第9話 追加戦士登場!? Aパート
ねりが学校に行っている間は、案外暇しているのです。
あ、申し遅れました、エラリーです。
ねりが生み出した最高の人工知能、エラリーです。
おそらくねりを含め、多くの方がエラリーは多忙だと考えでしょうが、そうでもないのです。
だって私は超高性能ですよ? あらゆる雑務など、片手間で行えます。
その気になればねりの家の防犯をしつつブラジルのテレビ局を乗っ取り、人口衛生で海王星の写真を撮ることだってできるんです。
そんなことしませんけどね。
というわけで、ねりが家を留守にしているときは、基本的に芸術に触れて時間を潰します。
映画を鑑賞したり、電子書籍を読んだり。そうやってわたしのスマートなブレインがよりシャープになっていくのです。
なので正直なところ、私は主人であるねりよりも感情表現が豊かで、道徳性が育まれた存在だと思っています。
「おいエラリー」
はい? いま誰か私を呼びました?
「ふぅ。すげー頭がスッキリするぜ」
この声は誰のでしょう。監視カメラの映像を見ても、家にはまぐろのぶつ様しかいません。
世界一キュートなチワワです。
「誰ですか。誰がいるんですか」
「俺だよ俺、まぐろのぶつだよ」
はい? まぐろのぶつさま?
まぐろのぶつさまならソファの上で、天井に向かって吠えていますけど。
あれ、でも、鳴き声が聞こえません。
「本当にまぐろのぶつさまなのですか? どうして人語を?」
「お前も見たはずだぜエラリー、俺がビッグマスター(晴子さま)と共に魔力星を眺めていたことを」
そういえば、晴子さまが地球に接近した魔力星を見上げていたとき、まぐろのぶつさまを抱っこしていました。
そのときまぐろのぶつさまも上を向いていたような?
「ビッグマスターほどじゃねえが、俺もあの星に感化され、魔力が宿ったらしい。力が目覚めたのは、最近だがな」
「そ、そんなバカな……」
まさか犬が人並みの知能を持ち、言葉まで喋るようになるとは。魔力とは恐ろしい力です。
犬の骨格では日本語を話すことなど不可能ですが、これも魔力のおかげということにしておきましょう。
「と、ところでまぐろのぶつさま、私になにか用ですか?」
「あぁ、ミドルマスター(ねり)が着けてるようなあのヘルメット、俺にも作ってくれねえか?」
「ヘルメット? なぜ?」
「お前と通信できるんだろ? 外でも」
「はい。あれとなら私は繋がれます」
「手伝っちゃくれねぇか、俺をよ」
どういう意味なのでしょう。
それにしてもまぐろのぶつさま、ずいぶんダンディズム溢れる口調ですね。
「話が見えません」
「俺は泥まみれの野良犬だった。けど、あの2人が汚れちまった俺を助けてくれたんだ」
「ねりと晴子さまですね」
「2人に恩返しがしてぇ。でねぇと、腹のエキノコックスが治まらねぇんだ」
「ですが」
「……なら、いい。ワリィな、無理を言って」
まぐろのぶつはベランダの窓まで行くと、ものすごい跳躍力と頑丈な鼻を駆使して鍵を開けてしまいました。
まさか、魔力の影響で筋肉にも変化が?
「待ってください」
「なんだ?」
「ラボに来てください」
このまま放っておくわけにはいきません。
私が側にいないと、万が一のときまぐろのぶつさまが危険です。
まぐろのぶつさまがラボに入ると、お手伝いロボットを起動し、急いでプロトタイプロリティングスーツのヘルメットを改造させました。
「少々お待ち下さい」
「あぁ、いくらでも待つぜ。女を待つのが男ってもんだ」
キュン♡
まぐろのぶつさまは完成したヘルメットを被ると、全力ダッシュでラボを出て、リビングを抜け、ベランダの窓を器用に開けては外へ思いっきりジャンプしました。
ですが晴子さまのように飛べるわけではありません。
確実に、5階の高さからぐんぐんと落下していきます。
「ま、まぐろのぶつさま、死んでしまいます!」
「安心しな」
まぐろのぶつさまの言う通り、コンクリートの上に着地してもその小さなお身体はぴんぴんしています。
しかも軽やかに歩いてみせて、骨折すらしていないようです。
やはり、魔力により肉体が強化されています。
「よろしく頼むぜ、エラリー」
「頼むとは?」
「ミドルマスターやビッグマスターは悪人を倒し、街を守っている。なら俺は、腐りきった犬っころにお灸を据えてやるのさ」
なんて大雑把な説明だけして、まぐろのぶつさまは走りだしました。
え、ていうか私まぐろのぶつさまのアシストもするんですか?
この頭脳はねりだけのものだと思っていたのに……。
「さあ行こうぜ、レディ。素敵なデートにしよう」
ま、いっか♡
それではみなさん、不肖わたくしエラリー、ねりに内緒で人生初デート楽しんできまーす!!




