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第16話 桃色の太陽 Aパート

 学校の屋上にて、私は作戦の経過を見守っていた。

 お手伝いアームロボットを駆使し催涙ミサイルや電気ショック地雷、閃光弾などを食らわせて怪獣鉄一郎先生弱らせることはできたが、それでもまだ活動は止まらない。


「ちっ、そりゃあへーき開発は専門外だけどさ……」


 先生が生きた悪霊ならば、おそらく魔力を用いた攻撃が弱点のはず。

 少しだけシャノワから魔力を貰うか、いやだめだ。シャノワの肉体を構成する魔力量は少ない。あの子を頼るのは、本当に打つ手がなくなったときにしたい。

 武器はまだ底をつきたわけではないのだから。


「とはいえ……」


 鉄一郎先生が叫んだ。

 耳がつんざくような雄叫びが、私に目眩を起こさせる。

 そのときだ。


「豊田ねり!」


 屋上の入り口から、亜夢二亜が現れた。


「え、亜夢二亜?」


「よかった、やっと会えた……」


 ひどく息を切らし汗まみれの彼女は、安堵で瞳を涙で潤わせ、ゆっくりと近づいてきた。


「なんでここに?」


「あんたを捜してたら、変なロボット? を見つけて、場所聞いてみたら、ここにいるって」


 お手伝いロボットのことか? たしかに音声認識機能がある。でもその受け答えをするのはエラリーのはず。

 疑問を浮かべると、まるで思考を読んだようにエラリーが答えた。


「こういう再会の方が感動的じゃないですか?」


「……こんなじょーきょーでも遊び心を忘れないあんたのメンタル、心強いわ」


 さて、肝心の亜夢二亜だけど、いま必死こいて会いに来てくれたということは、期待していいってわけよね?


「亜夢二亜」


「あの、私……」


「言いたいことはたくさんある。わかってるわよね?」


「うん。怒られるのも、ビンタされるのも、覚悟してる」


「でも、約束通り、私はあんたの想いを踏みにじったりしない」


 亜夢二亜の頬に涙が伝った。

 とても嬉しそうで優しい表情を浮かべ、私の言葉を噛み締めているようだった。


「ありがとう」


「全部終わったらステーキぐらい奢りなさいよ?」


 亜夢二亜はロリティングスーツをまじまじと見つめだし、そっと触れてきた。


「私の魔力を使ってほしい。どうすればいいの?」


「疲れるわよ? 下手すればあんたも晴子ねーさんみたいに……」


「大丈夫」


 それは決意なのか、覚悟なのか。どちらにせよ、私としては願ってもない機会である。

 私は亜夢二亜の髪に触れ、そのうちの1本を抜き取った。

 ロリティングスーツへの魔力供給は、対象となる魔法少女の体の一部をスーツに埋め込むことで可能となる。


 現在スーツの胸パーツの収容部には晴子姉さんの抜け毛が入ったままだが、ここに亜夢二亜の髪の毛を入れた。

 そして魔力送信を効果的に促す特殊合金製の腕時計(晴子姉さんの形見)を亜夢二亜に取り付ければ、準備完了である。


 私も驚いたことだが、抜け毛は晴子姉さんから分離した存在なので消えなかったようだ。

 たぶん微量の魔力が残っているかもしれないけど、戦闘には使えない。


「変身してみて」


 亜夢二亜の服が黄色に染まると同時、黄色く発光する線がロリティングスーツ全体を巡る血管ように煌めいた。

 通常なら晴子姉さんのドレスと同じ青色だけど、まあ、魔力が無いよりマシか。


「おぉ、なんか綺麗ね。その鎧」


「パワードスーツね。あんたの魔力が輝いてるのよ。きれーだと思うなら、私の才能とあんたの力に感謝しないとね」


 亜夢二亜は照れくさそうにニヤニヤしながら、スマホで私の姿を撮影した。

 あの、いまがどういう状況がわかっちょります? コスプレ撮影会してるんじゃないんですわよ。


「で、気分はどう?」


「うーん、少し体が重いかも」


「気分悪くなったらすぐいいなさいよ」


「うん……けど不思議と、こう、元気が漲ってくる」


 亜夢二亜が空を見上げた。


「まるで神様から元気のスポットライトを浴びせてもらってるような感じ。高揚感? ていうのを感じる」


 地球に接近している魔力でできた隕石が影響しているのか?

 そういえば現在亜夢二亜が纏わせている魔力は普段より少し多いような?


「まあいいわ。よし、くーちゅーせんで鉄一郎先生を気絶させるわよ」


「え、私空飛べないんだけど」


「……」


 亜夢二亜をおんぶして、HLスカートで空を舞った。

 お手伝いロボットのミサイルに魔力を流し込めたら楽なのだが、そんな機能は搭載してないので仕方ない。


「いい加減眠ってくださいせんせー!」


 私はインパクトハンドガンを、亜夢二亜は光弾を連射していく。

 やはり、物理攻撃よりもダメージがあるようで、鉄一郎先生は怯んでいた。

 だが、


「よおおおじょおおおおおおおお!!!!!!」


 雄叫びと共に、怪獣鉄一郎先生の胸部にある巨大なホクロから、数本の触手が生えて私たちに迫ってきた!

 HLスカートの機動力で回避するも、触手は私たちを捉えようとしつこく追いかけてくる。


「な、なによこの気持ち悪いの!」


「私と豊田ねりが小さいから、本能的に欲しているのかも!」


「そんなに子供が好きなら自分で作りなさいよ!」


 あ、ダメだ。こんな犯罪者予備軍に子育てさせるのは不安すぎる。

 と、エラリーから通信が送られてきた。


「ねり、鉄一郎様を分析したところ、体内に凄まじい悪霊のエネルギーを発見しました。十中八九、核と呼べるものかもしれません」


「あれの中に入れって!?」


 瞬間、鉄一郎先生が私たちに向かって吠えた。

 衝撃波をモロに食らってしまい、暴風に晒された紙のようにふっ飛ばされてしまう。


「亜夢二亜、しっかり捕まってて! ……亜夢二亜?」


 体が軽い。

 私の背にはすでに、亜夢二亜はいなかった。


「うそ……そんな……」


 地面を見下ろしてみるが、亜夢二亜はいなかった。

 それほど遠くまで吹き飛ばされたのか。せっかく仲間になれたのに、こんな呆気なく……。


「本当だけど無事!」


「へ?」


 上から亜夢二亜の声がする。

 見上げればそこには、愛らしい黄色いドレスを身にまとった亜夢二亜が滞空していた(パンツ丸見え)。

 色こそ違えど、いつも晴子姉さんが着用している戦闘着ドレスと同じデザイン。まさしく、魔法少女の姿だ。


「あ、亜夢二亜!?」


「私にも何がなんだか。でも空からの高揚が膨れ上がって!」


 やはり魔力隕石によってパワーアップしているのか?

 危機が力の覚醒の要因になるとは、皮肉なもんだ。


 手に握った棒は先端に星のついたステッキに変わっていた。

 亜夢二亜はステッキと、自分の服装を交互に見やり、満面の笑みで私に告げた。


「行こう、豊田ねり!」


「ふふ、なに仕切ってるんだか。……あんたは触手を引きつけて! その隙に先生の核を撃つ!」


 亜夢二亜は初めての飛行とは思えないほど慣れた動きで触手を翻弄していく。

 光弾で牽制し、回避し切れなければステッキから発生させた魔力の剣で切り落としていった


「よし、私も!」


 鉄一郎先生の顔面に近づき、口をこじ開けると、私はやや躊躇いつつも体内に侵入した。

 喉から食道を進んでいると、胃の中で不自然なデキモノが目に入る。


「ねり、これです!」


「おっけ!」


 力づくで引き剥がすなり、大急ぎで外にでる。

 そして核を空へと投げ飛ばし、


「HMMミサイル、発射!」


 ミサイルの一斉射撃で木っ端微塵にしてやった。


 鉄一郎先生は「うおおおおおおお!!!!」と断末魔を上げながら、みるみる小さくなって、元の変態紳士の姿に戻っていく。


 亜夢二亜が喜びながら近づいてきた。


「やったね!」


「いや、まだよ」


 最大の驚異がまもなく、空から落ちてくる。

 世界を滅ぼすかもしれない隕石が。

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