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Bパート

 デート当日。

 晴子姉さんは成人式かよってくらい朝早くから準備をして、徹底的にオシャレをして、正午、デートへ向かった。

 集合場所である駅ではすでに中川時雨が待っていて、彼を見つけるなり晴子姉さんは小走りで駆け寄った。


「すみません、おまたせしました」


「うわ、びっくりした〜。すごく綺麗な人が来たと思ったら晴子さんだったんですね」


「そ、そんな、綺麗だなんて……」


 な、なんだあ? こいつ!

 いきなり晴子姉さんを喜ばせてんじゃないよ。


 ところで、本日わたくしは晴子姉さんの許可得て尾行をしています。

 身内にイベントがあるとすぐ尾行する女、豊田ねりとお呼びください。


 それから晴子姉さんたちはイタリアレストランで昼食を食べたあと、映画館に入っていった。

 本日の予定では映画を鑑賞後にショッピングして、夕食を食べたら解散、らしい。

 急遽決まったデートであるため、デートプランは至って平凡。ただ一点心配なのは、いつ帰るのかってところ。

 まさか朝帰りなんてしないでしょうね。


「感動的な映画でしたね〜」


「俺、あの監督の映画好きなんですよ。最後の伏線の回収の仕方とか、少しホロ苦い終わり方とか、たまんないです」


「映画がお好きなんですか?」


「はい。あとバイクが好きで、休日はよく遠くまでドライブしてます。あ、今度一緒にどうですか?」


「私バイク持ってないですよ?」


「サイドカーが付いているのがあります。隣に乗せますよ」


「サイドカー、ですか……」


 目をキラキラ輝かせて、晴子姉さんは遠くを見つめた。

 きっと頭の中は海辺をドライブする妄想でいっぱいなのだろう。


 その後2人はデパートに入り、ショッピングを楽しんだ。

 晴子姉さんはとても幸せそうな表情で、覗き見をしているのが申し訳なくなる。


「なにやってんだろ、私」


 ふと冷静になると、罪悪感が胸を締め付けた。

 これは晴子姉さんの人生で、はなから私がとやかく言う資格はないのだ。

 帰ろう。そう晴子姉さんに背を向けたとき、デパート内に女性の声が響いた。


「時雨!」


 20代前半の若い人で、突如現れては涙混じりに中川時雨の腕をがっしり掴んだ。


「捜したんだよ、ずっと」


「美紀……。悪い、いまは」


「デートを邪魔してごめん。でも、なにも言わずに消えなくてもいいじゃない!」


 おいおい修羅場かよ。

 晴子姉さんも眉を寄せ、困惑している。


「だって俺じゃあ、お前に相応しくない」


「私のお父さんがそう言ったから? 関係ないわよ!」


「だけどさ」


「お父さんと縁を切ってきた」


「え?」


「私の人生だもん。私の好きな人と結ばれたいから」


「美紀、俺のためにそこまで……」


 美紀さんを見つめる中川時雨の瞳には、溢れんばかりの切なさと愛おしさを宿していた。

 ピクリと動いた腕からは、「彼女を抱きしめたいが別の女性がいるのでできない」という、葛藤と元カノへの愛が伝わってくる。


「時雨、私には時雨が必要なの……」


 瞬間、彼女の背後に紅蓮菜が現れた。


「その欲望に力を与えてやろう」


 紅蓮菜は美紀さんの魂を抜き取ると、悪霊へと変貌させる。

 こんなときに! いいわ、新しいロリティングスーツの力を見せてやる!!


 そう決意した数秒後、お手伝いアームロボが飛んできて、私にパーツを取り付けた。

 これまでより丸みを帯びたデザインに、関節部のパーツを増やしたことにより柔軟性が上昇!

 これぞ新しいロリティングスーツ。ロリティングスーツMk−2である。


「晴子ねーさんは中川時雨を避難させて!」


「……」


「……ねーさん?」


「え? うん!」


 私は悪霊を外に出すべく、天高く蹴り上げた。

 悪霊は天井を突き破り、屋上へ飛ばされる。


 追いかけて追撃のHMMミサイルを放つが、悪霊は素早く回避してみせた。

 やはり新しいタイプの悪霊、耐久力と速さが優れている。

 だからこそ、ロリティングスーツを新しくしたのだ。

 いまこそ見せよう、新機能!


「しんけーぎょーしゅくモード、起動!」


 唱えて間もなく、悪霊の動き、地面を走る車、街を歩く人々の歩みなどがすべてゆっくりになりはじめる。

 時間の流れが遅くなったのではない。私が速くなったのだ。

 

 正確には、私の脳みその情報処理能力を極限まで高めたのである。

 前に魔力を体に流し込んだとき、感覚がより鋭くなった気がした。

 これを利用し、一時的に晴子姉さんの魔力を頭に注入して脳を活性化させたのだ。


 情報処理能力しか高めてないのなら、運動能力はそのままなのでは? と思うだろう。

 ところがどっこい、Mk−2は脳波でスーツの全機能をコントロールできるようにしている。

 これまでは一度エラリーに指示を出していたが、それも不要になり私が思考すると即反映される。

 お手伝いアームロボが戦闘の決意をした直後に飛んできたのも、来るように念じたからである。

 

 その機能を使えばスーツを脳波で操作して、肉体を強制的に動かすことが可能なのだ!!


 これぞロリティングスーツの正当進化系!

 もう一度宣言しましょう、これがロリティングスーツMk−2なのである!!


「5秒でケリをつける!」


 悪霊も加速したが、いまの私よりは遅い。

 いまの間に拳を叩き込みまくり、トドメのHMMミサイルで悪霊を倒した。


 5秒という制限時間を設けたのは、自信からではない。

 体への負荷を考慮しての時間である。

 計算上、使用時間が最大10秒を超えると、脳が破裂してしまう。


 私は魂を美紀さんに戻したあと、デートの邪魔をしないようそのまま帰宅した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「え? 晴子姉さん?」


 私が家に帰ってすぐ、晴子姉さんも帰ってきた。

 まさか、悪霊のせいでデートが中断されてしまったのか?


 晴子姉さんは普段どおり優しい笑みを浮かべた。

 その瞳は、どことなく赤い。


「本当はね、デート中に気づいていたの。時雨くん、どこか上の空だったって」


「美紀さんが、関係してるの?」


「時雨くんはたぶん、本当に私を好きだったんだと思う。それは伝わってた。でも、彼にとって最も特別だったのは、彼女。だから……」


「晴子姉さん……それでいいの?」


 数秒、晴子姉さんは視線を落としてから、顔を上げた。


「乗りたかったな、サイドカー」


 晴子姉さんは、病的なほど他人に優しい。

 だけど今回くらいは、自分に優しくしたっていいじゃないか。

 少しくらいワガママになったって、誰も非難しない。


 きっとこれ以上説得しても、「あのまま付き合っても、心に嫌なものが残る」と答えるだろう。


「晴子姉さん、今日は私が晩ごはん作るね」


 もしまた晴子姉さんがデートするときは、邪魔や詮索などせず、全力で応援したい。

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