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【SIDE】 ジェイド:男同士の重要な話

「ジェイド、頼みたいことがあるんだけど、ちょっと来てくれないか?」

「はい、何でしょうか? ラズライト様」


 俺はラズライト様に呼ばれて、別邸の敷地内の隅に佇む、小さな小屋のような建物に連れて行かれた。


 今までに、ラズライト様が俺に頼み事をしたことなど殆どない。だから、少しは従者として認められた気がして、嬉しく思いながら歩いていた。


 だから、俺は油断していたのだと思う。


 その建物に入った瞬間、


「うわぁっ!!」


 俺は一瞬にして、深い落とし穴に落とされた。


「ナイスイン? 使い方ってこれであってるのか?」


 ラズライト様が何か言っているようだが、俺にはよく聞こえなかった。


 落とし穴に落ちながらも、俺は咄嗟に風魔法を使い、浮こうとした。俺の風魔法なら、難なく落とし穴くらい回避できるだろうから。


 けれど、どうしてなのか、俺は魔法がうまく使えず、そのまま見事に落とし穴に落ちてしまった。


「痛たたたたっ、ラズライト様、一体これはどういうことでしょうか?」


 大声を出して、ラズライト様に尋ねた。


「お前、まずは自分の胸に聞いてみろ!!」


 ラズライト様も、怒鳴るように返してきた。


(……? 思い当たらない)


「まさか思い当たらないと思っているんじゃないのか? やっぱりお前は弄んでるのか?」

「弄ぶ? どなたを、ですか?」


 まさか、ラズライト様までそんなことを言い出すなんて。サフィーお嬢様から、意味の分からない話でもされたのだろうか。どちらにせよ誤解だ。


「誤解です!!」

「は? よく聞こえないぞ、まずはその落とし穴から出て来てから喋れ」


 今の俺とラズライト様の距離は、顔もよく見えないくらい遠い。だから、普通の音量の声で話していては、お互いの声は全く聞こえない。


(これだけの落とし穴を、よく一瞬で作ったよな。やっぱりラズライト様の魔力って、底が知れない。はっきり言って信じられない)


 俺は仕方がなく、風魔法で穴から出ることにした。


「つ、使えない!? 魔法が使えなくなっている!?」


 何度試しても、魔法が使えなくなっていた。


 魔力が体の中を流れているのは分かった。ほんの少しだが、身体も浮く。ただ、いつもどおりの魔法は使えなかった。


「どうして?」

「やっぱりな。ここはな、邪な気持ちがある者には魔法が使えないようになっている。俺のような、純粋で綺麗な心の持ち主は、魔法が難なく使える。ほら」


 すると、落とし穴がさらに深く掘り下がった。


(痛い……)


 スーフェ様と違って、風魔法で調節してくれる優しさがない。いや、それを求めること自体が俺の甘えだ。

 俺が自分での力で、風魔法で浮けばいいだけのことなのだから。


「ジェイド、お前、あの短剣を今も持っているか?」

「はい、いつ何時も持つようにしております」


 あの短剣とは、母様に貰った短剣のことだろう。俺はこの短剣を、肌身離さず持ち歩くようにしている。


 この短剣にも、お守りの石がはめられていることに気が付いたから余計に、だ。


「その短剣が光るほど、魔力が込められない限りは話にならない」


(ラズライト様は、この短剣の真の使い方を知っているということなのか?)


 この短剣は、母様の一番得意とする魔法、光属性魔法を使う時に媒体とすることができる短剣。

 だから、光魔法が使えない俺は、本来の使い方を持て余している。


「俺には、光魔法は使えませんから……」

「お前、本気で言っているのか? 本当にまだまだだな。それにお前、アオと本契約していないだろう?」

「どうしてそれを?」


 アオ様はサフィーお嬢様と従魔契約をしているということになっていたはずだ。そして、ラズライト様の指摘どおり、俺はまだアオ様とは仮契約のままだ。


 もちろんそれで良い、むしろ、それだけでもありがたいことだと思っている。


「アオがサフィーと契約していると見せかけて、本当はお前とアオが契約してるんだろ? 魔力の流れを見ればすぐに分かる。しかも、本契約ではなく仮契約なのも。お前はアオの持つ魔力を最大限に引き出せていない。守りたい者がいるのなら、使える術は最大限に準備しておけ。それができないお前は、何もかもが中途半端だ」

「くっ……」


 俺はぐうの音も出なかった。


「そして、何より一番中途半端なのは、サフィーについてだ」



----ズキッ



 一番痛いところを突かれた気がした。


「本当は下心が満載なのに、さも何もありませんよ、というような顔でサフィーの隣に居座りやがって。そして、さっきはできもしないくせに部屋に行くとかいいやがって。お前は純情なサフィーの心を弄んでいる。だから俺はお前を認めない。この建物の中で魔法が使えるくらい一人前になって見せろ」


 やはりぐうの音も出なかった。全てのことが当てはまるからだ。


 そして、なぜ、みんなして俺たちの会話を盗み聞きしているのだろうか……


「アオには、ジェイドが求める分だけの魔力を供給しろと言ってある。だからお前は自分の魔力とアオの魔力をうまく使えるようにしろ」


 ラズライト様はそう吐き捨てると、はじめは俺が必死で魔法を使おうとする様子を静観していた。

 が、そのうち飽きてしまったのか、その場で眠り始めてしまった。


 俺は決意した。


(必ずこの建物から出て、サフィーお嬢様の部屋に行ってやる!!)


 そして俺はひたすら魔法を使った。ひたすら、ひたすら……


 その結果……


 俺は魔力切れを起こして、気が付いたら朝だった。


「悪い悪い、お前の存在を忘れて寝ちまった」


 ラズライト様も、少しだけ外が騒がしいのに気付き、今起きたみたいだった。


 朝から使用人、特にミリーが俺のことを探してくれていたらしい。


 きっとその目的は「昨夜サフィーお嬢様と何があったのか?」を聞きたいがためだろうけれど。


 残念ながら、期待には添えないだろう。


 結局ラズライト様に助けてもらい、一緒に建物を出た。


 そのままラズライト様と屋敷に戻り廊下を歩いていたところ、サフィーお嬢様に偶然お会いした。

 俺は直ぐ様、昨日のことを謝罪した。


「サフィーお嬢様、昨日……」

「べ、別に私は気にしないわ。いろいろと大変だろうけど、ジェイドが本気なら、私だけは応援するわ……」


(応援? 俺の魔法の訓練のことか?)


 昨日部屋に行かなかったことを怒っているわけではないようだ。けれど、それにしては様子がおかしい。


 俺とラズライト様を交互に見ては、頬を赤らめている。


 ラズライト様の眠そうな様子に気付いた瞬間、サフィーお嬢様は、更に耳まで真っ赤にして、目も合わせてくれなくなった。


 何となく、嫌な予感がするのは気のせいだろうか?






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