Bパート
ボールはいま、我が手にある。
負けてたまるか、あんな子供に!
気合を入れていると、シャノワが耳打ちをしてきた。
「あの男子、ドッジボールクラブのエース」
「マジ?」
「あまりに強く、その独特の戦闘スタイルから、眠りのガキ大将って呼ばれている」
「ビビっちゃうから教えないでほしかったわ」
要はあいつにボールが渡らなきゃいいってことでしょ。
まずは両隣の取り巻き男子を始末するか。
「外野のみんな、六芒星の陣よ!」
いくらガキ大将が怖くても、外野にいれば安全安心。
仲間たちは士気を取り戻し、あっさりと2人の男子を外野送りにした。
あとは、問題のガキ大将だけである。
ガキ大将が殺気を放ってくる。
「汚え手しか使えない卑怯もんが」
「男子のくせに女子に負けちゃうのね、ガキだいしょーくん」
「ぶち殺す!」
途端、ガキ大将が明後日の方向へ叫んだ。
「おい見てるんだろ! 利用されてやるよ!!」
瞬間、悪霊のウーが空から降りてきた。
「いいだろう、人間」
ウーがガキ大将の魂を体から引き抜くと、邪気を纏わせ、上半身しかない巨大な人型の悪霊へと変えた。
紅蓮菜が使っていた手である。
悪霊の10本の指からは糸が垂らされ、ガキ大将の四肢や頭部、各関節に繋がっている。
「ウー! あんたこの子に何をするつもり!」
「この子供は願いを叶えてくれるなら仲間になってもいいと言った。人間の仲間などいらないが、面白いから協力しているのさ」
「願いって?」
「最強のドッジボール選手になる、ってね。こう見えて夢追い人は応援したくなる質なのだよ」
悪霊の糸に操られ、ガキ大将は目をつむったまま、まさに操り人形のようにふにゃりと立ち上がった。
なにも知らぬ外野の子が、ガキ大将にボールを投げる。
直後、何かが前から高速で迫り、反射的にしゃがみこんだ。
振り返れば私の遥か後方にある校舎の壁に、ボールがめり込んでいる。
外野が投げミスをした、のではない。その原因を私はうっすらとだが視認できた。
ガキ大将がボールをキャッチし私に投げるまでの速度が、尋常じゃなく速かったのだ!!
回避できたのも、半ば幸運。
そして今になって、風を切る音が鳴る。
つまり、悪霊に操られているガキ大将の投げたボールは、音速を超えた砲弾となり、私の10数メートル後ろの壁に穴を開けたのである。
「なるほど、眠りのガキ大将……ね」
おそらく放課後に現れる悪霊の正体は、こいつ。クラブ活動は放課後に行われるからね。
こいつはドッジボールクラブでピンチになるたびに、こうして悪霊の力を借りていたのだろう。
遊具の破損も、その際に放たれたボールによるもの。
悪霊が呻く。
「ドッジボール勝ちたいよう〜」
いつの間にかこっそり変身していた晴子姉さんと亜夢二亜が、悪霊にビームを撃った。
しかし、無傷。それどころか、弾かれてしまっている。
「どうなってるの!?」
「無理だよ晴子ねーさん。こいつたぶん、ドッジボールで勝たなきゃ倒せない」
「そ、そんな……私のかわいい生徒が……」
「安心して晴子姉さん」
周りに子どもたちがいるが、最初からロリ化しているので問題ない。
お手伝いアームロボを呼び出し、ロリティングスーツを着装した。
「私が、倒す!」
ボールは敵の外野側にある。
子供たちはガキ大将の異常に気づきながらも、かっこいいパワーアップ状態だと柔軟に理解し、ボールをパスした。
「来るっ!」
ボールが敵内野に入ったと同時、私はシャノワの前に立ち、音速を超えて飛んできたボールを受け止めた。
やはり、一発目は私に回避されたから、次はシャノワを狙ってきたか。
いくら速く威力が高くても、飛んでくる場所さえ予想できれば、ロリティングスーツの力で受け止めきれる。
「でもこの策はこれっきりね。今度はどっちを狙ってくるんだか」
もう決してボールは渡せない。
次の投球で、決着をつけなくてはならない。
「ふぅ……」
大仰に深呼吸をして、集中力を高める。
そしてガキ大将をしっかり見つめ、全力でボールを投げた。
並の速度ではない。だが音速には程遠い。
でも、想定内である。
ガキ大将が球を取ると、ボールは上空へと跳ねた。
強い回転を加えていたのだ。キャッチしても回転は止まらず、ボールは空へ飛んだのである。
このままボールが地面に落ちれば私の勝ち。
が、そう上手くはいかない。
ガキ大将は事態をすぐさま理解し、今度こそボールを取るためジャンプした。
「やばいっ!」
「ねり!」
外野にいた亜夢二亜が叫んだ。
ハッと見やれば、亜夢二亜はガキ大将の後方で宙に浮かび、ステッキを上昇中のボールに向けていた。
「まさか、亜夢二亜!」
ステッキから発射されたビームがボールに直撃した。
軌道を変えられたボールは緩やかにカーブを描き、見事私の腕の中に落ち着く。
ガキ大将はまだジャンプの途中。
逃げ場はない!
悪いけど、あんたが悪霊の力を使うなら、こっちだって魔法の力を利用するわよ!!
「いっけええええええええええ!!!!!!」
2度目の投球はガキ大将の足に当たり、地面に転がった。
私たちのチームが、勝ったのだ。
「いよっしゃあああああああ!!!!」
ガキ大将はショックで膝を付き、悪霊は頭を抱えて喚き出す。
勝負の行方を呆けて見ていた晴子姉さんに、シャノワが指示をだす。
「いまだ晴子!」
我に帰った晴子姉さんがビームを撃ち、悪霊は消滅してガキ大将の魂だけが残った。
それをガキ大将の体に戻し、悪霊との戦いにも決着がつく。
ウーはそれを見やると舌打ちをして、
「つまらん」
消えてしまった。
これにて一件落着である。
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私と亜夢二亜の任務はこれにて終了。
そそくさと帰ることも考えたが「どうせなら」と、今日一日は小学生として過ごすことにした。
とはいえ、あの激闘のおかげでクラスメイト、ひいては校舎から見ていた子供たちから絶大な人気を得てしまい、授業どころではなかったが。
最近噂の魔法少女やパワードスーツを着た子供と、一日だけ同級生になれたのだ。この思い出は一生残ることだろう。
もしかしてこれから小学生として生きれば、毎日学校でチヤホヤされるんじゃ?
悪くないかも……なんてね。




