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第2話 ねり、初変身!! Aパート

 シャノワ曰く、生き物は死ぬと魂が宇宙に昇り、魔力となって魔力星の一部になる。

 だが未練や悪意を持った魂は地上にとどまり、悪霊になって欲望を満たそうとしたり、生きている者の魂を食ったりするのだとか。

 あのサラリーマンが男の子を襲おうとしていたのも、そんな悪霊に取り憑かれていたせいである。

 だから魔力星に住む生命体は、魔力を自在に操れる素質がある者に力を与え、代わりに悪霊を倒させているのだ。


「はぁ……」


 朝、目が覚めて寝室からダイニングに向かう。

 キッチンでは晴子姉さん朝食を作り、シャノワがテーブルまで運んでいた。


「あらおはよう、ねり」


「おはよう晴子姉さん♡」


 テトテトとシャノワが近づいてきた。


「おはよ、ねり」


「……」


「どうした?」


「別に。おはよガキんちょ」


 昨夜の出来事が夢だったならどれほど良かったか。

 現実は非情である。


 私は顔を洗ったあと、ペットのチワワに餌をあげた。

 一見タヌキに見間違えるほどのおデブだが、立派なオスチワワである。


「まぐろのぶつもおはよう」


 チワワの名前はまぐろのぶつ。子犬の頃捨てられていたのだが、晴子姉さんに拾われて家族になった可愛いやつだ。

 変な名前しているのは、酔っ払った晴子姉さんが名付けたからである。


「じゃあねり、私そろそろ仕事に行くわね」


 姉さんは小学校の先生をしている。

 学校では人気の先生らしい(日中ずっと一緒にいられる子供たちが羨ましい)。


「う、うん。体調は?」


「平気よ平気。ちゃんと無理せず、頑張ってるから!」


 軽くガッツポーズをして、晴子姉さんは出勤した。

 平気だと言っていたが、私は目の下にあったクマを見逃さなかった。

 明らかに疲れている。いまだって、この短い時間の間に100回はため息をついているし。

 少し頼りなさそうに見えて、ここぞという時には絶対に弱音を吐かず周りに尽くすのは晴子姉さんの長所だけど、短所でもある。

 普通の人間はもっと怯えたり、逃げたり、甘えたりするものなのだ。


「さてと、私もやりますか」


 パパっと朝ごはんを食べたあと、寝室の隣りにある隠し扉を開けた。

 中は30帖くらいの広い部屋になっていて、私お手製のコンピューターやらアームロボット、機材やら部品などがたくさんある。

 ここは私のプライベート研究室である。個人的な開発などはここで行っている。


 気づいたらシャノワも研究室に入っていて、物珍しそうに首を傾げながら部屋を見渡していた。


「なにここ?」


「変なもん触るんじゃないわよ」


「なにするの?」


「まあ黙ってみてなさい。私は天才科学者豊田ねり。どんなイカれた状況でも頭脳で覆せるのよ」


「?」


 どうやら晴子姉さんは、魔法少女になってからの2週間、ほとんど毎晩悪霊退治をしていたらしい。

 ただでさえ教師なんて大変な仕事をしているのに、いつまでも2つの生活が両立できるわけがない。

 きっといずれ倒れるか、シャノワの言う通り頑張りすぎて存在が消えてしまうかもしれない(どう消えるのか知らないけど)。

 だから私が助けるのだ。魔法のセンスがなくても(認めたくないが)、最高の頭脳で補ってやる。


 幸運にも、シャノワの体は魔力の塊であったため(魔力星出身なので)、肉眼ではっきり見えるあの子の研究することで、魔力の分析ができた。

 顕微鏡で調べても、これといった摩訶不思議な特徴はない粒子の塊であったのだが、常識では考えられないとてつもない力を秘めていることは、シャノワという存在と、晴子姉さんが証明してくれている。


「問題はこれをどうすれば私が使えるようになるかだけなのよ。あと1ピース、なにか……」


 バーチャルディスプレイに表示された情報に、キーボードで数式を打ち込んでいく。

 ふとシャノワを見やれば、まぐろのぶつを連れ込んで肉球をぷにぷにしていた。

 こいつ、本当になにしに来たんだが。


 そのときだ。


「ねり、大変です!」


 エラリーの声が部屋に響いた。


「なによいったい。今日は高校休むって言わなかった?」


「晴子さまが、厄介事に首を突っ込みそうです。まずい場所へ進路を変えました」


「え?」


 ディスプレイがニュース番組を流した。

 えっと、なになに……銀行強盗発生、強盗たちは人質をとって立てこもり中、ですって?

 ……ん? あれ? いま一瞬、青色の人影が銀行に突っ込んだような。


「まさか」


 私が言葉を続ける前に、シャノワが口を開いた。


「ん。その建物、悪霊がいる」


「……つまり」


「晴子、気づいて退治しに行ったのかも」


 学校はどうしたってのよ……。

 くそ、これ以上晴子姉さんに負担をかけるわけにはいかない。

 でも、まだダメなんだ。


「ねり、やばい」


「なにがよ」


「晴子、疲れてる。魔力、うまく練れてない」


「え、わかるの?」


「サポート係だから」


 あっそう。

 つまり、急がないと晴子姉さんが危ないってわけね。


 悪霊を倒すには魔力が必要。そのエネルギー源は、本末転倒な気がするけど晴子姉さんからいただくしかない。

 シャノワから貰ってしまえば、この子の肉体が欠けてしまう。

 あとは、どうやって晴子姉さんから魔力を貰うかだけなのだが、手段が思いつかない。

 なにか、なにか方法はないものか……。


「待てよ……。ねえシャノワ、晴子姉さんの体は、怪我しても魔力で元通りになるのよね?」


「うん。晴子の体、魔力が宿っている。どこ傷ついても、ダイジョブ」


「なら例えば、傷口から出た血にも魔力が宿っているわけ?」


「少し残る。でも、そのうち消えてただの血になる」


「だったら……」


 急いで浴室に行き、目当ての物を発見する。

 晴子姉さんの抜け毛である。


「シャノワ、こういうのにもまだ魔力残っている?」


「少し」


「よし! とりあえず、いまはこれを使うわ!!」


 抜け毛をあるパーツにセロハンテープでくっつけ、私は叫んだ。


「エラリー! 着装よ!!」


「しかしまだ実験すら……」


「実験は現場で行う」


「わ、わかりました!!」


 エラリーの指示により、アームロボットが一斉に動き出し、私の胴に紺色のアーマーを装着しはじめた。

 私が晴子姉さんを救うための兵器、パワードスーツのパーツである。


 まだ調整中のプロトタイプのため前しか守れないのだが、泣き言を言っても仕方ない。

 

「行きますよねり。プロトロリティングスーツ、起動します!!」


 すると、私の体温がどんどん上昇し、それに伴い体がぐんぐんと縮みはじめた。

 とても熱くて、痛くて、苦しい。でも、耐えられないほどじゃない。

 パワードスーツには特殊な機能があるのだ。身につけることで身体能力を体ごと凝縮し、肉体を強化させる画期的な機能が。


 そして10秒も経たないうちに、私の肉体は、小学4年生程度の身長へ小さくなった。


「ま、まずはだいーち段階せーこーね」


 ん? なんか舌がうまく回らない?

 そういえばわたし、小さいころは結構舌足らずだったって晴子姉さん言ってたな。


 壁に立てかけられている姿見で、自分の姿を確認してみる。


 頬はぷるんぷるんになり、せっかく育った胸も真っ平らに退化していた。

 それにたぶん、お尻も小さくなったかも?


 でも、妙に爽やかな気分。集中力が増して、そっくり生まれ変わったかのような清々しさがある。


 これにはさすがのシャノワも驚いて、ぽかんと口を開けている。


「ねり、小さくなった」


「エラリー、ヘルメットは?」


「ただいま!」


 最後にメガネを外してヘルメットを被り、アイシールドを下ろす。

 視力も上がったため、裸眼でもボヤけなくなっている。

 すると、ロリティングスーツ全体に走る線が、青く光った。


「よし! ちゃんと晴子ねーさんの魔力が流れてる!! さすがわたし、大天才!」


 私は部屋を飛び出し、ベランダから思いっきりジャンプした。

 空は飛べないが、その跳躍力は凄まじく、建物から建物へひとっ飛びである。


 抜け毛に残った魔力では大したパワーは得られないだろうが、いまはとにかく助太刀するしかない。


「行くわよエラリー、晴子ねーさんを救いに!!」

Bパートに続きます。前後編です。


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