Bパート
とある日の夜。
私はお風呂場でシャノワの頭を洗いながら、浴槽に入っている晴子姉さんの身体をじっくり眺めていた。ただでさえ2人でも狭い浴室に、3人も入ってるわけである。
ふふ。ふふふ。それにしても晴子姉さんの太もも、太くて綺麗だなあ。なんていやらしいこと考えていると、突然シャノワが唸りだした。
「うぅ~。ねり、目、痛い」
「え? あ、ばか。目は閉じてなさいって言ったでしょ」
「ふふ。ねり、お姉さんみたいね。シャノが妹で」
「もう、いい加減1人で頭洗えるようになりなさいよ」
ちなみに鉄一郎先生はリビングにいて、晩御飯を作っている。
「あ~あ。それにしても鉄くん。年上は嫌いなのかな」
「そんなことないよ晴子姉さん。年上の女性に恋い焦がれない男はいないよ」
「でもなんか、私に対してそっけない気がするのよね」
確かに、晴子姉さんが親しく話しかけても、鉄一郎先生は反応が薄い。
晴子姉さんに話しかけられるのがどんなに、どんなにありがたく名誉なことか
すると、半透明の青いバーチャルディスプレイが目の前に現れて、エラリーが話しかけてきた。
「ねり、お話が」
「ちょっとエラリー、お風呂でディスプレイ出すのは故障の原因だって言ってるじゃない」
「申し訳ありません。ですが、見てください」
シャノワが肩までお湯に浸かると同時、ディスプレイは監視カメラの映像を流し始めた。 私だけでなく晴子姉さんも眉を寄せて、それを眺める。
なんと、そこに映っていたのは……。
「鉄一郎先生!?」
「エラリーちゃん、これ本当なの?」
「マジです」
映し出されている光景に2人して驚愕し、目を丸くする。だって洗面所に、つまり浴室と扉1枚挟んだ向こうの空間に、鉄一郎先生がいるのだから!
振り返って扉越しに鉄一郎先生を確認してみる。浴室扉は少しだけ透けていて、人の影ぐらいだったら見えるのだ。
だけど、鉄一郎先生の影はない。
再びカメラの映像を見ると、扉から見えないよう、壁際に立っているのに気づいた。
しかも、耳に手を添え、頑張ってこっちの音を聞いている。
「や、やばいよ晴子姉さん……」
この人は、変態だ! 本当は晴子姉さんが大好きで、入浴中の音や声から晴子姉さんのお湯も滴るナイスな裸バデーを想像しようという、とんでもない変態やろうに違いない。
うわ。見損なったよ鉄一郎先生。
晴子姉さんは恐怖で身を震わせて、シャノワに抱き付いている。
シャノワといえば……状況がいまいち理解できていないようだ。
だけど晴子姉さんが怯えているのはわかっているようで、無表情のまま慰めている。
抱きしめ返して、頭をなでなで。
いいな。私も慰めたい。
って、それどころじゃないよ。
いますぐ裁判を開いて、とっちめなきゃ!
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お風呂事件の翌朝、私は早起きして晴子姉さんと朝食を作っていた。
いつもは遅起きの私だけど、今日はなぜだか早く起きちゃったのだ(そういう日あるよね)。
で、問題の鉄一郎先生なんだけど、「洗面所を掃除しようとした」なんてわかりやすい嘘でしらばっくれている(だからまだこの家にいて、いまはリビングでテーブルを拭いてる)。
……はぁ。でもさ、そんな100%嘘の話をさ、晴子姉さんは信じちゃったのよ。
人が良すぎるというか、抜けてるというか(更年期障害ってやつなのかなー)。
晴子姉さんがお手洗いに行っている間、私はお茶椀についだご飯をリビングに運んだ。
「あれ?」
鉄一郎先生がいない。リビングにいるはずなんだけど。
そのとき、寝室の扉が開いて、シャノワと鉄一郎先生が手を繋いで現れた。
「鉄一郎先生、どうして寝室に?」
「シャノワちゃんの着替えを手伝っていたんだよ。小学校の制服にね」
なんて、満面の笑みで鉄一郎先生は答えた。
シャノワは相変わらずの無表情で、なにを考えているのかわからない。
「そうなんですか」
なるほどね。着替えをね。晴子姉さんの着替えを手伝っていたのなら叩き転がすけど、シャノワだし、仕方ないよね。あの子はまだ1人で着替えられないし。
「ご苦労様です」
「お安い御用さ」
……って、おい。
シャノワの着替えを手伝っただと?
それってつまり、パジャマを脱がしたってことだよね。
シャノワを脱がしたのか! いくらシャノワが幼女だとしても、鉄一郎先生が脱がせるのは間違ってる!
「変態!」
「ち、違うよ。僕は優しいだけさ。それにちゃんと目は瞑ってた! 着替え中はちゃんと後ろを向いてたんだよちゃんと!!」
「あやしいと思ってました。鉄一郎先生って、やっぱり変態なんですね!」
「どうしてそうなるんだ」
茶碗をテーブルに置き、シャノワの手を引いて鉄一郎先生から離す。
「出ていってください!」
こんな人とはもう一緒に暮らせない。いますぐ退去願う。
すると鉄一郎先生は顔を真っ赤にして、私に怒鳴りつけたてきた。
「ふざけるな!」
「怒りたいのはこっちで――」
「怒るなら幼女状態で怒れよ!」
は?
「いや、く! 言ってやるぞ、我慢の限界だ。君はなんで常に幼女でいてくれないんだよ」
「あ、あの」
「それにくらべてシャノワちゃんはずっと幼女だから良いよなぁ。……あ、あぁ! ダメだ。ずっと堪えてきたから、もう抑えられない!」
「えっと~」
鉄一郎先生は身体をくねくねさせながら、不気味な笑みで距離を詰めてくる。
すごくキモイ。これにはさすがのシャノワも気味悪がって、顔が引きつってる。
迫る鉄一郎先生はまるで怪物。まるで妖怪。助けて晴子姉さん!
「そうなんだ。黙っていたけど、僕は変態なんだよ! ロリコンなんだ!! シャノワちゃんのすべすべお手てに触れたい、ロリ田ねりのぷにぷにほっぺをぷにぷにしたい。ずっとそれだけを考えてきたんだよ。そのために協力してるんだから!」
誰がロリ田ねりだ。
あ、そんなことより、ロリコン? ロリコンって小っちゃい女の子が好きな人だよね?
そんな人、本当にいるとは思わなかった……。
「シャ、ノ、ワ。素晴らしい名前だ。シャ、ノ、ワ。舌の先が口蓋を叩く。うっひょおおお!」
鉄一郎先生は絶叫を上げながら上半身の服を脱いで、裸体を見せた。
「今朝のシャノワちゃんのパジャマの匂い、桃の香りだったなぁ。そして細いながらも、どこかふっくらしているふくらはぎ、コッペパンのようだった。丸い顔にゆるい視線を泳がせて、けれど古いアルバムに納められたセピア色の写真がごとき褐色が、華奢な身体を染め上げ色っぽさを感じさせる。あぁ、思いだすだけで、思いだすだけで心臓が張り裂ける。見てくれ、胸の中心にある僕のホクロを。もっとよく見てくれ、そこに生えた一本の弱々しい毛を」
うわ。ホントに生えてる。なんかキモイ。
「その眼だ、その眼で見てほしいんだ! あはぁあん! ロリ田ねり状態の君に見られていると想像するだけで、立つ。ホクロの毛が、ビンビンに立っちゃうよおおお!」
……もう、あまりのキモさになにも考えられない。
「はぁはぁ、触ってくれシャノワちゃん。君の小さな、小枝のように繊細な褐色の手で、僕のカチコチのホクロと、ビンビンに逆立った毛を触ってくれ!」
「シャノワ、私の後ろに隠れて!」
「ねり、君でもいい。さあ、幼女になるんだ。ロリ田ろりになるんだ。シャノワちゃんと対照的な白い肌に、スパッツが微かに食い込むほど健康的な太もも。元気に腕を伸ばして戦う姿はまさに休み時間に友達とボール遊びをする純真無垢な子供のよう。しかしあらゆる邪気を寄せ付けないあのきりっとした強い眼差しがまた愛らしい。さぁ、その愛らしい瞳で僕を見下しながら、コリコリのホクロを触ってくれええええ!」
「ぎゃあああ!」
その後、事態を聞きつけた晴子姉さんによって、鉄一郎先生は図太いビームの餌食になった。
窓を突き破り、ベランダから落下して……ご臨終です。
でもこれで、子供たちが安心して暮らせる世界が戻ったのだ。
さよなら、鉄一郎先生。
とても気持ち悪かった鉄一郎先生。
あなたのホクロのこと、はやく忘れたいです。
……大きかったな、鉄一郎先生のホクロと毛。
ちなみに、鉄一郎は全治一週間の怪我を負っただけでした。
こういう人間に限って生命力高いの、人類という種のバグですね。
今後は週2更新になりますー!
よろしくお願いしまーす!!




