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女子会と……

 フロランドがまもなくオープンする。ということは、温泉だけでなく、温水プールもオープンするということだ。


 水着を持たない人のために、貸し出し用の水着も用意してあるけれど、やっぱり可愛い水着が着たい。


 ということで、今、みんなでお買い物に来ている。なんと、女子だけのお買い物だ。


 ニナちゃんとヒナちゃん、それにミリー。ミリーは私の侍女だし、孤児院の子供たちのお姉ちゃんでもあるから、孤児院の子供たちの面倒を見てもらう名目で、一緒にプールにも入ってもらおうと思っている。嫌だとは言わせない。


 お母様も「行きたい」と言っていたのだけれど、毎年恒例の魔物意見交換会の会合があるので、泣く泣く諦めていた。


 そのかわり「ジェイドを連れて行くわ。イケメンが隣にいればナンパされなくて済むもの!」と言って、ジェイドを人質に取られてしまった。


 ジェイドが側にいないなんて、本当にいつぶりだろうか。何となく寂しい、かな。でも決して特別な感情ではない、……と思う。


 色々と紛らわすためにも、今日の買い物を楽しもうと思う。


「サフィーお嬢様! これなんてどうですか? サフィーお嬢様の抜群のスタイルが映えますよ!」


 ミリーが選んだ水着は少し大人っぽいビキニだった。


「出来ればもうちょっと布の面積が多い方がいいわ」


 さすがにビキニを着る勇気を、私は持ち合わせていない。誰かさんのようなビキニアーマーなんてもっての外だ。


 最近ようやく悪役令嬢特権でもあるナイスバディに近付きつつあるけれど、私の精神はまだまだお子ちゃまだ。できることなら、お腹も隠れる方がいい。


「羨ましいな。私もナイスバディになって、少しくらいワイアット様をドキッとさせたいのに」


 そう言うニナちゃんが手に持っている水着は、前世でいう、スクール水着風の水着だ。ヒナちゃんとお揃いの水着を選んだらしい。


 似合わなくはないだろうけれど、何となくそれじゃない感が漂ってしまう。せっかくだから、ヒナちゃんにももっと可愛い水着を選んであげて欲しい。


「ニナちゃんには、これなんて似合うと思うわ」


 自分が着てみたいと思った、可愛らしいフリルが胸の前で段々に重ねられてデザインされた水着を見せた。

 残念ながら今の私には似合わない。乙女ゲームのヒロインのノルンちゃんが着てそうな可愛い系だ。


 このフリルが曲者で、変にナイスバディーだと太って見えたりボリューム加減がおかしくなる。少し控えめなくらいが一番可愛く見える。


 もちろん、ヒナちゃんが同じデザインの水着を着ても、とっても可愛らしく見える。


「やっぱりさ、ミリーが一番なんでも似合うわね」

「本当に。私もせめてミリーさんくらいにはなりたいな」


 私とニナちゃんはミリーを見た。標準体型のミリーは、先ほどからどのようなデザインの水着も素敵に着こなしている。


「少しだけ貶されている気もしますけど、褒められたことにします!」


 ミリーの明るい笑顔と共に、私たちは買い物を終えた。


 買い物の後は、美味しいデザートが出されるお店に行った。


 最近、お母様がジョナ料理長と結託し、デザートのレシピを販売して、王都の街中でも甘くて美味しいデザートが食べられるようになった。


 一体、いくらで売っているのだろうか。商魂逞しいお母様には感服する。


 今日のお店はパフェが人気のお店だ。注文したパフェが到着するのを待っていると、ヒナちゃんが私に尋ねて来た。


「ねえ、サフィーお姉ちゃん、どうして今日はジェイドお兄ちゃんがいないの?」


 ジェイド大好きヒナちゃんは、ジェイドに会えるのをとても楽しみにしていたみたい。


 けれど、もしもジェイドがお母様に連れて行かれなかったとしても、今日のお買い物の目的は水着だから、連れては来なかったと思う。


「今日はお仕事で遠くに出掛けてしまったの、ごめんね」

「ヒナ、大きくなったらジェイドお兄ちゃんのお嫁さんになりたいの」


 待ちに待ったヒナちゃんの言葉に、胸がきゅんとした。


(ヒナちゃんがとうとう言ったわ! ジェイドってば、罪な男ね)


「ヒナ、ジェイドさんはサフィーちゃんのものだからダメよ」

「え!?」


 私はニナちゃんの言葉に、驚きを隠せなかった。


「そうですよ、サフィーお嬢様とジェイドさんは四六時中一緒にいて、この間なんて、一夜を共にしたのですから!」

「 サフィーちゃん!? もうそこまで……」

「ち、違うよ、ニナちゃんが想像しているようなことは何もないよ。ちょっとミリー、誰から聞いたのよ?」

「もちろんスーフェ様です」


 ミリーはエッヘンと胸を張って答えた。お母様のことだから、絶対に盛りに盛りまくって、話をしているのだろう。


「そうなんだ〜。ヒナ残念だけど、サフィーお姉ちゃんなら、ジェイドお兄ちゃんのお嫁さんを譲ってあげる」

「え!?」


 今度は、なぜだかミリーが驚いた。


「サフィーお嬢様、ジェイドさんとそういう関係なんですか?」

「ち、違うわっ! ジェイドはただの従者よっ!!」


(ミリーのこの反応、どっちなの? 一体お母様はどんな風にミリーに話したの?)


 詳しく聞きたい。けれど、聞くのも怖い。


「サフィーちゃん、おめでとう」


 なぜか、ニナちゃんは祝福してくれた。


「だから違うって!! もう、とりあえずパフェを食べるわよ!! 早くしないと溶けちゃうわ」

「あっ、本当だ。早く食べなきゃ」

「「「「いただきます」」」」


(ふう、いつの間にか届いていたパフェにおかげで、なんとか、秘技、話題転換の術がうまくいったわ)




******




【SIDE:ジェイド】


 その頃……


 スーフェ様と俺は、魔物意見交換会の会合に出席している……


と思いきや、今いる場所は、魔境の森の中を通る街道だ。そこには、今日も綺麗な弔いの花束が捧げられている。


 一年前の今日、俺、チェスター王国の第二王子ルーカスが乗った馬車が、魔物に襲われるという悲惨な事件が起きた場所だ。


 その事件で、俺の護衛騎士が任務を全うし命を落とした。


 そして現在、スーフェ様が見守ってくださる中、チェスター王国の王妃である母様と俺、遺族の方々による追悼式が厳かに執り行われている。




 時は遡り、ハロウィンパーティーの日、王城にて。


「ジェイド、ちょっとこっちに来て」

「はい、何でしょうか?」


 スーフェ様に呼ばれた俺は、パーティー会場の外に出た。


「シーツはこっちの人に被せておけばいいから」


 スーフェ様は俺からシーツを取り上げると、顔は見えなかったが「絶対にだめだろう」という人に、そのシーツを被せた。


 それは周りに控えている護衛騎士の方々の、青褪めた表情ですぐに察した。


 全く気にも留めないスーフェ様は、そそくさと別室に入っていった。


 失礼と思いながらも、しっかりと一礼をし、スーフェ様の後を追いかけた。


 そして、スーフェ様の入っていった別室に入室すると、そこにいたのは……


「母様……」

「大きくなったわね、ルーカス」


 故郷にいるはずの母様が、そこにいた。懐かしいけれど変わりのないその優しい眼差し、その笑顔、俺の視界が一気に滲んだ。


「じゃあ、ごゆっくり〜」


 スーフェ様は一言だけ残して、部屋を出て行った。


(何から、話せばいいのだろうか?)


 サフィーお嬢様をはじめとする、オルティス侯爵家の方々の話や友達のこと。学園生活のこと。俺が魔法を使えるようになったことも。


 話したいことがありすぎて、うまく思考がまとまらない。俺のそんな様子を見てか、母様がくすりと笑った。


「元気にしていたようね、楽しそうで安心したわ」

「母様、どうして?」

「スーフェとは古くからの友人なのよ。いろんな話を聞いているわ」


(スーフェ様から伝わる、いろんな話……)


 一抹の不安はあるけれど、母様が嬉しそうな様子だから、きっと大丈夫だろう。きっと……


 そして、俺は母様に今まであったいろんな話をした。母様は笑いながら、時には涙しながら聞いてくれた。


 そして、俺は母様から追悼式の話を聞いた。


「俺も参加したいです。絶対に、お願いします!!」


 母様は俺がそう望むとすでに予想していたようで、スーフェ様ともすでに段取りをつけている、とのことだった。


 サフィーお嬢様に拾われて早々に、スーフェ様から母様に連絡がいったらしい。護衛騎士の遺族の方々への対応も全て、母様が行ってくれていたと聞いた。


 ずっと心残りだったこと、それさえも全て尻拭いをし、お膳立てしてくれていたことを知り、俺は母様たちの偉大さを身に染みて感じた。


「いつ帰ってきてもいいのよ。あなたは留学中ってことになっているから。あなたの居場所は今も昔もきちんとあるのよ。もちろん、今の生活を続けてもいいわ。ルーカスの好きに生きなさい。決して突き放しているわけじゃないわよ。あなたのことを信じているのだから」


 俺が通わせてもらっている学園や、サフィーお嬢様と一緒に受けている家庭教師からの勉強も全て、もし俺がチェスター王国に戻った時に困らないように、と考えられてのことなのだろう。


 全て、本当に初めから俺のことを考えてのこと。


「もちろん分かってます。母様、ありがとう」


 俺の言葉に母様はにこりと微笑んだ。これから俺がどうしたいのかも、きっと母様は分かっているのだろう。


「それで、どうなの?」


 母様が、にやりとした笑顔を俺に向ける。

 ロバーツ王国に来てから、この類の笑顔の裏の思惑に、何度辛酸を嘗めただろうか。


「どう、って?」


 嫌な予感はひしひしと感じていた。


「サフィーちゃん、とっても可愛い子ね」


(もしかして、やっぱり母様に筒抜けなのか?)


 ペレス村のこととか。スーフェ様のことだから、どれだけ盛って話しているのか想像がつかない。


 おそるおそる、母様の顔色を窺った。


「二人の子供なら、絶対に可愛いわね!」

「か、母様っ!?」


 想像を絶する盛り具合だった。この後、俺は弁解するのに苦労した。





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