Bパート
まるで漫画のように建物の屋上から屋上へとジャンプし、飛び渡っていく。
「見えてきた」
目標の銀行がアイシールド越しに瞳に映る。
2階建ての銀行は何機ものパトカーと機動隊に囲われ、報道陣がその光景をカメラに収めていた。
銀行の屋上に着地すると、何組かのテレビ局がわたしに気づき、カメラを向けた。
もちろん構っている暇はない。わたしは拳を振り上げ、思いっきり足元を殴りつけた。
屋上のコンクリートは驚くほど簡単に穴が開き、そこから進入する。
身体強化のおかげだろう、コンクリートを殴ったのに痛くない。
ごく一般家庭に住む普通の幼女や、はたまたボクシング世界チャンピオンでも、コンクリートを力いっぱい殴れば骨が砕ける。でもわたしの小っちゃくなった手は無傷。
「誰もいない」
2階にいた職員も人質にされたのか、どの部屋にも人っ子一人いない。
わたしはもう一度拳を握り、地面に叩きつけた。
土煙が舞うなか、わたしは1階に着地する。
人質の、銃を持った銀行強盗たちの、そして膝をついて息を切らしていた晴子姉さんの視線が、すべてわたしに集中した。
「晴子ねーさん、助けに来たよ」
「その声……まさか、ねり?」
頷きながら微笑んで、フロアに散らばる銀行強盗たちを見渡す。
全員顔色が悪く、白いオーラのようなものをまとっている。このオーラが悪霊に取り付かれている証なのか。
アイシールドにも魔力が宿っているため、センスがないと見れない(根に持っている)ものも見れるようになっている。
強盗の人数は……5人。そのうち2人は倒れているけれど、わたしが到着する前に晴子姉さんが倒した人なんだろう。
人質は11人。そのうち5人が乳幼児だ。
すると1人の銀行強盗がわたしに銃口を向けて、質してきた。
「なんだてめえ、金はぜんぶ俺のもんだ!!」
「金欲しさにくるわけないでしょ!」
あの銃は本物なのだろうか。武器は作ったことがないからわからない。でも、不思議と怖くない。パワードスーツを着ていることと、晴子姉さんを守りたいという気持ちが、わたしに勇気をくれる。
「よーし」
わたしは一度深呼吸をして、ダッシュで強盗に近づき溝に一発パンチを食らわせた。
男の身体はまっすぐ後ろへ吹き飛んで、壁に叩きつけられ気絶する。
「うん! 戦える。これなら」
わたしの攻撃を合図に、ほかの強盗たちは銃を構え直して発砲しはじめた。
銃弾はパワードスーツに直撃するが、簡単に弾かれていく。
そんなへんぴな鉛球じゃ、わたしを傷つけるどころか、スーツに汚れ一つ付きやしない。
スーツで守られていない背中を撃たれたら痛いだろうけど、幸運にも背後には誰もいない。
一斉射撃が終わったところで再びわたしはダッシュし、銀行強盗たちを次々と気絶させていく。
強盗たちを全滅させて、フッと一息つく。
だがそのとき、強盗たちが纏う白いオーラが一つに集まりだした。
そのオーラは徐々に人の形になっていく。
人型だけど、腕はイカの触手のよう。
「これが、あくりょー?」
『金、金は俺のもんだ……』
「は? 金?」
「ねり、悪霊はそれぞれ未練や執着心があるの。きっとその子はお金欲しさに悪霊になって、人間を操ってたんだわ」
なんともはた迷惑な霊だこと。まさに悪霊ね。
みたところ、悪霊は1人にだけでなく、同時に複数の人間に取り憑けるようだ。
と、白くぼんやりと浮遊していた悪霊が、一瞬にして目の前に迫り、触手のようなものでわたしの頭部を強打した。
「うっ」
銃弾でもまったく痛みはなかったのに、この攻撃はすごく痛い。
ヘルメットの左上部分は破損し、髪や左目が露わになってしまった。
これほど悪霊が強いとは思っていなかった。こんなヤツらと晴子姉さんは戦っていたんだ。
人質は強盗たちが力尽きたことに安堵し、外に出ようとする。だけど、扉が開かない。
ロックが掛けられているというより、強大な力で閉じられているようだ。
この悪霊の仕業なのだろう。
「くっ」
晴子姉さんを見ると、とても心配そうな瞳でわたしを見つめている。服装はボロボロで、局部が見えてしまいそう。
魔力の効果で身体に傷はないにしても、かなり疲れた顔をしている。
これ以上、晴子姉さんを戦わせはしない。
強く拳を握って、わたしは目の前の悪霊に殴りかかった。
ちゃんと攻撃が通用するのか心配だけでど――よし、手応えはある。
悪霊は勢いよく吹き飛び、怯んでいる。
この隙を逃してなるものか。
胸のアーマーが開く。すると拳サイズの発射口が現れて、
「いっけええええ!!!!」
魔力を一点に集中し、ビームを発射した。
ビームが見事命中すると、悪霊は風に吹かれた砂のように、消滅した。
「はぁ……はぁ……」
どうにか、悪霊を倒すことができた(というか成仏なのかな?)。
扉を閉めていた力も消え、人質は放たれる小犬のように猛ダッシュで外へ逃げていく。
わたしも緊張が解け、ついその場にしゃがんでしまった。
「ねり」
ゆっくりと晴子姉さんがやってきて、涙を堪えながらわたしのヘルメットを外した。
服装は魔法使いモードのドレスから、仕事着のスーツに戻っていく。
「なんで小さくなってるの?」
「まあ、ちょっとした副作用で」
幼いころのわたしを知っているから、幼女姿でもわたしだってわかるんだ。
嬉しいな。でも、晴子姉さんは全然嬉しそうじゃなく、涙目になりながらしかめっ面になっていった。
「どうしてこんな危ないことしたの!」
強く叱りながら、優しく頬を撫でる。
わたしはその手を握り、笑った。
「だって、大好きな家族がピンチなんだもん」
晴子姉さんが街の平和を守るように、わたしも晴子姉さんを守りたい。
家族を助けたいなんて、当たり前じゃないか。
だからここに来たんだよ。
すると晴子姉さんも笑ってくれて、わたしを抱き締めてくれた。
温かい、晴子姉さんの抱擁。いつもより小っちゃいから、顔が大きな胸に埋もれちゃう。
「ありがとう。ねりは本当にすごいわ」
こうして無事、晴子姉さんを守ることができた。
もしあと一分でも遅れたら、晴子姉さんは存在が消えていたかもしれない。
はぁ。とにかく、どうにかこうにか終わってよかった。
「それにしてもねり、ずいぶん小っちゃくなっちゃたわね」
「スーツを脱いだら戻るよ」
「ふふふ。小学生のときのねりみたい」
そりゃあ若返ったようなものですから。
「いつものわたしといまのわたし、どっちがかわいい?」
「どっちもかわいいよ。ねり」
晴子姉さんはにこにこ微笑みながら、頬にキスをしてくれた。
えへへ。晴子姉さんが一番かわいいよ。
後編です。
1話以外AパートBパートで分けて投稿します。
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