表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/61

Bパート

 晴子姉さんが開けてくれた道を一気に突っ込み、鉄一郎先生に手をのばす。

 だがその手前にいるウーが放つ邪気が私をふっ飛ばし、地面に落下してしまった。


「ちぃ」


 辺りを見れば、地上に降りた悪霊たちが次々と人間から生気を吸い取っていた。

 悪霊は人間の魂を食らうことで強くなる。単に願望や未練を叶えるのではなく徹底してパワーアップを図っているのは、本気で私たちを倒すためか。


 ヘルメットから晴子姉さんの声が流れた。


「ねり」


 晴子姉さんが普段身につけている腕時計にはマイクがあり、私と通話できる。


「作戦変更よ、私が悪霊たちを殲滅して鉄くんも助けるから、ねりは街の人を助けてあげて」


「うぅ、ごめん晴子ねーさん」


「大丈夫。大丈夫だから」


 自分の無力さに腹が立つ。

 でも泣き言ばかりじゃ事態は進展しない。

 晴子姉さんが元凶を絶とうとしているあいだ、私は少しでも被害を抑えるのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 どうもみなさん、エラリーです。

 史上最高の人工知能です。


 なんだかヤバいことになっちゃいましたね。

 これにはさすがの私も大慌て。少しでもねりと晴子さまの力になるべく、まぐろのぶつさまと悪霊退治へ飛び出しております。


「おいエラリー、とにかくしらみつぶしに悪霊成仏させていくぞ」


「はい!」


「にしてもあのロリコン、つくづくロクなことしやがらねえ」


 まぐろのぶつさまは文句を垂れながらも、自慢の爪で悪霊たちと交戦していきます。

 そのとき、電波塔の方から眩い光と轟音が届いてきました。晴子さまの攻撃によるものです。


「急がねえとビッグマスター危ねえな」


 シャノワさま曰く、晴子さまは魔力を消費しすぎると存在が消えてしまうとのこと。

 いつまでも悠長にしているわけにはいきません。でも、仲間が少なすぎる。

 あぁ、私に肉体があったならと悔やむばかりです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「インパクトハンドガン、最大しゅつりょくよ!」


 放たれた光弾が巨大なクマ型悪霊を仕留める。

 周りには同様の大きさの悪霊がまだ6体。


「くっ、HMMミサイルよエラリー!」


「あと4発しかありませんが!」


「撃たないよりマシ!」


 爆風と衝撃波によりどうにか6体を同時に葬ることができた。

 しかし、倒すべき悪霊はそこらじゅうにいくらでも残っている。

 

 晴子姉さんは無事だろうか。心配になり、通話をかけてみる。


「ねーさん、だいじょーぶ?」


「……」


「ねーさん?」


「やったわねり! 鉄くんを助け出した!」


「ほんと!? さすが!!」


 電波塔を見やれば、鉄一郎先生を守っていた悪霊たちはほどんど消滅していた。


 晴子姉さんが地上の私のもとへ降りてきた。

 鉄一郎先生は完全に気を失っているようで、晴子姉さんの腕の中でぐったりしている。


「あとは残ったあくりょーを倒すだけだね」


「うん!」


 笑顔を浮かべて入るが、晴子姉さんの表情からは疲労が見て取れる。

 不安で不安でしょうがないけど、あともうひと頑張りなのだ。

 最後の最後まで2人で戦うしかない。


 そう決意した直後であった。


「うぅ」


「あ、鉄一郎先生が目を覚ましたよ」


「うぅ……うぅううう!!」


 もうウーは側にいないのに、なぜこんなに酷くうなされているのだろう。

 一先ず安全な場所に移すべきか。


「ううううう!!!! うわああああああ!!!!」


 鉄一郎先生の体が光りだす。

 すると先生はみるみる大きくなりはじめて、肌が緑色へと変色し、爬虫類特有の尾と鋭利な爪が生えていく。

 そして10秒もしないうちに、鉄一郎先生は人間とも悪霊とも言えぬ、全長30mほどの異形の怪獣へと変貌した。


「なっ!?」


 こっそり見ていたウーが歓喜する。


「ふはは、俺の邪気を浴びすぎた影響か! これはまさに、生きている悪霊。ふはははは、嬉しい誤算だ!!」


 まさか、悪霊の力を受け続けたせいで、肉体が暴走したとでも!?

 鉄一郎先生が叫んだ。


「よおおおじょおおおおおおおお!!!!!!」


 その声は周囲の家屋をふっ飛ばし、子どもたちから一瞬にして生気を吸い取った。

 幼子を求める欲求が悪霊となって進化したのか。

 女男関係なく、子供たちの生気、魂が鉄一郎先生に吸収されていく。

 それはロリ化した私にすら影響を及ぼし、先生が叫ぶたびに目眩が起こった。


「鉄一郎先生、正気に戻って!」


 私の言葉などまるで届いていない。

 どうすればいい。どうすれば元に戻る?

 傷つけるしかないのか?


「ねり」


 晴子姉さんがつぶやいた。


「な、なに?」


「……なんでもない。行ってくるわね」


「ちょ!」


 晴子姉さんは振り返りもせず、背を向けたまま飛び去った。

 急いで加勢すべきか、他の悪霊を倒すべきか。


 そんなとき、私の背後から笑い声が聞こえてきた。

 亜夢二亜だ。


 振り返ってみれば亜夢二亜は、まるで、それこそまるで悪霊にでも取りつかれたような、邪悪で不気味で、禍々しい笑みを浮かべていた。


「亜夢二亜、あんた!」


「言ったでしょ。今夜、あんた達は終わるのよ。悪霊は、生前悔いを残した者、成せなかった者。そんな敗者たちが、あんたら強者を!!」


「私たちが気に食わないのはまだしも、無関係の人間巻き込んで楽しいの!? 鉄一郎先生は、邪な理由だけどあんたを好きだった。もしかしたら、あんたと同じ境遇の子供が被害に遭っているのかも。そうでしょ?」


「それがなに!? 私を認めない世界が悪いのよ! こんな世界ぶっ潰す!」


「こいつ!」


「あんたみたいに頭が良くて、いつもちやほやされるやつにはわからないでしょ、毎年毎年、毎年毎年毎年、ずっと怖がっていた私の気持ちなんて!!」


「なにを!?」


「クラス替えよ! 知らない人間と会うたびに、私を嫌うんじゃないかって、怒らせちゃうんじゃないかって、怯える日々はもう嫌なのよ!!」


 瞬間、空が白く染まった。

 晴子姉さんの魔法か。鉄一郎先生は断末魔を上げ、倒れていく。

 まさか死んじゃいないだろうけど、一先ず、止められてよかった。


 晴子姉さんがまた私のもとに降りてくる。


「ねーさん! 先生を止めたんだね!」


「……」


「ねーさん? どうしたのさっきから」


 晴子姉さんは夜空に向かってため息をつくと、

 力強く亜夢二亜を見つめた。


「亜夢二亜ちゃん、むかし私に相談してくれたよね? クラスメイトにイジメられるって。いま亜夢二亜ちゃんがやっているのは、それよりも酷いことなのよ?」


「知らないくせに。晴子先生のおかげでイジメはなくなった。でも、中学生になったとき、またそいつらが私に酷いことしたって先生は知らなーー」


 言い終わる直前、晴子姉さんは亜夢二亜を抱きしめた。


「ごめんね。今度はもっと、側にいるから」


「っ!」


「だからイケないことはやめて。亜夢二亜ちゃんは、誰よりも優しい子じゃない」


「違う! 私は、成り損ないなのよ! 人を不快にするために生まれたんだ!!」


 ふふっと、姉さんが笑った。


「私もね、ねりがいないとダメダメなの。何度もねりに助けられたし、私もねりを助けた。完璧じゃなくても、良いのよ。だって子供には……」


 晴子姉さんの服装が通常の私服に戻った。

 それだけでなく、どんどん姉さんの体が透け始めてーー。


「ねーさん?」


 姉さんが振り返り、愛らしく笑った。


「ごめんね。元気、ぜんぶ使っちゃった」


 晴子姉さんの体が、消滅した。


「え……」


 亜夢二亜も驚き、腰を抜かす。


「先生?」


 ロリティングスーツから魔力が消える。

 供給が止まったのだ。


「うそ……ねえさん……?」


 きっと姿を消せる魔法を使ったに違いない。

 何度も辺りを見渡し、名を叫ぶ。

 返事は、ない。


「嘘だ、いや、いやだそんなの……」


 おぞましい叫び声が轟いた。

 怪獣となった鉄一郎先生が、起き上がったのだ。

 そして、


「ねり」


「エラリー?」


「シャノワさまからの伝言です。魔力星から放たれた隕石が地球に接近しています。大雑把な位置と速度しかシャノワ様も知りませんが、おそらく、あと3時間で大気圏に入るかと」


「そんなことよりエラリー、晴子姉さんはどこ?」


「ねり……」


「どこ、どこなの?」


 亜夢二亜は震え上がって逃げ出す。

 鉄一郎先生、街で暴れる悪霊たち、魔力の隕石。

 問題が山積みでいやになる。

 でもきっとどうにかなるはずだ。いつもみたいに晴子姉さんと一緒なら。


 晴子姉さんが、いてくれるなら。


「いやああああああああああ!!!!」


 その晩、私は戦う理由を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ