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鬼の子異世界に迷い込む  作者: クリスエス
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序章

宜しくお願い致します。

ブックマーク、評価、コメントお待ちしております。

沢山の人に読んで貰えるのであれば今後も連載していきたいと思います。








時々全てを破壊したくなる・・・。



自分でも押さえきれない程の怒りが俺を支配するんだ・・・・・・。












親の記憶は殆ど無い。物心ついた時には俺は祖父の家で暮らしておりそれ以降も彼らと会うことは無かった。祖父の話では俺の両親はろくでもない人間だったそうだ。

その二人の子供なんだからお前もろくな者じゃないと常々言われ続けていたのを覚えている。子供心に俺はそういうもんなのだと理解した。

幼少の頃、小学校には行かせてもらえなかった。その代わりやることは山のようにあった。掃除、洗濯、料理、祖父の身の回りの事は全て俺がやらなければならなかった。

朝は陽の出る前には起床し家中の拭き掃除から始めなくてはならない。古い家だったが広さはかなりあり、子供の要領では半日はかかる程だった。朝、祖父が起きてくるとまずは折檻からはじまる。掃除が遅い、汚れがとれていない、やり方が違う。祖父は片手に持った竹刀を俺に叩きつける。それが俺の朝の日課だった。

小学校には行かせてもらえなかったが祖父は教育には熱心だった。算数や国語といった授業ではなく祖父が考える生きるのに必要と思われる知識の授業だった。なので、俺は計算はかけ算までしかわからない。二次関数や因数分解なんかは習っていないからだ。しかし薬草の知識や兵法は知っている。相手が大人数で攻めてきたときの籠城の仕方、高低差のある場所での戦いかた。三國志や戦国時代の戦いの有り様を叩き込まれ野草から傷薬や毒を作らされた。

祖父は武術に秀でた人間だった。柔術、剣術、合気、暗器や現代武器にも精通していた。祖父の知識はスポーツの格闘技ではなく純粋な暗殺術そのものだった。俺の毎日は家の雑務以外はそれらの手解きを受ける日々であった。

そんな祖父も寄る年波には勝てず俺が16歳の時に死んだ。その日は朝から雪がちらつく日だった。いつものように厳しい剣術の指南を受けている時、祖父は突然苦しみだし心の臓を握り締めた。

俺はその様子を立ったまま眺めていた。


祖父の最後の言葉は



「・・・頑張れ」



だった。

彼の死に顔は今まで見たことがないほど穏やかな表情だった。

祖父が俺の事をどう思っていたかは今となっては知りようもないだろう。俺は祖父を恨んだり憎んだことは一度もなかった。俺にとって祖父との日々は日常でありそれ以下でも以上でもなかったからだ。

ただ天から降る粉雪が俺の頬を伝い涙に変わっていくだけだった。







祖父の残した遺産は俺がこの先一人で暮らしていくには充分な程あった。今まで祖父以外の人間とは殆ど顔を合わせる事が無かったが祖父の死後、弁護士と名乗る人間が5人ほど現れた。その者達の話では祖父には俺の他に身寄りは無く、必要な経費と相続税を除けば全て俺が引き継ぐことになるということだった。

祖父は晩年こそ引退はしてはいるが複数の企業の会長職を兼務しており実質的に会社を持っていたようだ。希望すれば俺はすぐにでもそれらの会社のトップに立つことができ実質的に経営することが出来る権利があると説明された。その他にも不動産や株、美術品や宝石等を多数残していた。


家の外では雪が積もっており庭の松の枝に積もった雪が重さに耐えきれずドスンと落ちた。俺は窓からその様子を眺めていた。


「俺はこの家だけでいいです。他の物は何方かにお任せ下さい。」


弁護士達は各々慌ててその価値を説明しだしたが俺は雪が落ち露になった氷水に輝く松の木を眺め続けるだけだった。





結局、俺が引き継いだのは今いる家だけだった。勿論弁護士達はその他の遺産を現金に換え支払ってくれた。今まで自分で買い物にすら行ったことがない俺にとってその金額がどれ程の価値なのか知るのはだいぶ経ってからの事だった。






祖父が死に半年が経ち季節は夏になろうとしている。未だに俺は陽が上る前に目が覚めてしまう。本来ならすでにやらなくては良い仕事であったが人間一度身に付いてしまった習慣というのは簡単にとれるものではないらしい。いつも通り一通り仕事を終えた頃にはすっかり朝日が街を照らしだしていた。




「旦那様、またそんな事されて。私がやりますから。」



初老の女性が目の前に立っていた。彼女は俺の身の回りの世話をしてくれる為にきた家政婦だ。一人の生活になってから1ヶ月経ったときに残っていた書類のサインを貰いに弁護士の一人が家に訪ねてきたとき不覚にも倒れている俺を発見した。結局のところ掃除や料理が出来ても世の中の常識というものを知らない俺にとって人並みの生活を一人で送ることは不可能だったということだ。見かねた弁護士がすぐに家政婦を手配してくれたということだ。



「すみません。でも、俺にはこれくらいしかやれることがないんで・・・。」


本来であれば俺が雇用している側なのだからイチイチ断りを入れる必要はないのだがこれも一度身に付いた習慣というもので未だに彼女にも気を遣ってしまう。



「いえね、やってもらう分には此方は助かるんですけどね。」


家政婦が周りを見渡す。呆れるくらい辺りは綺麗になっており塵ひとつ落ちてはいなかった。


「それじゃあ、旦那様はお風呂にでも入って下さいな。そのうちに朝食は私が用意させてもらいますので。」


彼女は少し呆れたように俺を見ていた。






武術の稽古は続けている。以前であれば家の事と武術の鍛練、祖父の座学であっという間に1日が過ぎていったがやって来た家政婦により俺の仕事は無くなり武術の鍛練を終えてしまうと何もやることが無くなるのであった。

何もすることがないというのは俺にとって一番の苦痛となる。初めのうちは庭の草木を眺めたり祖父の残した本を読んでいたが半年もすると同じことの繰り返しをすることとなり俺は意図せずストレスを溜めることとなる。


ある時いつものように祖父の部屋の書棚から今日読む本を物色してる時にあることに気付く。本棚の奥に隠されたスイッチを発見する。



この時の俺は知りもしなかった。文字通りこれが俺の運命を大きく変えるスイッチであったことを。

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