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品行方正な悪役令嬢

 結局、お母様はスキルについて、全く何も教えてくれなかった。だから、お母様の謎はさらに深まるばかりだ。


「ふふ、でも、私には前世の記憶があるんだから! きっとお母様のスキルは“鑑定”よ!」


 誰もいなくなった部屋で、私は盛大にドヤッとした。


 前世の記憶の中に、ライトノベル、通称ラノベと言われる本の知識があった。そのラノベの冒険ファンタジーの物語の中に、スキルというものがよく出てくる。


 すごく大雑把に言うと、“鑑定”というスキルは、相手をジーッと見ることによって、その人のなんらかの情報、俗に言うステータスと言われるものを読み取れる能力だ。


 先ほどのお母様も、私のことをジーッと見ていた。故に、お母様のスキルは鑑定だ。きっと間違いないと私は確信した。


「私のこの前世の記憶は、やっぱりチート級のスキルよね」


 チート級のスキルとは、これまた大雑把に言うと、あり得ないくらいずるくて最強な能力ってこと。きちんとしたスキルは、きっと私にはないだろうけれど、前世の記憶は、チート級のスキルといっても過言ではないと思う。


「それにしても、悪役令嬢っていきなり言われた時には、さすがにびっくりしたけれど、うまく誤魔化せたかしら? いや、たぶん誤魔化せてはいないだろうな。……でも、悪役令嬢が何なのか分からないと言っていたお母様の言葉から察するに、大丈夫でしょ!」


 自分みたいに前世の記憶がない限り、悪役令嬢なんて言葉の意味は知る由もないだろうから、と私は安心して、どうでもいいことをふと思う。


「他にも、私のステータスらしきものに何か書かれていたのかな? 体重とか、体重とか、体重とか。だって、女の子だもの」


 体重は、乙女の最大の秘密に間違いない。


「でも、お母様が会いにきてくれて、本当に嬉しかったな。何だか、胸の中がほんわりと温かくなった気がする」


 私はお母様に抱きしめられた温もりを思い出して、少しだけ恥ずかしいけれど、それ以上にとても嬉しかった。


 正直言って、お母様が心配で駆けつけてくれるなんてことは、もちろん予想外の出来事だった。


 私は家族の愛情に飢えていた。それは間違いない。


 だから、少しでも注目を集めたくて、我儘を言い始めた。そしたら、お父様が怒ってくれる気がしたから。


 少しでも、私を視界に入れてほしくて、派手で目立つドレスを着始めた。全く好みじゃなくても、目立てばそれでよかった。そしたら、お母様が見るに見かねて、一緒にお洋服を選んでくれると思ったから。


 けれど、お父様もお母様もやっぱり仕事が忙しかった。


 それが、どんどんエスカレートしていって、自分では止めることなどできなくなっていた。


 相談なんかもちろんできない。友達が一人もいない私には、相談できる相手さえもいなかったから。


 どうしていいかも分からなくなって、寂しさを紛らわすように、使用人のみんなに八つ当たりした。


 それが、最近の私の現状だった。それが、私が孤独を感じる理由だった。


 私よりも仕事が好き。私は一人、誰からも愛されていない。本気でそう思っていたのに。


「違ったのかな……」


 ふと、ミリーの心配そうな必死の形相と、お母様の優しくて力強い温もりを思い出して、心がぎゅっと締め付けられた。


「家族みんな私のことが大好きだから、って言ってくれたお母様の言葉は、決して嘘じゃないよね」


 素直にそう思えた。まるで前世の私のように。


 きっと“現在(いま)”の私には、十分と言って良いほど、家族や使用人のみんなからの愛を感じることができている。


「これも前世の記憶を思い出したおかげなのかな? 前世の私が持っていた素直さが、今世の私にもあるのかな?」


 そうであればいいな、と自然と笑みが溢れた。


「けれど、やっぱり私が悪役令嬢だということに変わりはないよね」


 公式プロフィール設定と違う気がして嬉しいと思う反面、私が悪役令嬢である事実は間違いない。


 お母様が見た私のステータスらしきものに、悪役令嬢と書いてあるみたいだから。


「もしかして、私はこのまま性悪を拗らせて、極悪非道の悪役令嬢になった方がいいのかな?」


 けれど、すぐにその考えを自らの意思で打ち消す。


「私は、誰かを傷つけたり迷惑をかけることはしたくない」


 迷惑は、嫌っていうほどかけてきたから。


「ヒロインを虐める気は毛頭ない。そんなことをして、人生を無駄にするのなら、健康的な生活をして、色々なことにチャレンジしてみたい!!」


 それこそ、前世の私が決意したように。私の時間も有限だと分かった今、後悔だけはしたくない。


 それに、心配して駆けつけてくれたお母様の愛情を肌で感じることができたのだから、もう二度と愛に飢えることなんて、絶対に無いと思えた。


 前世の私のように、些細なことに幸せを見出して、人を思いやれる気がした私は、きっと変わることができる。


「……と言うことは、普通に生活を送っていけば、性悪を拗らせて極悪非道になることは回避できるかもしれないよね。そうだ! 品行方正な悪役令嬢を目指す方がいいかも! ん? 品行方正な悪役令嬢って、果たして悪役令嬢と言えるのかな?」


 私は考えた。


 悪役ではない悪役令嬢は、ただの令嬢と言うのではないのだろうか、と。


「うーん?」と顎に手を当てる仕草をしながら頭を悩ませる。


 ……(1分経過)

 ……(2分経過)


 考えても、何も思い浮かばなかった。


「前世のラノベ情報では『ゲームの強制力』は凄いという話だから、きっと私がどれだけ自由に過ごしていても、結果的に悪役令嬢として破滅エンドを迎えるのよ。だって、それが私の運命なんだから!」


 結果、私は悪役令嬢としてゲームの強制力で破滅エンドを迎える運命には抗えないだろう、との答えを導いた。


「そうと決まれば、私の限りのある人生を有意義に過ごすために、今後の目標と対策を立てよう!!」


 品行方正な悪役令嬢への道は今、開かれた。






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