第12話 アムーニアの秘密 Aパート
金色の髪をした少女が、小学校の廊下でペンを拾った。
大人っぽくて、やや値の張るペンであった。
前を歩く同級生が落としたものだ。
そのペンを知るものは、みんな羨ましがった。少女もそうである。
しかしこれは同級生の大切なもの。無くしたとなれば、きっと悲しむだろう。
なにより、黙って持ち去るなんて犯罪行為は、したくない。
「あ、あの……」
呼び止めたいが、うまく声がでない。もとより、人と話すのが苦手なのだ。
言わなきゃ、言わなきゃ。そう何度も自分を勇気づけていると、同級生がふと振り返った。
「あんたそれ私のペン!」
「あの、これ……」
「盗もうとしたの!? 最低!」
「や、ちがっ……」
同級生はペンを奪い取るなり、少女を突き飛ばした。
善意に対するあまりにも無慈悲な結末。だが、いまに始まった話ではない。
転んだ人に手を差し伸べれば、自分より下のやつに施されたとムキになって手を払われ、生真面目に掃除をすれば、笑われる。
小学校生活で唯一優しくしてくれるのは、担任のーー。
ハッと、アムーニアは目を覚ました。
「はぁ、最悪な夢だったわ……」
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ハローエブリワン! 豊田ねりですっ!
朝からテンション高い大天才発明家ですっ!
いやー、また貰っちゃったんすよ、ノーベル賞。
塩水に溶けるプラスチックの研究が思いの外受けましてね。実用化はまだ先なんですけど〜、ぬひひ、地球環境に貢献しながら大金と名声を得るの気持ちいいいいい!!!!
「ん?」
ふと、教室の窓から正門を眺めていたら、どこか見覚えるのある金髪のチビが登校しているのが見えた。
「ねえ、凛、あんな小学生みたいなサイズの子、いたっけ」
しかも制服のリボンの色からするに、同級生である。
「あぁ、石田さんか。ハーフの子でしょ? 不登校だけど、たまに学校くるよ。ねりも毎日学校にいるわけじゃないから、知らなかったんだ」
石田さんは俯いていて、どこかビクビクしながら歩いていた。
うーん。あんな子と会話した記憶ないけど、なーんかどっかで会ったことあるような。
「他に石田さんについて知っている?」
「私も詳しく知らないけど、確か名前は……亜夢二亜。石田亜夢二亜」
「あむにあ?」
亜夢二亜……あむにあ……アムニア……アムーニア……。
うそでしょ……。
正体隠す気ゼロじゃん。
それにしたってまさか宿敵と同じ学校の同級生だったなんて。
どうしよう。このパターンは予想できなかった。
まあ、いきなり接触するのは愚行。まずはじっくり観察して情報収集といきましょう。
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石田亜夢二亜という生徒は、なんというか、目立たない子だった。
仲のいい友達はいない。成績は悪く、運動もできない。
クラスメイトに話しかけられると、
「ねえ、石田さん」
「ひゃい!」
「進路調査書回収しろって先生に言われたんだけど……」
「あ……えっと、その……」
「?」
「まだ、書いてなくて……」
「今日期限じゃなかった?」
「すみません……」
こんな具合である。
とてもあの傲慢高飛車のアムーニアとは思えない。別人のようである。
もしやマジで別人? ただのそっくりさん?
確かにアムーニアは普段黒い仮面をつけてるから、素顔まではわからない。
うーむ。少しカマをかけてみるか。
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放課後、私は校門にて亜夢二亜を待ち伏せし、声をかけた。
「石田亜夢二亜ちゃん?」
「あ……豊田、ねり……」
途端、亜夢二亜は目をキラキラ輝かせ、グッと近寄った。
「あ、あの! またノーベル賞取ったんですよね! すごいです!」
「え〜っと?」
「あ、すみませんいきなり。私、憧れてて……同い年なのに、ぜんぶ正反対で……」
うわ、やりづら。
でもいくらファンだろうが容赦しないのが私である。
「青いパワードスーツを着た子供と魔法少女」
「え?」
「いつも戦ってるでしょ、アムーニア」
別人で無関係なら意味もわからない言葉。
だが亜夢二亜は確かに、大きく目を見開いた。
「な、なんでそれを!」
「やっぱりあんたアムーニアだったのね! ここで捕まえるわ!! エラリー!」
忍ばせていたお手伝いアームロボットたちを集合させ、捕獲用ネットを発射する。
触れれば電流が流れ即気を失う代物だ。
しかし、ネットが亜夢二亜に触れる前に、彼女が呼び出した悪霊によって、バラバラに切り刻まれてしまった。
「ちっ」
「まさか豊田ねり、あんたが……」
「ふん、バレたんじゃあしょうがない。そう、私が」
「魔法少女!?」
違うだろ。どう考えても違うだろ。
さんざん戦ってきたんだから魔法少女と私ぜんぜん似てないなってわかるじゃん。
普通、【頭いい=パワードスーツ着てる方】ってなるじゃん。喋り方とかも一緒じゃん。
「エラリー、着装よ!」
見せつけるようにロリティングスーツを装着しロリ化すると、亜夢二亜はうげっと顔を歪ませた。
「あの生意気なチビ!」
「なにそれ自己しょーかい?」
「くそっ、今日貧血気味なのに」
亜夢二亜は悪霊に背負われる形で、その場から逃げ出した。
「逃がすか!」
数100メートルほどの逃走劇の末、モモノキ公園にて亜夢二亜を追い詰めた。
と同時に、悪霊の気配を感じた晴子姉さんが舞い降りる。
「ねり、来たわよ!」
「晴子ねーさん、アムーニアのしょーたいがわかったわ!」
彼女の本名を口にしようとした瞬間、アムーニアの素顔を見た晴子姉さんは「え」と声を漏らした。
「亜夢二亜ちゃん?」
亜夢二亜が気まずそうに顔を反らす。
「くっ……」
「ずっと、まさか違うだろうと思ってたけど、その顔、間違いない。やっぱり、石田亜夢二亜ちゃんなのね!?」
晴子姉さん、亜夢二亜のこと知ってるの??
応援よろしくお願いしまーーーーーーす!!
 




