第13話 束の間の癒やし Aパート
亜夢二亜に逃げられたあと、私と晴子姉さんは家に帰ってシャノワに「魔法少女の成り損ない」について聞き出した。
「極稀に生まれる。素質はあるけど目覚めきっていない者」
「シャノワ、あんたの仲間が亜夢二亜のとこに来たらしいんだけど、なんも聞いてないの?」
「あんまり情報交換とかしないから」
一方晴子姉さんはソファに腰掛け、ぐったりうなだれていた。
元教え子が悪の道に堕ちていた。教師であれば凹んで当然だろう。
「大丈夫だよ晴子姉さん。もう素性はわかってるし、今夜にでも家を調べ上げてとっ捕まえるから」
「……うん」
といったものの、その晩、亜夢二亜を捕まえることができなかった。
ていうか、亜夢二亜は家に帰らず行方をくらましてしまったのだ。
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翌日の昼、私は晴子姉さんとシャノワを連れ出し、地元のショッピングモールへ訪れた。
表向きはシャノワの服を買うため、でも本当は晴子姉さんを元気づけるためである。
亜夢二亜が見つかるまで落ち込んでいられても困る。
「わあ、この服シャノに似合いそう! どうシャノ?」
「なんでもいい」
「じゃあこれとこれも買っちゃいましょうか」
作戦は見事成功したようである。
できれば今日は、今日だけは平穏に過ごしたいな。
たぶんこれからどんどん大変になるだろうから、せめて今日だけは……。
「やあやあ3人とも、お久しぶり」
「うげっ、鉄一郎先生」
どんな罰ゲームか、あの変態ロリコン教師の鉄一郎先生が笑顔で近づいてきた。
よりにもよってこんなときに悪霊より危険な男と遭遇してしまうなんて、私呪われてるのかな?
晴子姉さんとシャノワも警戒し、ジト目で睨みつけている。
「あはは。すっかり嫌われてしまったみたいですね。でもシャノワちゃんのそんな怖い顔も、す・て・き・だ・ぞ。素敵だぞ♡」
きもちわる。
「それでシャノワちゃんは何しにきたの? そっかー、お洋服を買いに来たんだね。じゃあ僕も選んであげるよ。大丈夫大丈夫。小さい子はね、露出度が低い服でもえっちに見えるんだ」
こんなんでも通りゆく女性からはイケメンだのなんだの黄色い声を浴びているから世の中不公平である。
実際問題、女性に好かれる見た目しているやつに限って中身は女の敵だったりするのだ(好かれない見た目のやつはそもそも女の敵にも味方にもなれないのは内緒)。
「鉄くん、あんまりオイタがすぎると警察に通報しますよ」
「ははは、冗談ですよ晴子さん」
まったく……と晴子姉さんが呆れた直後、姉さんとシャノワが目を見開いた。
「「悪霊!!」」
と同時、
「綺麗になりたいよ〜!」
などとおぞましい叫び声が聞こえてきた。
声がした方へ走ると、ややぽっちゃりした女性の周りに人だかりが出来ていた。
顔に生気がなく、でも禍々しい気配を漂わせる不気味さが注目を集めているのだろう。
「ねり、あの子悪霊に取り憑かれているわ!」
女性がもう一度叫ぶと、ヘドロのような液体が彼女から飛び散った。
それに触れた壁は腐り、売られている服やバッグはボロボロになって、人間は皺くちゃの老人へと変貌していく。
「なによこいつ、綺麗になりたい=自分を以外を醜くするってわけ?」
そこへ、ウーが現れる。
「久しぶりだな魔法少女。今日も今日とて俺のお気に入りの悪霊に遊んでもらうがいい」
「姉さん!」
「うん!」
晴子姉さんは人気のないところへ移動すると、魔法少女に変身して戻ってきた。
よし、私も! と思った矢先、鉄一郎先生が目を輝かせながらニヤついているのに気づいた。
「来る、来るぞ久方ぶりの豊田ろりが!」
「……鉄一郎先生、生きてて恥ずかしくないんですか?」
まあいいや、とにかく私も変身しよう。
「エラリー、着装よ!」
お手伝いロボットを呼び出しながら人気のない場所へ走り出す。
だがそのとき、
「ねり、危ない!」
「え?」
悪霊が撒き散らしたヘドロが、私の顔面に直撃した。
「ぬわああ!」
な、なんだ、体が重い。全身から元気が抜け落ちていく!
あぁ手が! 手がシワシワに! まさか顔も……。
「ひぃっ!」
頬肉が爛れ、肌の潤いが失われていく。
まぶたも重く、髪も白く染まっていって……。
「ねり、大丈夫?」
「大丈夫ではないよ、えっと〜」
「?」
「えっと〜、名前なんでしたっけ?」
「え、晴子だけど……」
「あそうそう、晴子姉さん。とりあえずあれしないと、あれ」
「変身?」
「それそれ。人がいない場所にいかないと。よっこいしょ。あ〜、足が痛い。ところでロボットはまだ? あ〜、どうやってエラリーと通話するんだっけ? 機械は難しくて……。簡単スマホ誰か持ってない?」
「ねりが……幼女じゃなくておばあちゃんになっちゃったっ!」




