Bパート
ロリティングスーツを装着しながら、その場から距離を取る。
ヘルメットのアイシールドで改めて確認するが、悪霊はやはり見えない。こんなこと、いままでなかった。
スーツが壊れた、わけではないだろう。おそらく、消し子自身の能力で自分を消しているのだ。
「ねり、聞こえますか?」
「エラリー、どうしたの?」
「凛様と鉄一郎様の生体反応があります」
アイシールドがサーモグラフィーモードに切り替わる。
たしかに、目には見えないだけで、凛が廊下に横たわっていた。
「凛!」
駆け寄り揺さぶるが、返事がない。気を失っているらしい。
妙な音が聞こえてきた。なにかを引きずっている音だ。
振り向くと、同じく気絶している鉄一郎先生が、見えない悪霊に引きずられていた。
「くっ、離せ!」
インパクトハンドガンで悪霊がいるであろう場所を撃った。
「ぐえっ! お前、俺が見えているのか!」
「……男の声?」
「いや、見えてはいないみたいだな。小さくなったと思ったら攻撃しやがって、気味悪いんだよ!!」
私の胸部に衝撃が走り、数メートルふっ飛ばされる。
インパクトハンドガンを連射して反撃するも、直撃した感触はなかった。
HMMミサイルを一斉発射すれば爆破の衝撃で倒せるだろう、しかし、凛や鉄一郎先生まで傷つけかねない。
「こんなに喋るなんて、あんた『ウー』なの?」
「誰だあ? そいつ」
「あんたもアムーニアの仲間じゃないの?」
「知らねえっつってんだろ!」
私の体を触手のようなものが締め付け、そのまま何度も壁や廊下に叩きつけられる。
スーツのおかげで重傷は避けられているが、衝撃で体の節々が痛み、脳もクラクラしてきた。
「お前も気に食わねえ、消してやる」
「き、気に食わないから、2人を消したの……」
「あの男はイケメン、あの女子はスカート短すぎ。気に食わねえ、この学校に相応しくねえ。このまま屋上から落としてやるぜ。ククッ、見えねえから誰も死体を処理しねえ、じっくり死体を腐らせてやるぜ」
「悪趣味、ぶったおす!!」
「どうやって? 俺がどこにいるかもわからねえのによお!!」
見えない攻撃に足を払われ、すっ転んでしまった。
「ねりご注意を。スーツにも耐久値があります」
「わかってるって」
私はあくまでも、本来目視できないはずの悪霊の姿を、魔力を利用して見ているだけ。姿そのものが隠されてしまったら、視認できない道理。
おそらく、晴子姉さんやシャノワなら、第六感で悪霊の居場所を『感じ取る」ことができるのだろう。
しかし、今回だけは2人を頼りたくない。頼らない。
私の親友や罪もない先生を襲いやがって、許せない。
絶対に私の手でぶっ倒してやる!!
「ねり、煙を散布することで煙の動きから相手の位置を探る手段があります」
「あいつに実体が、肉体があるならね」
一応、試してみるか。
エラリーに指示を出し、学校の警備システムをいじって天井に設置されたスプリンクラーを起動させる。
小さな水の粒が降り注ぐが、凛と鉄一郎先生がいる場所だけ水が弾かれるだけである。やはり水は悪霊を通り抜けてしまっているようだ。
「ちっ」
どうする。どうすればいい。
どんな武器なら倒せる。他になにができる。
インパクトハンドガンは当たらない。HMMミサイルを外で使おうにも、ただでさえ見えないのに広い空間に出たんじゃ当たりっこない。
晴子姉さんとシャノワを呼びたくない。お手伝いロボットは……魔力を流すように改造してないから使えない。
あとあるのは、あるのは……エラリー。
エラリー?
……そうか、エラリーがいる!!
私はヘルメットのこめかみの部分を押さえ、目を凝らした。
「エラリー、よく敵を探して! アイシールドにきっとはんのーがあるはずなのよ!!」
瞬間、再度悪霊に吹っ飛ばされたあげく、ヘルメットを奪われてしまう。
取られたヘルメットは瞬時に消され、見えなくなってしまった。
「ケケッ、これでお前は完全にーー」
私は急いでメガネを掛けて、悪霊に向かって殴りかかった。
「なにっ!?」
拳は見事直撃。続けざまに、悪霊にインパクトハンドガンの銃口を向けた。
「な、なぜ居場所が!?」
「エラリーが教えてくれたのよ、ヘルメットの位置、あんたがいる場所をね」
ロリティングスーツのパーツはすべてネットワークで管理されている。
つまり、1個1個が発信機になるのだ。
「じゃあ俺にヘルメットを取り上げさせたのは」
「動き全てが罠よ」
ハンドガンを発射するも、まだ成仏しない。
私はそのまま悪霊を掴んで窓から校庭に飛び出し、悪霊を放り投げ、ヘルメットに向けてHMMミサイルを一斉発射した。
「俺は、俺はこの学校の支配者なんだあああああ!!!!」
その断末魔を最期に、消し子さん(男)は目視できる砂となって消滅した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「凛、起きて」
悪霊を倒すと凛や鉄一郎先生の体は元に戻っていた。
ロリティングスーツを脱いで凛の体を揺らすと、ゆっくりと目を開けて、起き上がった。
「あれ、ねり。え、私寝てた?」
「う、うん。なんか音にびっくりして気失ってたよ」
「マジ〜?」
鉄一郎先生も目を覚ました。
「僕はいったい……」
凛に話したような嘘で無理やり納得させて、私たちは校舎を出た。
鉄一郎先生と別れる直前、私は先生にとある疑問をぶつけた。
「先生、この学校で誰か亡くなったみたいな事件、あったんですか?」
あの悪霊の学校に対する執着心、尋常ではなかった。
きっと生前にこの学校に対して強烈な負の感情を抱いていたに違いない。
「あ〜、僕も校長から聞いた話なんだけど、前の校長、校内で倒れて亡くなったんだ。かなり厳しい人だったらしい。なんでも校則を破った生徒は容赦なく殴ったり、風紀を乱す物、景観に相応しくない物は勝手に捨てたりする人だったとか」
なるほど、じゃああの悪霊は全校長の亡霊だったわけだ。
厄介な敵だった。本気で殺されるかと思った。
「ねり、帰ろう」
「あ、うん。じゃあ先生、また明日」
自宅への帰り道、凛は私の顔を覗き込んで、心配そうに眉を潜めた。
「転んだの? なんか顔とか足に痣ができてるけど」
「え!? さ、最初からだよ」
「ふーん。で、どう?」
「どうって?」
「息抜きになった? 最近ねり、ずっと忙しそうだったし」
「凛……」
なんだか猛烈にイチャイチャしたくなって、久しぶりに凛と手をつないだ。
もし私が男だったら、絶対に凛を誰にも渡してなかったと思う。
凛を守れてよかった。
ギャグなしのマジバトル回でした。
たまにはこういうのも、いいよね?




