表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/156

【SIDE】 ジェイド:託された役目

「あれ? レオナルド王子が二人いる?」


 午後の部の一番最初の種目、被り物競争に出るために集合場所で並んでいると、何故かそんな声が聞こえてきた。


 二人いるも何も、先ほどからレオナルド王子は俺の横にいる。もちろん一人だけ。


「俺は一人しかいないぞ?」


 レオナルド王子も、その生徒が何を言っているのか理解できなかったのだろう。怪訝な表情でその生徒に告げた。


「あ、はい。でも、あそこを見てください」


 その生徒が指差す方向を、俺とレオナルド王子は見た。そこには……


 もふもふ様が歩いていた。


「本当だ。俺だ」


 レオナルド王子が、あっさりと納得する。


 もう遥か遠く、もふもふ様は校舎の方に向かって歩いていた。今日は立ち入り禁止となっているはずの校舎の方へ。


「まさか!?」


 俺はサフィーお嬢様がいるはずの場所を見た。


(いない!? やられた、まさか俺が競技に出ようとしている間にいなくなるなんて!! いや、「応援するよ」と言ってくれていた。少しだけ席を外しているという可能性もあるのかもしれない)


 そんな俺の思いも虚しく、すかさずレオナルド王子のしてやったりな声が聞こえてきた。


「ははは、騙されたか? 俺が二人いるわけないだろう。あれはサファイア嬢だよ『もふもふが可愛い、もふもふが着たい』とお願いされたから貸してあげたのさ。もともとサファイア嬢の従魔の毛で作ったから、借りもあるしな」


(やはりか、サフィーお嬢様にあれほど言ったのに!!)


 被り物競走なんかに出ている場合じゃないと思い、並んでいる列から抜け出そうとした。


「おいジェイド、お前もうすぐ始まるぞ?」


 レオナルド王子は俺の手を掴みそう言った。


(どうしよう……)


 そう思った時だった。俺の目に映ったのはにやにやとこちらの様子を窺うニイットーの姿だった。


 こちらーー正確にはノルン様の様子を窺っているようだ。おそらく俺のペアのノルン様に罵倒されたくてそこにいたのだろう。


(我が弟ながら、気持ちの悪さが全開だな……)


 本当に嫌になった。けれど、今回はその気持ちの悪さに救われることになった。


「ニイットー、お前が俺の代わりに出ろ」

「は?」


 ニイットーに、俺が被るはずだった被り物を無理矢理被せた。


 何の因果か、俺が被るはずの被り物が豚だったのは、きっとこの時を想定していたのかもしれない。


 ノルン様の顔がすごく嫌そうだったことに申し訳ないと思いつつ、俺はニイットーを身代わりにしてサフィーお嬢様を追いかけた。


「いない、けど、いた!」


 だが、もふもふの着ぐるみだけだった。


 だから、俺はサフィーお嬢様の気配を探った。その方法は、スーフェ様から教わったものだ。


 俺が以前「スーフェ様、私に出来ることならば何でもします。せめて、卒業まではここにいさせてください」と言ってしまったあの日。


 悪魔に魂を売ってしまった、と言われたあの日。


 猫の手だけでは足りなかったと言って、俺を連れ去ったスーフェ様は、その日からありとあらゆる魔法や能力を教え、特訓してくれた。


 ラズライト様から魔力を上げるための特訓を受けてはいたが、それ以上にスパルタだった。


 それは全てサフィーお嬢様を守るためだということを、俺は知っていた。


 俺は焦りつつも、どうにか精神を集中させて、サフィーお嬢様の気配を探った。


「魔物学科の教材室の横? 廊下の突き当たりは壁のはずだ。あそこに部屋はないはずだけど?」


 そう思いながらも、俺は三階に向かった。たどり着いた場所は、魔物学科の教材室の前、廊下の突き当たり。


 俺の記憶通り、廊下の突き当たりは壁で、ドアなんてものは見当たらなかった。


 しかし、この廊下の突き当たりの壁の向こうにサフィーお嬢様の気配がある。


「幻影術だ」


 背後から声がして振り向くと、そこにはラズライト様がいた。宿泊合宿の夜に会った真紅色の瞳のラズライト様。


 今の俺に詮索している暇はない。すぐに足下の魔術陣に目を落とした。


「やめろ。魔術陣は発動させるな。お前は外からサフィーを救え。その部屋には窓がある。そこからサフィーを飛ばせろ」

「窓から飛ばせる? 三階から、ですか?」


 今日は魔法無効化の結界が張られている。


(もし俺の魔力が足りなかったら、一歩でも間違えたら、サフィーお嬢様は……)


「無理だと思うな。何のためにお前は今まで特訓をしてきたんだ? お前ならできる。ジェイド、お前にサフィーを守ってもらいたいんだ」


 その言葉の最後だけ、真紅色の瞳が紺碧色になっていたのを、俺は見逃さなかった。


「はい!」


 返事をしてすぐに外に向かった。こんな状況にも関わらず、俺は嬉しかった。


 サフィーお嬢様を救う重要な役目を、今までサフィーお嬢様を守ってきたラズライト様から託されたのだから。


 俺がサフィーお嬢様を絶対に助けてみせる!!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ