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1-7 一つ目のジャッジメントの始まり(5)


◆◇◆◇ 20XX年6月11日 神奈川県 新次郎の部屋



新次郎が引きこもりになってから5年は経っていた。

引きこもりになったきっかけは、大学受験に失敗してからだった。

良くある話だ。


毎日、夕方に起きて朝になってから寝る。

起きている間は、オンラインゲームの世界に浸っている。


食事は、母親が部屋の前に置いてくれるのを食べ、食べ終わった食器は、部屋の前に置いておく。

風呂に入るのは一週間に一度。それも、家族が全員寝ているのを確認してからだった。


いつまでも続けていられない。

そんなことは良く分かっている。だが抜け出せなかった。


深夜。


起きてから、ひたすら続けていたオンラインゲームの手をようやく止めた。

飽きたのではない。食事をするためだ。食事が終われば、またゲーム再開だ。


そっとドアを開けるといつものように、お盆が置かれていた。

ラップがわずかな山を形作っている。

今日の食事はおにぎりだった。


(ババァ、手抜きしやがって)


お盆を部屋に持ち込むと、文句を心の中で呟きながらも、片手でおにぎりを持って、もう片方の手はパソコンを操作する。

そして、時々訪れている掲示板にアクセスして、毎日寝る間を惜しんでプレイしているオンラインゲームの新しい情報がないかと、ゲーム板をクリックした。


すぐに新次郎が遊んでいるゲームのスレッドが見つかった。


人気ゲームだけあって上位に表示されている。

昨日、最後にこのスレッドを見てから24時間ほど。

レスは300ほど増えているようだ。


マウスで画面をゆっくりとスクロールさせながら、昨日の続きから順番にレスの内容を読んでいく。

そして、ちょうど今日の日付になってからの書き込みを見たとき、新次郎の手が止まった。


「何だこれ?」


書かれた内容を読み、他愛もないイタズラだと思った。

この手のレスは良く見かける。


気に留めずにスクロールを続けると、他のスレッドにさっき見たイタズラの書き込みがコピペされている、というレスがちらほら現れた。

そのうち、全部のスレに書き込みがされている、というレスを見た新次郎は「ほんとかよ」と呟き、スレッドの一覧に戻ると他のスレッドをクリックした。


確かに、このスレッドにも書き込みされている。


他のスレッドはどうだろう?


次々にクリックしてみた新次郎は、どのスレッドにも書き込みされていることを知り、そしてあることに気がついた。


それは、書き込みされた投稿時間だった。


さっき見たスレッドに戻って、書き込みを確認すると全く同じ時間に書き込まれていた。


(こんなこと、どうやって出来たんだ?)


少しずつ、興味が湧いてきた。


このコピペの内容が、もし本当だったら、面白くなるだろうな……


もちろん、その内容が本当のはずがない、ということを新次郎は分かっていた。

ただ、何かが起きそうな予感だけはあった。引きこもっている自分に刺激を与えてくれそうな何かが。




◆◇◆◇ 東京都 警察庁サイバー特別調査課




「これです」


喫煙ルームから席に戻ると、博巳は恭介にホームページを見せた。

それは、有名な大手掲示板のニュース板のスレッドだった。


一見、特に変わったところはない。


今日の主なニュースを、タイトル名につけたスレッドが並んでいるだけだ。

政治の話、科学の話、事件の話、規則性など何もなくスレッドが並んでいる。


「確か、さっきの話だと、一斉投稿があった、ということだったが……」


恭介がつぶやくと、博巳が一番先頭のスレッドをクリックした。

画面をスクロールして、あるレスを画面に表示させる。


そこに書かれていたのは、「お知らせ」と称してはいたが、確かに内容は変だった。




*********************************************************


◆◆日本ジャスティス実行財団からのお知らせ◆◆


当財団に新たなルールの申請があり、厳正な審理を行った結果、

その申請を受理いたしました。


そこで、次の通り、ジャッジメントを発動いたします。


■ジャッジメント


1.20XX年6月15日午前零時をもって日本国内において自動車を、無免許や飲酒、

 薬物使用などの、運転を禁じられている者が運転することを全て禁じます。


2.前項の運転を禁じられている者の基準は、ジャッジメント発動時の法律に

 準じます。


3.ジャッジメントの発動時以降、本ジャッジメントに該当する運転者が運転を

 行っていた自動車の駆動は停止します。また、その運転者は以降、一切、

 運転することが できなくなります。


4.ただし、初回の違法な運転時についてのみ、24時間の猶予を与えます。


5.本ジャッジメントは、第2項の規定とは関係なく、責任能力の有無は

 問わずに発動いたします。


以上。


20XX年6月11日


日本ジャスティス実行財団


*********************************************************




「単なる、いたずらだろ、これ」


「そう思うでしょ。でも、他のスレを見てください」


そう言うと博巳は、ニュース板のページを再度表示させ、二番目のスレッドをクリックした。


「時刻は昨日の零時っと……」


画面をスクロールして、あるところで止める。そこには先ほどと同じレスが表示されていた。


「これ、この掲示板のスレッド全て、ニュース板以外にも全部、投稿されているんです。それも全く同じ時刻に」


画面を指差すと、投稿時間は全て、昨晩の0時0分だった。しかも、ご丁寧に100の1秒まで表示される投稿時間は、全てゼロが並んでいた。


「まさか。この書き込みのレス全部が同じ時刻なのか。無理だろ、それって?」


掲示板の投稿は、投稿者が投稿ボタンをクリックすると、サーバー側で受け付けられた時間が表示される仕組みになっている。

その時刻はサーバー側のちょっとした混雑具合で微妙に変化する。


同じ内容のレスを、全てのスレッドに、100分の1秒まで同じ時間で投稿することとなるとまず不可能といえる。


理論上はあり得るが、手動で行うことはできない。

なぜなら、投稿数と同じだけの違ったIPアドレスを持ったマシンが必要だからだ。


この大手掲示板には、テーマで分けられた「板」が100以上ある。

各板ごとにスレッド数も100以上あるだろう。

そして、機械をつかっての営業的な投稿を防ぐため、最初の投稿にはIPの認証が求められ、同じIPから投稿するには60秒の間が必要だ。


つまり、全部で10,000以上のスレッドがあるわけだから、そのスレッド全てに、同時刻で投稿を行うためには、物理的にIPアドレスの違う10,000台のマシンが必要になる、ということだ。


さらに、100分の1秒まで全てゼロで揃えることなど、一投稿だけに限っても、狙ってできるものでもない。

ストップウォッチを持って、10秒00秒を目指して止めようとすれば、それがいかに困難なことかがすぐに分かるだろう。

10分の1秒まではなんとかゼロで止めらられても、100分の1秒をゼロで毎回止めることなど不可能だ。


さっき、喫煙ルームで博巳は「ハッキングでしょ」と言っていたが、常識的にこの投稿を成立させるためにはサーバーにハッキングして、投稿時間を含めて直接書きこむしか方法はないだろう。

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