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○○○○選手権

 私は、久しぶりに王都の街をぶらりと歩いている。しかも、念願の姉妹コーデで。


 以前、ニナちゃんとヒナちゃんの姉妹お揃いの服を見て「羨ましいな」と思っていた私は、嬉しくて仕方がなかった。


 もちろん私には姉妹なんていない。私に兄弟はラズ兄様しかいない。そして間違っても、ラズ兄様に女の子用の服を着させてはいけない。

 せっかくスケ服を回避したのに、万が一これに目覚めて、開花してしまったら元も子もないからだ。


 今日のお買い物の相手はもちろん……ジェイミーちゃん!!


「ジェイド、ううん、ジェイミーちゃん、お揃いの服嬉しいわ!」

「サフィーお嬢様が嬉しいって喜んでくれるのなら、本望です……」


(あらら、もうヤケになってるみたいね。こんなにも似合っているのに)


 ジェイドはとても女の子の恰好が似合っている。控えめに言っても美少女だ。王都の別邸からここまでの間、何人の男の人が振り返ったか数えきれない。


(でも、そろそろジェイドも成長期だよね?)


「ジェイド、いつレオナルド王子にカミングアウトするの?」

「……私には、もうどうにもできない気がします」

「私も同感だわ」


 その解決方法は見つからなかった。もともとは、私のためにジェイドはジェイミーちゃんになってくれた。だから、もしもの時は私が責任を持って不敬罪をも受け入れる覚悟でいる。


(だからなおさら、今を楽しまなきゃね! 可愛い可愛いジェイミーちゃんとのお出掛けも、今日が最後かもしれないもの)


 ちなみに、どうしてジェイドがジェイミーちゃんになっているのかは、今朝に遡る。



 今朝のこと。


「ねえ、今度の勉強会どうする? 私がジェイドにお化粧する? でも上手じゃないよ? ミリーに頼んでみる?」


 サロンで、今度のレオナルド王子たちとの勉強会にむけて、ジェイドがどうやってジェイミーちゃんに変身するか、を考えていた。


 その答えは簡単だった。


というか、サロンで計画を練っていたら、お母様がやってきた。


「私に任せて。私が化粧をしてあげるわ。その前に練習も必要よね?」


 そう言いながら、サロンに入ってきたお母様の手には、すでに可愛いワンピースとカツラがスタンバイ。もう準備万端だった。誰にも有無を言わせなかった。

 もうジェイドはされるがままだった。


(きっと、王妃様救出作戦のときもこんな感じだったんだろうな)


 思わず合掌してしまった。そして、出来上がったジェイミーちゃん。


「せっかくだから、サフィーちゃんもお化粧してあげるわ。お洋服も用意したのよ」


……という流れで、私も変身した。


「せっかくだから、二人で街に行ってお買い物でもしてきなさいよ。きっとモテモテよ!」


と、今に至る。




「今日はどこに行く?」

「サフィーお嬢様は、何か欲しいものはありませんか?」

「うーん?」


(欲しいもの? 私が持っていなくて、これから必要になるもの?)


「水着! 今度フロランドが完成したら水着が必要になるよね?」

「サフィーお嬢様、それはちょっと……私が恥ずかしいです……」

「ですよね……」


(いけない、いけない、あまりの可愛さに、ジェイミーちゃんを女友達のノリで考えてしまった。私だって、ジェイドと一緒に水着を買いに行くなんて恥ずかしくて無理よ)


 何もする当てのないまま、ぶらりと歩いていると、突然、ジェイドが声をかけられた。


「あら? お久しぶり。あなた、お仲間だったのね!」


 ジェイドに「お仲間ね」と告げたその人は、以前ニナちゃんたちが絡まれていた時に助けてくれたあの方だった。


 女性というか、男性というか、何ともいえないあの逞しい体付きのあのお方。


(この前は、時間にして数分会っただけなのに、一目でジェイミーちゃんをジェイドだと見極めるなんて、さすがプロだわ)


「こんにちは! 先日は助けていただいてありがとうございました」

「あらやだ、お礼を言われるようなことなんてしていないわよ。そうだわ! あなたたち、暇かしら? ちょっと遊びに行かない?」

「「?」」


 私とジェイドは目を合わせ「うん!」と頷き、付いていくことに決めた。何となく楽しそうだったから。


(だって、冒険者ギルドの人だもの。ワクワクするわ!)


 けれど、そのお方はお母様のお友達だ。私たちが案内されて辿り着いた場所を見た時に、自分たちの選択が間違いだったことに気が付いた。


「今日はね、冒険者ギルド主催の『俺様王子選手権』なのよ」

「「うっ……」」


(何これ? こんなのが流行るほど俺様って流行ってるの? 付いてくるんじゃなかった……類友って言葉を忘れていたわ!)


「最近、有名な冒険者が復活したとか言って、冒険者たちが盛り上がっているのよ。それに今、俺様シリーズの小説が流行ってるじゃない? 女の子にも冒険者に興味を持ってもらおうと、私が企画したのよ」


 冒険者ギルド所属の精鋭たちが、女の子相手に渾身の俺様アピールをして競うらしいこの大会。


「それでね、女の子がお休みしちゃったの。だから最初は私が代役を務めようと思ったんだけど、どうしてかみんなに却下されちゃって」


 それについては、私は何とも言えない。


「代わりの女の子を探していたんだけど……ねえ、やってくれないかしら?」


 出来れば断りたい。私とジェイドは一斉に目を逸らした。きっと目があったらお終いだから。


「だめ? ダメ? 駄目かしら?」


(うぅ、この迫力……)


 私の方にじりじりと、一歩ずつ確実に迫ってくる。一定の距離は保っているというのに、グイグイと押し寄せるこの圧力。


 この方には借りもあるし、もうこれ以上、このプレッシャーに耐えられそうにない。


「わ、私で良ければ」




というわけで、俺様王子選手権に借り出されることになってしまった。

 だいぶ巻いてお送りしますので、頑張って想像してください。



 選手番号1 

「ドンッ」

「俺じゃダメか?」


(来た、ど定番の壁ドン! ち、近い、これはキスできちゃう距離よね? これ以上は、直視出来ないっ)


 私は反射的に顔を背けてしまった。



 選手番号2

『クイッ』

「俺を見ろよ」


(こちらも、定番の顎クイ! そんなに見つめたら、だめ……)


 私は思わず目を瞑ってしまった。



 選手番号3

 筋肉を見せびらかすように、ブーメランパンツしか履かない35歳は、腕を引っ張り、背後に回って、抱きしめた。


「ちょ、待てよ……俺じゃだめか?」


(うわっ、どうしよう、どうしよう! これってバックハグよね)


 いわゆる、あすなろ抱きをしていた。あすなろ抱きをされている……



(……ジェイドの顔がとっても嫌そう!!)


 女の子の憧れのあすなろ抱きなのに。


(嫌なの? 不満なの? ……そうよね、男同士だものね)


 けれど、選手の男の人はとても嬉しそうな顔をしている。きっと中の人のこと(ジェイド)を知らないからだ。


 おそらく選手の男の人は、めちゃくちゃ可愛いご令嬢のジェイミーちゃんを抱きしめられて、幸せなのだろう。


 終了の合図が鳴った筈なのに、筋骨隆々なその腕は、ジェイドを抱きしめるのを止めない。

 ジェイドが必死でもがいても、あの筋肉に抱きしめられてしまい、さすがに逃げられないようだ。


 もがいても、もがいても、もがいても、逃げられない。筋肉男はジェイドのその姿さえも、愛でているようだった。


(まるで地獄絵図だわ)


 とうとう強制的なストップが入った。私は全ての様子を、客席の一番良い席で観させてもらっていた。


 ちなみに、舞台上には壁なんてないから、選手番号1の方は、正確には『エアー壁ドン』だった。「ドン」も口で言っていた。ちょっとだけ笑えた。


 代役をやってくれないかと頼まれたあの時に、私の心が折れかかったあの時に、ジェイドが横から「私で良ければ」と言って、手を挙げてくれた。


(私があの舞台上にいたかと思うと、絶対に無理!! 私のピンチを身を挺して守ってくれるなんて、さすがジェイドは私の優秀な従者よね! 帰ってきたら、たっぷりと褒めてあげよう)


「ジェイドお疲れ様!」

「はい……」


 ジェイドの魂も覇気も、もはやここには無かった。


「ジェイド大丈夫? とっても可愛かったわ! 本当に一番可愛かったから、選手の男の人たちのジェイドを見る目は、とても嬉しそうだったもの。モッテモテね! 私もジェイミーちゃんにぎゅーっとしたくなっちゃったよ!」


 ジトリとした目で私を見るジェイドは、いつものジェイドとは違う雰囲気を纏い、じりじりと私に近寄ってくる。


(私、褒め方を間違えてしまったみたいね)


 今日一番の過ちに気付いた私は、反射的に後退りした。


「ごめん、ジェイド、大変だったよね?」


 ジェイドは私の言葉になんか聞く耳も持たず、じりじりと私を壁際まで追いやった。エアーではなく、本物の壁際に。


(大変、もう逃げ場がないわ!!)



----ドンッ


「えっ……?」


 上から私を覆うように、ジェイドの肘が『ドンッ』と壁を突いたのがわかった。


 思わずジェイドの顔を見上げてしまった。


(ジェイドの顔が、ち、近い……!? それに、いつの間に私よりも背が高くなっていたの?)


 出会った頃は同じくらいの身長だったはずなのに、今では見上げてちょうど良いくらいの高さに顔がある。


 ジェイドは真剣な眼差しで、私を見つめてきた。その瞳が、だんだんと私に近づいてくる。翡翠色の瞳には、私が映っている。


(えっ……)


 思わず、ぎゅっと目を瞑ってしまった。私の耳に温かい吐息がかかる。


「俺だって、男だぞ」



 耳元で囁かれたその言葉に応えるかのように、私の中で何かが弾けたような、たしかな鼓動を感じた。全身が、熱い……


「な〜んて、少しはドキッとしてくれましたか?」


 ジェイドは、してやったり顔だ。


「ど、ど、ドキッとなんてしないわよっ! ビックリしただけよ!!」


(どうしよう、心臓の鼓動が鎮まらない。身体があり得ないほど熱を帯びて、火照ってるし。これって、もしかして……)


 私、病気なのかしら!?


 頑丈だと思っていた私の身体は病気かもしれない。だって、あり得ないほど鼓動がおかしい。きっと不整脈だ。


 早期発見、早期治療が重要だ。早くお医者様に診てもらわければ!!





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