Bパート
少女の霊が、私の後ろで腰を抜かしている男子たちを睨んだ。
肝試しにきたやつらである。
「な、なんだあの女……」
男子の目にも見えている? 3人全員が少女を視認できているようだ。
全員に霊感がある、とも思えない。じゃあ本当は人間? それかもしくは、ホラー映画に登場する強力な悪霊のように、霊感がない人にも見えるほどの力を秘めているのか。
少女の視線が殺気を放った。
「低知能の臭いがするな。惨めな死に様を見せてみろ」
ちっ、守りながら戦うって大変なのよ。
男子たちを守るべく構えると、晴子姉さんが私の前に立った。
「ねり、下がって。その子たちをお願い」
「晴子ねーさん……」
晴子姉さんが極太ビーム放ったが、少女は軽やかに回避し、姉さんに飛び蹴りした。
しかしさすがは晴子姉さん、怯みはしたものの魔法による超回復能力ですぐに体勢を立て直し、ステッキから伸ばしたビームの剣で少女に切りかかった。
「てい!」
「ちっ」
さらに剣をハンマーに変形させて思いっきりフルスイングし、少女をぶっ飛ばしたのである。
なんか、改めて感じるけど晴子姉さんチート過ぎない? すぐ回復するし多彩で超強力な攻撃を連発できるし。
晴子姉さんならあいつに勝てるかもしれない。
少女がゆらりと立ち上がると、ウーが腕を掴んだ。
「ここは引くぞ。まだあいつを相手にするには早い」
「……ふん」
「アムーニアも、帰ろう」
「ちょ、勝手に決めないでよ!」
と言いつつ、アムーニアたちは煙のように消えていった。
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帰宅後、晴子姉さんは今回の件をシャノワに話し、私はネットであの家について調べた。
「シャノ、あの少女は悪霊なのよね?」
「うん。そういった悪霊はいる。強すぎる悪霊は一般人の目にも見える」
「なんであんなに強かったのかしら……」
「人の魂をたくさん食べたか、もともと強い怨念を持っていたか」
もしあいつとタイマンで戦うことになったら、私はきっと負ける。
いつまでもあんな「バトル漫画から来ました!」みたいな、私たちと空気が違うやつのいい気にはさせない。ロリティングスーツのさらなる強化が必要になるだろう。
「ねり、なにかわかった?」
「あの家の持ち主は明智さん。夫婦と一人娘の3人ぐらしだったんだけど、5年前に一家心中があったみたい」
「え!? じゃ、じゃああの子は……」
「そのとき亡くなったんだろうね。享年17歳。うわ、私の高校に通ってたんだ。SNSはやってない。名前はーー」
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「紅蓮菜。私の名前は明智紅蓮菜だ」
アムーニアの部屋で、紅蓮菜はベッドにあぐらをかきながらそう告げた。
部屋の主人は何故か床に座らされていて、不服そうに紅蓮菜を見上げている。
「なんであんたが上で私が下なのよ!」
「私のほうが年上だからだ。年功序列ってわかるか? 小学生」
「私は高校生だ!!」
「そんな小さいのに? 変なやつ」
「ムキーッ!! ちょっとウー、本当にこんなやつを仲間にするの!?」
ウーはアムーニアを無視し、紅蓮菜に問いただした。
「ところで聞いていなかった。どうして世界を絶望に染めたいんだ?」
「私を無視すんな!」
「そこまで話してやる義理はない。お前たちこそまだ話してないだろう。お前たちのボス、オロチはどうやって目覚める。目覚めたらどうなる?」
「いや、無視しないでよ……」
「大量の悪霊の負のエネルギーが必要だ。オロチ様復活の暁には、世界は悪霊のものになる」
「……もういいわよ、ぐすん」
「なるほど。ところでアムーニア」
「な、なに!?」
紅蓮菜はアムーニアの髪に触れ、ついていたゴミを払った。
「綺麗な髪をしているんだからもっと身だしなみに気をつけろ」
アムーニアの頬が赤く染まる。
だが相手がムカつく新人だと思い出すなり、腕を払った。
「触んな!」
瞬間、紅蓮菜は腕にピリッとした刺激を感じた。
ささいな痛み、とうぜん気にするわけもなく、紅蓮菜は窓から夜空を見上げた。
白く丸い満月が煌めいてる。
「相変わらず、綺麗な月だ。潰し甲斐がある」
ウーが紅蓮菜に期待の眼差しを向けていることに、アムーニアは何故だか疎外感と、劣等感を覚えた。
そろそろ第一章の締めに入ります。




