第1話 晴子姉さん、魔法少女になる!?(初回拡大版)
春休み!!
子供だけに許されたハッピーバケーション!!
友達に来年も遊ぼうねとか言ってクラス替えによるぼっち化を避ける予防線を貼ったり、一つ学年が上がっただけで大人ぶってイメチェンしてみたり、進学した途端疎遠になるにも関わらず、友達と永遠の友情を誓ったり、毎日が悲喜交交のラビリンス。
春休みとはつまり、イエーイめ〜っちゃホリデイなのである。
いや、正確には「なのだろう」、だ。
なんせ私はこの春休みの約一ヶ月間、ずっと仕事をしていたから。
高校生のコンビニバイトとは格が違う、海外でのお仕事をしていたのである。
「あ、ねり〜」
空港についた私に、幼馴染の凛が手を降ってきた。
「凛、わざわざ来てくれたの?」
「だっていち早くお土産欲しいもん」
「しょうがないな〜。ほれ、イギリスのお菓子」
「そういうアマゾンで買えるやつじゃなくて現地でしか手に入らないのにしてよ。ベルサイユ宮殿の外壁とかさ〜」
「……そんなん貰って罪悪感を抱かないなら少年院入ったほうがいいよ」
しかもベルサイユ宮殿はフランスだし。
そんなこんなでタクシーに乗り込み、家に向かう。
完全無人運転の最新車で、乗客の体温や感情を読み取り望む場所に瞬時に寄り道してくれたり、恋人と喧嘩した女性が乗り込んだ場合、移動中にかかってきた電話の内容を聞いて彼氏の元に返し、涙を誘うBGMを流したりもしてくれる気の利くタクシーである。
ちなみに、一体全体私はイギリスでなんの仕事をしていたのかと問われれば、とある企業の技術協力をしていたわけで。
なにを隠そう、私は史上最高の発明家、IQ測定不能の大天才女子高生なのだから。
このタクシーだって、私が開発したのである。
そっとメガネの縁に触れると、レンズ内に青いバーチャルディスプレイが出現した。
「エラリー、家の様子は?」
私が生み出した人工知能、エラリーの声がディスプレイから流れる。
「な、なにも問題ありません」
「よかった。はやく晴子姉さんに会いたいな〜」
私の両親は私が発明で稼いだ金で海外移住してしまったのだが、愛国心が強い私は日本に残り、親戚の家で暮らしている。
その親戚こそ、この大天才様が尊敬してやまないたった一人の人物、晴子姉さん(32歳)なのだ。
困っている人は放っておけない性格で、北海道へ出張した友達がスマホを忘れた際には東京から走って届けに行ったのは、地元でも有名な逸話。
真面目で優しいだけでなく、現代の小野小町と呼ばれるほどの美貌を兼ね備えた女神でもあるのだ(呼んでるのはいまのところ私だけ)。
存在が神秘すぎて、太陽が明るいのは晴子姉さんの輝きを反射しているからではないかとも噂されている(噂してるのはいまのところ私だけ)。
あぁ、あの美しい茶色い髪と大っきなお胸が恋しい。
愛する人と生活して、仕事も順調。しかも世界に名を轟かせ、圧倒的センスと頭脳による数々の発明品で大金持ち。まさに順中満帆。それが私、豊田ねり。
いや〜、人は皆平等って理念は素晴らしいけども、実際は私のような生まれついての『持っている』人間っているのよね。
なんて幸せな人生なのでしょう。うふふ。
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埼玉県某市のマンションに私の家がある。
金持ちのくせに庶民的な家に住んどりまんがなとよくツッコまれるが、二人暮らしで大豪邸に住んでしまったら晴子姉さんと顔を合わせる機会が少なくなるので、慎ましい生活をしているってわけなのだ。
日が沈み、月明かりが煌めきはじめた時間帯にマンションに到着し、私は駆け足でエレベーターに乗り込んだ。
それから5階にある私の家の玄関扉を開けて、
「ただいま! 帰ったよ〜!!」
と元気よく告げてみたものの、返事はなかった。
おかしい。廊下やリビングの明かりは点いているし、晴子姉さんの靴もある。
普段なら音楽聞いてようが電話中だろうが「おかえり」と言ってくれるのに。
それに、見知らぬ小さな子供用の靴もある。
なぜだか無性に嫌な予感がして、眉を潜めながらリビングを向かうと。
「あ、ね、ねり……」
青いふりふりの可愛らしいドレスを着た、晴子姉さん(32歳)と、褐色の肌をした小さな女の子がいた。
私の大好きなウェーブの掛かった長い茶髪も水色に変わっているうえに、先端にハートが付いているステッキまで持っている。
しかもドレスの胸元はハート型の穴が空いていて、デカすぎるおっぱいの谷間が顕になっていて、すごく……えっち。
「……え、晴子姉さん、なにその格好」
これにはさすがの私も大混乱である。
まさかロリを部屋に連れ込んでコスチュームプレイをしていたわけでもあるまい。
晴子姉さんはダラダラと汗を流し、顔を真赤にして、告げた。
「私、魔法少女になっちゃったの……」
「……は?」
こうして、晴子姉さん(来年33歳)が春休みにとんでもないイメチェンをしたのを皮切りに、私の順中満帆の人生が終焉を迎えたのだった。
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「で、なにが一体どうなってるわけ?」
とりあえず2人を席に座らせ、事情聴取をすることにした。
天才科学者としての経験上、こういうときこそ冷静な分析力が求められるのである。
「実はね、ねり。私、2週間前から魔法少女をやってるの」
「えーっと、なんで?」
「彗星が地球に近づいてきて、いろいろあったのよ〜」
そのいろいろが知りたいんですけどもね。
すると、いままで黙り込んでいた褐色肌の少女が喋りだした。
「正確には、魔力の塊『魔力星』。晴子はそれに感化され魔法少女になった」
「ま、魔力星? ちょっとエラリー、そんなの地球に接近してた?」
人工知能の声が家全体に響く。
「観測していません。おそらく、一部の人間にしか感知できないオカルト的なやつなのでしょう」
「うーん……。てかエラリー! あんた家に異常事態は起こってないって言ってたじゃん!!」
「だってねり絶対信じないじゃないですか。『頭バグっちゃったの?』とかいって」
お、おぉ、さすがは私が生み出した最高の人工知能。主人の性格をよく把握している。
「と、とりあえず晴子姉さん、魔法少女になったのはわかったわ(わかってないが)。それで、あれよね、ただコスプレしてそこにいる変なアニメに影響されちゃった子供のヒーローごっこに付き合ってるだけなんだよね? それが魔法少女の活動なんだよね?」
「いやそれがね……」
途端、晴子姉さんが遠くを見つめだし、
「いる!」
窓から飛び出し、なんと空を飛んで闇夜に消えてしまった!!
「え!? ちょ、晴子姉さん!??」
「晴子は悪霊を退治しにいった。それが魔法少女の努め」
魔法少女なのに悪霊倒すの? 霊媒師の仕事じゃないのかよ。
「さっきからなんなのよあんた!」
「魔力星からやってきた晴子のサポート係。名前はシャノワ。晴子が命名してくれた」
「また意味わからんことを。とにかく晴子姉さんを追うわよ。エラリー、find晴子姉さんを起動して」
晴子姉さんがいつも着けている腕時計にはGPSが埋め込まれている。これで晴子姉さんがどこにいるのかわかるのだ。
私は謎の子供シャノワを連れ、自作のバイクに乗り込んで走り出した(最高時速400km)。
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晴子姉さんがいたのは土手だった。
彼女の前には、なにやら生気のないサラリーマンと、ビクビク怯えている男子小学生がいる。
サラリーマンはなんだかイヤラシイ目つきで、小学生を見下ろしていた。
「かわいい。かわいい男の子と遊びたい……」
えぇ……なにこいつ。
小さな男の子に性的興奮を覚えいらっしゃるお方?
「まさか、あのサラリーマンが、悪霊?」
と、晴子姉さんは「その子から離れなさい! てい!」などと可愛らしい掛け声と共に、サラリーマンに向けてステッキから光弾を発射した。
サラリーマンは光弾に倒れたきり、動かなくなる。
こ、これで戦闘終了、なのか? ショタコンサラリーマンは無事成敗されたし、万事解決?
「もう大丈夫よ、はやく逃げなさい。あと、夜遊びはダメよ」
晴子姉さんが宥めると、小学生は脱兎のごとく走り去った。
「は、晴子姉さん、大丈夫?」
「ねり、まだ来ちゃダメ!」
「へ?」
晴子姉さんがサラリーマンに向けてステッキを構えた。
「出たわね!」
出たわねって、サラリーマンはまだ気絶しているみたいだし、誰かが来た様子もないのだけど。
「ちょ、シャノワだっけ? 晴子姉さんどうしちゃったの?」
「あの人間に取り付いていた悪霊が出てきた」
「いやそんなの見えないけど」
「センスがないから」
「……いまなんて?」
「センスがないから悪霊が見えない」
「セッ……」
こ、このガキ、私に向かってセンスがないですって?
天才過ぎて3歳の時点てIQ5000万を超えたこの私が? フェルマーの最終定理を5歳で証明し、レオナルド・ダ・ヴィンチとトーマス・エジソンの子孫でありながら、最初に火をおこす方法を確立した原始人の生まれ変わりとも言われる、1000万年に一人の大天才、豊田ねり(本名、豊田ねり・E・ダ・ヴィンチ)に向かってセンスがないだとおおお!!??
「じゃ、じゃああんたは見えてんでしょうね! だったらボケっと突っ立ってないで加勢なりしなさいよ!! サポート係なんでしょ!!」
「無理。シャノワは非戦闘員」
「頭脳担当ってこと? なら作戦考えるとか」
「……さく、せん?」
「何しに来たんだお前は!!」
などと騒いでいると、晴子姉さんが悲鳴を上げながら吹っ飛んだ。
「晴子姉さん!?」
「くっ、大丈夫よ」
よろめきながら立ち上がると、晴子姉さんはステッキから剣状のビームを出現させ、見えない敵へ振りおろした。
「ど、どうなったの?」
「おぉ! 晴子、力が増している! もう倒した!!」
「そ、そうなの? そ、それはよかった……」
もしこれ以上晴子姉さんの身に何かがあったら、ショックで心臓が止まりかねない。
でも、どうやら悪霊というのはそんなに強くないみたいだし、魔法少女の活動も安心、なのかな?
って、いつのまにかオカルトヒーローごっこを受け入れてしまっている。私の対応力の高さが仇となってしまったか。
「晴子姉さん、大丈夫? 血、でてるけど」
「うん。これくらいなら大丈夫」
すると、まるで時間が逆行したかのように、晴子姉さんの傷口がみるみる塞がっていった。
「魔法の力ですぐ傷が治るの」
「じゃあ晴子姉さんは絶対安全なんだ……」
と、シャノワが口を挟んできた。
「そうでもない」
「は? なんでよ」
「回復には膨大な魔力を使う。そして、魔力を使いすぎると、魔法少女は存在が消滅してしまう」
「……はい?」
「頑張りすぎると死ぬ。それでも悪を倒すために戦う悲しい存在。それが魔法少女」
「はいいいいいいいい!!?!?!?!?!?」
私が絶叫すると、晴子姉さんが呟いた。
「その話を聞いてたときにねりが帰ってきて……」
さっき教えてもらったのかよ!!
「やばいよ晴子姉さん!! こんなの続けちゃダメだよ!!!!」
「でも、誰かが襲われているならほっとけないわ!」
いやその優しさと勇気は本当に尊敬しますけどもさ。
「だけどさ……」
「き、きっと大丈夫よ! 気合の問題だわ! ガッツガッツ!! 」
その自信はどっから湧いてくるんだか。
ああもう! マジの本当になにがどうなっているのか、誰か私に説明してくれ!!
全米待望の新作です!!
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