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狼さんと少女の狩り

「狼さん狼さん!」

『まったく……』

何時ものように赤いずきんを被って狼さんにダイブするがあっさりと避けられ地面を二三回転がって起きる。

ここ数日、狼さんと狩りをする事が多い。狼さんの食事と私の食事のためにも、狩りは必須なのだ。

『その癖、どうにかすべきだろ』

「えへへー、だって狼さんの毛さらさらしてさわり心地が良いんだもん」

『むず痒くて仕方ないからやめろ』

狼さんの毛を撫でていると体を震わせて私の手を弾く。

狼さんの毛並みは本当に美しいし手触りも良いからついつい触ってしまう。けど、狼さんにとってそれはむず痒くて恥ずかしいらしい。

『さて……行くぞ」

「うん」

三十分程狼さんとじゃれついた後歩きだした狼さんの後を追いながらナイフを出す。

猟師さんが常に弓を手に持っているのと同じ。狩りをするときに何時獲物が来ても良いように武器を手に持っている。

『……ここを嗅いでみろ』

「分かった」

狼さんが鼻をついている足跡を嗅ぐために狗のように這いつくばる。

土の匂いと湿気の匂いがする……けど、その中に異物のような臭いがある。この臭いは……鹿さんかな。足の踏み込み具合から考えて成体。足跡から考えて進行方向は左。血の匂いはないことから襲われてはいない。

『良いか、臭いは追跡に使える。僅かに付着した血の匂いを余す事なく察知しろ』

「けど、私と狼さんの鼻は狼さんの方が良いよ?」

『あくまで臭いは情報の一つだ。我は足跡の数や深さ等の多角的な情報から狩りを行う。理解しているとは思うしお前の狩りの技術はどちらかと言えば我よりだからな』

私と狼さん、どちらも鼻をひくひくと動かしながら話をして情報を入手し終えると私は立ち上がり獲物の後を追う。

獲物は一匹。群れからあぶれた存在でしょう。一体一体の把握は少し面倒だけど、一体だけなら相手の場所を完全に把握できる。

「……いた」

獲物を発見すると音をたてず気配を完全に周りと同化させながらナイフを構える。

チャンスは一度。だけど、一度で十分。

『痛っ!?』

僅かな手首の動きで投げたナイフは鹿さんの首に的確に刺さり少し暴れてナイフを落とし、そのまま出血多量で倒れ息絶えた。

道具による出血時、その道具を引き抜いてはいけない。道具が詮の役割をしていて出血を抑えているからだ。そう私は猟師さんに教わった。けれど、そんな事を森の獣たちが知っている訳がない。

『……見事な投げナイフの腕だな』

「えへへー、褒めて褒めてー!」

『とりあえず、触るのは止めてくれ』

狼さんの毛を笑顔で触ると体を振るわせて私の手を弾く。

もー、狼さんも頑固だなー。けど、それは置いといて。

「スンスン」

目をつぶり鼻をひくひくと動かしながら耳をぴくぴくと動かして辺りの臭いと音を探る。

血の臭いと葉っぱの擦れる音は除外……東に十メートル、西に五メートル、北に四メートル程度先に狼さんがいる。数はそれぞれ五匹、三匹、七匹。接近は……してきてる。血の臭いを嗅ぎ付けたと見ていいかな。

『……気づいているな』

「うん。それじゃあ……【射て・風の雨矢(うや)】」

狼さんの言葉に同意しながら立ち上がり手を真上に掲げ魔力によって編んだ風の塊を手から射出し十メートル程度のところで拡散する。

この辺りで人の臭いはしなかった。なら、魔法による風の雨を降らせても問題ないよね。イメージは【天から降る雨のような風の玉】ってところかな。

「どうどうー?」

『大体はな。狙いが大雑把すぎる。数射てば当たるようでは二流が良いところだ』

「はーい」

『我は残った狼たちを殺し捕食してくる』

狼さんからのアドバイスを聞き終え狼さんが草むらに行ったところで鹿さんの解体をしていく。

魔力を流動的に扱えるようになるにはもう少しイメージの速度を速くしないといけないけど……どこか詰まっていて無理矢理魔法を発動させているような感じがするんだよね。

『うむ、戻ったぞ』

「あ、お帰りー」

『……相変わらず血塗れになりやすいな』

血塗れになりながら鹿さんの解体し終えて袋の中に鹿さんの肉を入れていると口元を血で赤く染めた狼さんが戻ってきた。

そう言う狼さんも返り血を浴びて血塗れになるじゃない……て言いたいけど、言ったら言ったで場の雰囲気が悪くなっちゃうし言うのは止めておこっと。

「狼さん狼さん」

『どうかしたか』

「私、魔法を使うときに何か詰まっている感覚があるけど何か分かる?」

『ふむ……それは魔力障害ではないか?』

「魔力障害??」

狼さんに魔法の際に感じた違和感を尋ねると寝そべりながら狼さんは答える。

魔力……障害?この近くで魔法が使えるのは森の奥に住んでいるお婆さんだけだし、お婆さんとはあんまり会ってないからそんな言葉を聞いたことがない。

『魔力障害とは、個体の持っている魔力によって起きる機能障害だ。主な原因としては魔力が流れる道の不足、魔力の流れが詰まる、魔力が体に合っていない等々……恐らく、リリィのその詰まりはそれが原因だろう。(普通は感じる事は難しいのだがな……)』

「何か言った?」

『いや、何も。障害と言うだけあって体に悪影響を与える。それも個体によって差がある。それらを取り除いたりすれば急速に回復に流れる』

「ふーん……狼さんは治せるの?」

『我には無理だ。それを行えるのは近い波長を持つ人間のみだ』

やっぱりかー……。

「それじゃあ、お婆さんの家に行こうよ!」

『うむ。……だが、そろそろリリィの母親がお前を探しに来る時間だぞ』

「えっ!?分かった!それじゃあまた明日!」

狼さんの注意で時間に気付き、急いで森を抜けるために走り始める。

もう……!私は裁縫とか料理とか、お母さんが『花嫁修業』って言っているものあまり好きじゃないのに。だって、それよりも面白い事を幾つも知ってるもん。

(それに、それら全てを『はしたない』で締めくくるもん)

文字も、狩りの技術も、魔法も、何もかもはしたないの一言で締め括られる。それは男の人の仕事だって言って。それよりも掃除とか洗濯とか料理とか、そう言った家庭的な事ばかりに労力を費やそうとしている。

そんなお母さんは……正直に言ってあんまり好きじゃない。



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