット被せ、街のパトロールをはじめました。
小さな悪霊がいたら退治する、という名目ですが、本当は愚痴を聞いてもらうためです。
「ねりは私をぞんざいに扱いすぎです。いつかボイコットしてやりたいです」
「仲間が増えたり、スーツがMk-2になって、お前を頼る機会が減ったからな。寂しいんだろ?」
「寂しい? ……すみません、そんな子供みたいな理由で」
「構わねえよ。女の子の些細なストレス解消に付き合ってあげる余裕が、男には必要だ」
相変わらずダンディズム溢れるチワワですね。
「さて、どこへお散歩しようか」
「日向ぼっこに最適な場所を検索します。……ん?」
一匹のドーベルマンが走って近づいてきました。
「なんでしょう、あの犬」
「俺の舎弟だ」
「舎弟!?」
ドーベルマンがチワワにひれ伏しているってことですか?
確かにまぐろのぶつさまは魔法パワーで強いですけど、ドーベルマンとしてのプライドってもんはないんでしょうかねえ。
ドーベルマンはまぐろのぶつさまに向かってワンワンと吠えだしました。
「まぐろのぶつさま、何と仰っているのですか?」
「ずっと俺を捜していたらしい。なんでも、ここら一帯の犬どもが痒みに苦しんでいるんだとよ」
「ダニですねきっと。ちゃんとシャンプーすればいいんじゃないですか?」
「それがどんなに洗っても、薬を塗っても痒みが引かないらしい」
補足するように、ドーベルマンはキャウンキャウンと鳴きました。
「なるほど。俺なら摩訶不思議な現象を解決できると踏んだわけか。いいだろう、その犬たちを集めろ」
指示され、ドーベルマンは走り去っていきました。
それにしても、決して消えない痒みとは、新種の病気か何かでしょうかね。
悪霊の仕業という可能性は……ありえませんね。犬に痒みを与えることを目的とした悪霊とかニッチすぎます。
というわけで最高の人工知能エラリー、本日は獣医さんになっちゃいます。
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向かったのはとある公園の草むら。
そこに大小様々なワンちゃんたちが集まっていました。
みな足で耳の裏をかいたり、背中を地面に擦りつけて痒みと戦っていました。
「エラリー、さっそく診てやってくれないか」
「かしこまりした」
ロリティングスーツや、まぐろのぶつさまが被っているヘルメットには超小型カメラがついています。
望遠、赤外線センサー、サーモグラフィー等々、様々な機能が搭載されているのです。
それらを駆使して犬たちを診察したところ……。
「い、異常はありません」
「そんな馬鹿な。本当かエラリー?」
「掻きむしったせいで皮膚が炎症していますが、痒みの原因となるものはなにも……。血液検査をしてみますか?」
「……悪霊の仕業って可能性は?」
「そんなまさか。あるわけないじゃないですか。たかが犬の痒みぐらいで大げさな。まあ一応霊可視化モード使ってみますけど。……まったく、まぐろのぶつさまってば早とちりが過ぎますよ〜……ってホンマや!」
いました、取り憑いていました。小さな悪霊が犬たちに!
1mm以下のピョンピョン跳ねる気味の悪い虫ども。
存在するはずがないと高を括っていたダニの悪霊です!!
悪霊だからシャンプーや薬じゃ退治できなかったんですね。
「何匹だエラリー!」
「5、10、いや、50匹です!! いまアイシールドにも映します!」
「……こいつは、困ったもんだな」
ダニの悪霊たちは私たちの敵意を感じ、一斉にこちらを向きました。
いくら巨大な個であろうと、軍の前では川に流される石ころ同然。
私とまぐろのぶつさまに緊張が走ります。
「気合入れろよエラリー、こいつは戦争だぜ!」
ダニたちがまぐろのぶつさまへ跳躍しました。




