Bパート
一旦家に帰り、超高性能ASMRマイクとスライムを用意しました。
「みんな聞こえてるかな?」
カメラを意識しながらスライムをくちゅくちゅと鳴らすたびに、配信のコメント欄が加速する。
えっちだとか興奮してきたとかのコメントを読むたびに、どんどん気持ちが高ぶってしまう。
私いま、注目されてる!
「え? 耳舐め? うふふ、仕方ないなあ。あーん」
「やめなさいねり!」
晴子姉さんに配信を無理やり停止させられ、マイクを没収された。
いくら晴子姉さんでもこれは許されない。
「シャノ、ねりはいったいどうしちゃったの?」
「あの悪霊の邪気にあてられたんだと思う。人の心を刺激する能力がある。晴子は魔力に守られてるから無事だったけど、ねりは魔力が宿ったスーツが脱げたから、術を受けた」
「取り憑かれたわけではないみたいだし、参っちゃうわ〜」
「これがあの悪霊の能力なら、倒してみるしかない。いまは、力を抑えているみたいで気が感じられないけど」
なんかゴチャゴチャ言ってる。
お! さっきの配信のおかげでSNSアカウントのフォロワー5000人も増えてる。
うひーっ! 気持ちいいいいいいいい!!!!
もっとフォロワーがほしいな。いい方法ないかな。
そうだ! エッセイ漫画を描こう! 天才JKの日常的な漫画。ネタがなくなったら嘘つけばいいし、手っ取り早くフォロワー増やせるじゃん!!
「ねり、私とシャノで悪霊を探してくるから、ここでなにもせず大人しくできる?」
「……うん」
「本当に? 悪霊退治をしているのバレたら面倒になるって言ったの、ねりなんだよ? 野次馬とかマスコミのせいで活動しにくくなるって」
「わかってるって」
「ならいいけど……」
2人が家から出ていった。よし、漫画描くか。
うーん、でも絵って自信ないしな〜。絵上手い人に金に渡して私が描いたってことにしようかな。
善は急げ。この前知り合った絵師に依頼書送ろう。
えーっと、そうだな。天才JKってことはすでにみんな知ってるから、やっぱりここは裏で私と晴子姉さんがどんなことをしているかを……。
「ねりいいいいい!!」
「げっ、晴子姉さん!! どうして帰ってきたの!?」
「エラリーちゃんから連絡きたのよ。ねりがバラしそうって」
「なっ! ちょっとエラリー、なにやってんのよ!」
「ご主人さまが承認欲求に溺れて身を滅ぼす様など見たくありません」
晴子姉さんはどこからか手錠を取り出し、私の腕と自分の腕を繋いだ。
「しばらく離れないでね」
「……手錠で繋ぐほど仲のいい姉妹、映えるな」
「なんでもいいけどねりも一緒に行くわよ!」
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外は凄いことになっていた。
みんなして写真をパシャパシャ、自慢話をぺちゃくちゃ、意味不明な演説をしまくっている。
あらためてネットを覗いてみれば、ネットリテラシーなどなんのその、個人情報ダダ漏れの投稿が広がっていた。
「私も乗るしかない。このビッグウェーブに」
埋もれてたまるもんですか!
「ねり、変なこと考えてない?」
「……考えてない」
「それより、盗まれちゃったスーツは大丈夫なのかしら?」
「あ〜、うん。お手伝いアームロボット使って回収したから大丈夫」
途端、晴子姉さんが上空を見上げた。
「いたわ!」
どうやら悪霊がいたらしい。
これは……私のロリティングスーツの性能を人々に披露できるチャーンス。
「エラリー、着装よ!」
「えぇ〜、大丈夫ですか〜」
エラリーが渋々アームロボットを発射し、私はロリティングスーツを装着した。
強化された腕力で手錠を引きちぎり、悪霊に向かって跳躍する。
「エラリー録画しといて! はいみなさんこんねり〜。今日はですね、私豊田ねーー」
動画用の自己紹介を言い終わる直前、晴子姉さんが放ったビームをモロに喰らい、地面に落下してしまった。
はじめてビームを受けたけど、めっちゃ痛い。
「なにするの晴子ねーさん!!」
「頭を冷やして!」
晴子姉さんは真剣な眼差しで、私の肩を掴んだ。
「ねりが正体を明かしたら、私はとても困るわ。一緒に暮らしてるシャノだって、せっかく学校に馴染み始めたのに、いろいろ言われちゃうかもしれない」
「……」
「ねりは自分の承認欲求と家族、どっちが大事なの?」
「しょーにんよっきゅー」
「あ?」
やべ、ガチで睨まれちった。
晴子姉さんの怒った顔、めっちゃ怖いけどゾクゾクする。
「う、嘘だよ。もちろん大事なのは……」
私がこの世で一番大事なのは、晴子姉さんたちだ。それは変わらない、絶対に。さっきのは本当に冗談だ。
でも、ちやほやされたい。目立ちたい。
自虐風自慢がしたい!!!!
「私は、私は……」
「それにねりは、アカウントをバズらせたりえっちなASMR動画投稿しなくたって、最初から大天才で超有名で、世界で最も影響力がある社会的ヒエラルキートップの女子高生じゃない!!」
「はっ!」
そうだ。晴子姉さんの言うとおりだ。
私は豊田ねり。本名、豊田ねり・E・ダ・ヴィンチ。IQ3000億にして1000万年に1人の逸材、フェルマーの最終定理を5歳で証明し、レオナルドダヴインチとトーマス・エジソンの子孫でありながら、最初に火をおこす方法を確立した原始人の生まれ変わりとも噂されている豊田ねり・E・ダ・ヴィンチなのだ!!
普通の人間がいくらネットで活動したって到達できないインフルエンサーの頂に、私は君臨しているじゃないか!!
「私が間違ってたよ、晴子ねーさん」
「ねり、目が覚めたのね」
ありがとう晴子姉さん。危うく私のせいでチーム晴子姉さんが壊滅するところだった。
承認欲求を高めるとは、なんという強力な敵。これ以上野放しにはできない。
「エラリー、しんへーきを使うわよ!」
「了解しました!」
天高く跳躍するとスーツの二の腕と脛のパーツが小学生の筆箱のようにパカッと開く。
中には小さなミサイルがいくつも収められている。魔力を内蔵した追尾式ミサイルである。
「ねり、HMMミサイルを発射します!!」
超小型ミサイルが一斉発射され、悪霊に直撃するなり大爆発を起こした。
煙が晴れるころには悪霊の姿は消えていた。砂となり消滅したのだろう。
そのおかげか、私の胸にあった承認欲求はスッパリ消え去り、街の人々も大人しくなり始めた。
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その後、私はすでに投稿されてしまったASMR動画を削除したのだが、一度ネットの海に流れたものが完全に消えるわけもなく、保存していた人たちによって再アップロードされてしまった。
とんだデジタルタトゥーが彫られたもんである。
同じような被害に苦しむ人々は大勢いる。
あの悪霊が残した爪痕は未来永劫ネット社会に刻まれ続けることだろう。
承認欲求、自己顕示欲は人生を狂わせる。そんな当たり前のことを再確認した一日だった。
……この経験を本にしたらもっと知名度上がるかな?
ねり、晴子、シャノワは同じ部屋で寝ています。
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