少女と森
「リリィ~!そろそろご飯よ~!」
「う~ん……」
母親の声で目が覚め、寝間着を脱ぐと何時もの茶色いチロルドレスを着て扉を開ける。
私の名前はリリィ・フレイレッド。十五歳。名前もすらない小さな村でお母さんと生活をしている。お父さんはいないけど、最低限、幸せだ。
(……誰に説明してるのかしら)
顔を洗面器で洗いながら水面に写る自分の姿を見る。
身長は小柄な方で肌は色白。金髪の髪に碧眼の瞳。顔立ちは周りからは愛くるしいと言われる程に童顔で可愛いらしい。そのくせ胸だけデカいからその分を身長として寄越せ。
「おはよう」
「もう……やっと起きてきたの?」
「うん」
少し顔色の悪いマリアお母さんに挨拶して朝食の黒パンと昨日作ったシチューを食べ終えると外に出る。
村は小さい。十軒程度の家々があるだけで商店の類いはないし、娯楽何てもっての他。来たことすらない。
「ふんふんふ~ん」
そんな小さな村でのもっぱらの楽しみは森の中での山菜採りぐらい。
この奥には私のお婆さんも静かに暮らしているし、魔力によって変異したり魔力によって産み出された生物である『魔物』の数もとても少ないから危険度は低い。
でも、鹿さんや猪さん、狼さんと言った普通の動物も多く生息しているから猟師さんたちしか入らないけど、私は毎日入ってる。
「いっぱいある~」
「お、リリィの嬢ちゃんじゃねぇか。今日は山菜採りかい?」
「はい!猟師さん!」
森の中央近くの場所にある山菜を手提げの籠に入れていると弓と矢、そしてナイフを持った中年の猟師が柔和な笑みで私に話しかけてくる。
ジョージ・ジョーダンおじさんはこの森で狩りをしている猟師で、毎日のように森に入る私を心配して狩りの技術を教えてくれた人だ。
「ここら辺に魔物が出ているらしいから気をつけてね」
「はい、猟師さん!」
猟師さんの注意を満面の笑みで受けとると山菜採りを再開する。
この森は魔力が程好く溜まり易くて魔物は発生しないけど魔力を帯びた植物が育ちやすい。そのため、こういった山菜を摂取する事で魔力の量を少しずつ体の魔力の総量を上げている。
毒を幼い頃から少しずつ強めながら摂取することで毒に耐性をつけるのと同じように、外部の魔力を取り込むことで魔力の害を受けないようにしている。
体外の魔力は体に合わないから害がある。事実、私が森の中央で採取した山菜を食べているお母さんは毎日下痢に悩まされてる。
『た、助けてくれ!誰か助けてくれ!』
「ん~?」
助けを求める声が聞こえ首を少し傾げ、興味が湧いたので近づいてみると罠にかかった鹿が助けを求めていた。
勿論、この鹿は魔物ではない。普通の動物だ。それなのに、何故私は言葉を理解出来ているのか。それは単純だ。
―――私は『赤ずきん』の役を担っているからだ。
私がこの事実に気がついたのは四歳の時。その時の事は今でもはっきりと思い出せる。
お婆さんが赤いずきんを渡してくれた時に金槌で殴られたような頭痛と共に気を失い目が覚めてお婆さんが持っていた赤いずきんを見た瞬間頭の中の知識から情報が出てきた。
『赤ずきん』。ここではないどこか、ペローさんという人やグリム兄弟という人が書いた童話の中にある話の一つ。
赤いずきんを被った少女が悪い狼さんに唆され道草をくい、その間にお婆さんを食べられ成り代わられ、そして自分も食べられる。その後に来た猟師さんに二人とも助けられ赤ずきんは自分の行いを反省する、と言う物語。ただ、ここにはペロー版とグリム兄弟版とで話の内容が変わっているが……話したところで意味はない。
この物語は『親の言い付けを守り、見知らぬ人を信用してはならない』と言う当たり前の事を教訓として記している。
その中で赤ずきんは狼さんと会話をしている。それは、赤ずきんには動物と会話する力を持っていたから。事実、赤ずきん以外で狼さんと会話している描写はない。
(そして、私と言う存在があることを確定させた)
この世界には物語に沿うように童話の登場人物がいると言うこと。あまりこないけど、村に来る行商さんの話だと『とある森の中で長い金髪の少女が塔の上で歌を歌っている』という話から『子どもだけの島、ネバーランドがある』と言う話がある。
「はい、外したよ」
『あ、ありがとう!お礼はいつか必ず!』
「お礼は良いよ。次は引っ掛からないでね」
『ああ……!』
色々と考えながら鹿さんの足を縛っていた罠のロープを護身用に持ってきたナイフで切り、鹿さんは感謝しながら森の中に帰っていきそれを手を振って見送る。
「さて……採取しないとね」
鹿さんが見えなくなると山菜採りを再開する。
ここら辺の山菜は一通り取れたしそろそろ帰ろうかな。
そんな事を考えながら森を出るのだった。
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