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第14話 さよなら元気 Aパート

 この監視社会において、一定水準の生活を守りながら逃げ続けるのは不可能である。

 ましてや相手はアホの亜夢二亜。夜、私がとあるコンビニの前で待ち伏せしていると、


「あっ」


 ビニール袋を片手に握った亜夢二亜が店から出てきた。


「逃げ切れると思ってたの? この監視カメラまみれの世界で」


「うぐっ……」


「手荒な真似はしたくないわ。まずは私の家に来て、それからじっくり話し合いましょう」


 途端、亜夢二亜は魔法少女状態へと変身した。

 変身、といっても晴子姉さんのようにドレスに着替えたり、可愛らしいステッキを握るわけではなく、ただ服が黄色に染まり、脆そうな棒を手にするだけである。

 これが亜夢二亜の、魔法少女のなり損ないの姿だ。


「上から目線で偉そうに!」


「……」


「なによ、変身しないの? 変な鎧壊れちゃった?」


「手荒な真似はしたくないって言ったでしょ。あんたは人間。私も人間。口でどうにかなる。戦おうとするからあんたは抵抗するなら、暴力はなし」


「ふん、天才が聞いて呆れるわね。脳みそお花畑ちゃん! なにを話し合うっていうのよ!」


「あんたが私たちの仲間になる交渉」


「は?」


 亜夢二亜が動揺に目を見開いた。

 その瞳に期待の輝きが宿ったような気がしたのは、私の願望だろうか。


「あんたの昔話を聞いて、思ったのよ。あんた本当は、晴子姉さんみたいなヒーローになりたいんじゃないの? 私たちと一緒なら、どうとでもなる。できる!」


 躊躇いなく、私は手を差し伸べた。

 素直に手を握ってほしい。きっと晴子姉さんも喜ぶし、この子のためになるに違いない。


 しかし、


「調子に乗るな!」


 亜夢二亜が棒で私の頬を叩いた。


「持ってるやつに手を差し伸べられるのが、屈辱にもなると知らないのね!」


「なんなのそのプライド」


「仲間になってなんになるの? 私はなり損ない。毎回毎回あんたや晴子先生にサポートされて、足を引っ張って、惨めになるに決まってる! いつもそう!!」


 どんだけ対人関係にトラウマあんのよこいつ。


「知ってる? 私が中学生のとき、晴子先生の真似をしていじめられている子を助けようとした。そのとき言われた言葉を」


 涙混じりに、亜夢二亜は自嘲的な笑みを浮かべた。


「余計なことしないで、よ。そりゃそうよね、火に油を注ぐようなものだもん。私みたいなのがいじめっ子を注意したら。……ふふ、いいわよね天才様は。なんか発明する度にみんなから感謝される」


「あんただっていつかは!」


「でた、いつか。信用できないのよ未来なんて!!」


 周りの人たちの視線が私たちに集まる。

 それでも亜夢二亜から目を逸らす気になれなかった。

 というより、彼女の圧に屈し、まるで蛇に睨まれた蛙のように視線すら動かせないでいた。


「どのみち仲間になるまでもなくあんたらは終わりよ」


「どういう意味?」


 そのとき、エラリーから通信が入った。


「ねり大変です! 電波塔に大量の悪霊が出現したようです!!」


「なんですって?」


「もう晴子さまが向かっています。ねりも速く!」


「くっ、こんなときに」


 気づけば亜夢二亜の姿はなかった。


「まったく……。エラリー、着装よ! HLスカートで一気に飛ぶわ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 街のシンボルたる電波塔は凄いことになっていた。

 塔の頂上を囲う大量の悪霊、悪霊、悪霊!! ざっと数えただけでも、500は超えている。

 そこから何体もの悪霊が地上に降りては、人々から生気を吸っていた。


 なによりも目を疑ったのは、塔のてっぺんで縛られている鉄一郎先生の姿。

 近くにウーがいるけど、なにをしてるのかは不明。

 いったいこれはどういう?


 すでに戦っていた晴子姉さんが合流してきた。


「ねり」


「晴子ねーさん、なんなの、どうなってるの?」


「私もわからない。ただわかるのは、鉄くんが悪霊たちにパワーを与えているみたいなの」


「えぇ?」


 とりあえず近くにいた悪霊たちと戦う。

 確かに、ただの一般悪霊のパワーと耐久力が普段と違う。


「くそっ、ウー! なにを企んでいるの!」


「いつものお遊びは終わりってわけさ。世界中の悪霊をかき集めてきた」


 ウーが鉄一郎先生に手をかざすと、先生は苦しそうに叫びだした。

 先生の体から、悪霊の反応が溢れ出す。おかしい、鉄一郎先生は人間なのに。


「こいつは霊感が非常に強い。悪霊とシナジーがある。故に俺の力をこいつを媒体に全悪霊へ拡散しているのだ。こいつの魂を削れば、その効力も絶大!」


「どういうこと?」


「パワー増幅器なのだよ!」


 つまり、大量に集めた悪霊を、鉄一郎先生を使って強化させたってわけか。

 こいつ、マジで私たちを倒すつもりなんだ。


 鉄一郎先生を救い出したくても、大量の悪霊たちの壁を突破するのが困難。

 しかも、


「いたっ、氷の弾? 紅蓮菜か!」


 紅蓮菜まで登場してきた。


「やがて悪霊たちが世界を絶望に包み込む。ふっ、やつを復活させるまでもないか」


「やつ?」


 そっと、晴子姉さんが耳打ちしてきた。


「私が悪霊たちを相手するわ。ねりは鉄くんをお願い」


「この数を? むちゃだよ」


「でもやらなくちゃいけないの。向こうが本気なら、こっちも死ぬ気でやらないと」


「……無理は、しないでね」


 晴子姉さんはニコリと笑ってみせて、紅蓮菜および無数の悪霊たちへ突っ込んでいった。

 と同時、再度エラリーから通信が入る。


「なによこんなときに」


「シャノワさまが御用があると」


 家にいるシャノワが、エラリーと代わった。


「ねり」


「だいじょーぶよシャノワ。今夜も3人でぐっすり寝ましょう」


「まずいことになった。シャノワの故郷、地球を見限るかもしれない」


「は?」


「これほどの悪霊の暴走、いずれ地球を席巻する。ならいっそ、早々に滅ぼして善良な魂を宇宙に昇らせ、自分たちのエネルギーにする。……って知らせてきた」


「滅ぼすって……」


「魔力星から隕石が放たれた。魔力の塊の隕石」


「うそでしょ……」


 こんな状況で、なに考えてんだ宇宙人は!!

 でもやるしかない。こうなればシャノワの仲間に見限られないよう早々に、晴子姉さんが言う通り死ぬ気で戦うしかない!

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