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23/61

Bパート

「晴子ねーさん、こいつと知り合い?」


「亜夢二亜ちゃんは、私の教え子だったのよ」


「え!?」


 晴子姉さんはずっと小学校の先生をやっている。

 亜夢二亜はいま高校2年生だから、約5年前、いやそれ以上前の話しか。


 晴子姉さんは辛そうに顔を歪ませて、亜夢二亜に訴えかけた。


「どうして悪いことしてるの!? 亜夢二亜ちゃんはそんな子じゃなかったじゃない! 気弱だったけど、誰よりも優しくて、正義感に溢れていたーー」


「だまれ!」


 亜夢二亜が3体の悪霊を呼び出した。

 3体ともハエのような形をしているが、人間の子供程度の大きさであった。


「あのころとは違うのよ!」


 悪霊たちが驚くほどの速さで突っ込んできた。

 一度攻撃すると空へと逃げ、また高速で突進してくる。

 ちょうどいい、試作機の練習台にしてやる。


「晴子ねーさん、HLLスカート使っても良い?」


「うん! 今日は私、元気モリモリだから!」


 お手伝いロボットが現れ、私の腰にスカートの型のパーツを取り付けた。

 スカート内には大小合わせて6基のスラスターが隠れている。

 晴子姉さんの魔力を使って空を飛ぶための新装備である。


 通常より多くの魔力を奪ってしまうため、長時間の使用はできないが、これで私の機動力が大幅に上昇する。


「いくわよ!」


 晴子姉さんと同時に空を舞い、悪霊と交戦する。

 その最中、私の視界に紅蓮菜が映ったのだが、彼女は加勢するわけでもなく空から亜夢二亜を見下ろしていた。

 まるで、正体がバレた亜夢二亜の行く末を見守っているかのように。


「これでトドメ!」


 インパクトハンドガンで3体目の悪霊を倒し、地上に降下する。

 亜夢二亜はとても悔しそうに唇を歪ませ、私たちを睨んでいた。


「亜夢二亜、詳しいことはあとで聞くわ。きょーこそ年貢の納め時よ」


「亜夢二亜ちゃん、お願いだからもうやめて!」


「くっ……」


 亜夢二亜の肩がぷるぷると震えだす。

 仮に逃げたとて、素性が明らかになった以上、地の果てまで追いかけることができる。

 もう、詰みなのだ。


「まだ、負けてない……」


「は?」


「持って生まれたやつらが指図するな!」


 瞬間、亜夢二亜が着ていた制服が黄色に染まった。

 手にはシンプルな棒が握られ、反抗的に構えてみせる。

 それに、それになにより、あいつから感じる微量の力。

 あれはまさしく、間違いなく!


「あんた、まほうしょーじょだったの!?」


「だったらなによ」


「え、だって、まほうしょーじょはあくりょーを倒すための存在じゃ……」


「本当の魔法少女ならね」


「どういう意味?」


 亜夢二亜は怒気を孕んだ冷笑を浮かべた。


「魔力星が地球に接近した日、私は力を得た。あんた達の仲間の子供みたいなのが、私のところに来たわ」


 シャノワのような魔法少女のサポート係だろう。


「いろいろ教わったわ。魔法少女のこと、その役割。……嬉しかった。こんな私がようやく人のために働ける。人の役に立てる。それがとても嬉しかった。……でも」


 亜夢二亜の瞳が潤んだ。


「はじめて悪霊と戦って負けたとき、面と向かって言われたわ。『なんだ、魔法少女の成り損ないだったか』って。そいつはもういない、私を見捨てて、故郷に帰った」


 確かに、亜夢二亜から感知できる魔力は晴子姉さんより遥かに劣る。

 魔法少女の成り損ない、その事実が彼女を歪ませてしまったのか。


「そしてようやく気づいたのよ。善意や良心なんてクソ。ただ気に食わないやつを懲らしめて私だけの世界を作るべきだって! だから悪霊と手を組んだ!!」


 亜夢二亜が私に向けて、棒から細いビームを発射した。

 とっさに晴子姉さんが前に立ち、シールドを張ってビームを弾く。


「ねり、下がってて」


 顔は見えなかったが、その声色は暗く、力強かった。


「私が責任持って、亜夢二亜ちゃんを目覚めさせる!」


 姉さんが高速で亜夢二亜に接近すると、手首を掴んで棒を取り上げた。

 亜夢二亜は強引に腕を払い、右足で晴子姉さんを蹴り上げる。

 が、無傷。ノーダメージ。

 亜夢二亜の攻撃より、晴子姉さんの魔法少女としての回復力のほうが優れているのだ。


「亜夢二亜ちゃん、お話しましょう」


「嫌よ! 晴子先生は昔、私に言ってた! 優しい心を持っていればいつか報われる、ちゃんと私を見てくれる人が現れるって。……いつかっていつ? 誰が私を見てくれるの?」


「私が!」


「晴子先生を見てるとイラつくのよ!!」


 晴子姉さんから棒を奪い取り、至近距離でビームを放った。


「消えろ!」


「っ!」


 晴子姉さんが再度バリアを展開すると、弾かれたビームが亜夢二亜自身に直撃した。

 幸運というべきか、亜夢二亜は気を失い、魔法少女状態が解除される。


「ねーさん、家に連れて行こう」


 そのとき、


「させるか」


 傍観していた紅蓮菜が降り立ち、


「こいつの劣等感、気に入った。お前たちには渡さない」


 亜夢二亜を抱え、消え去ってしまった。


「亜夢二亜ちゃん……」


 もの悲しげに晴子姉さんが呟く。

 アムーニア。本名、石田亜夢二亜。

 私はあの子を、どうすればいいのだろう。

亜夢二亜は父方がフランス人です。

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