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ハロウィンパーティー

 とうとうハロウィンパーティーの日がやってきた! しかも、とびっきりの“サプライズ”が待ち受けていた。


 パーティーの朝、衣装に着替えて、馬車で王城に向かった。


 私は、定番のゾンビ風の仮装だ。みんなを驚かせる気満々だった。

 お化粧は、ミリーにイメージを伝えてお願いをした。本当に嫌そうだったけれど、満足のいく仕上がりにしてくれた。


 それなのに……


「ジェイド、それ本気?」


(ハロウィンへの冒涜だわ……)


 ジェイドの衣装を見た私は幻滅した。ジェイドは、真っ白いシーツをすっぽり被っただけの、おばけ姿だったから。


「はい、サフィーお嬢様は、おばけが怖いから私のことも怖いですか?」

「そういうことじゃないわよっ、全然怖くないし」


 怖いはずがない。ただシーツを被っているだけなのだから。私は一抹の不安を覚えた。


(まさか、お母様もシーツだったらどうしよう……)


 ゆっくりと、お母様に目を向けた。


「お母様も、それ、本気ですか?」

「当たり前じゃない! 今日のために新調したのよ!!」


 別の意味で驚いた。お母様の今日の仮装は、冒険者風だったから。


(たしかに、侯爵夫人のお母様が“それ”を着れば、紛れもなく仮装かもしれないよね)


 問題はラズ兄様だ。朝からずっと眠っていて起きてこない。本人も行くのを嫌がっていたし、残念ながら今日はお留守番してもらうことになった。


 そして私たちは、王城に着いた。


(つい最近来たばかりだったけれど、やっぱり緊張するわね)


 馬車から下りて歩きはじめると、みんなの視線が痛いほど集まる。お母様に。


 そわそわして、目線を合わせないようにしつつも、ちらちらと見る。みんながみんな落ち着きがなかった。


「スーフェ! いらっしゃーい。サフィーちゃんもジェイドもよく来てくれたわね」

「この度は、素敵なパーティーにお呼びいただけて光栄です」

「スーフェ、あなたのその恰好本気? みんなが噂してるわよ?」

「ふふふ、私ほどのナイスバディの美人が、この恰好をしてるんだから、そんなの当たり前じゃない!」

「ええ、今頃、王城どころか王都中の噂になっているみたいよ。雨どころか、血の雨が降るんじゃないかって、みんな震え上がっているわ。おかげでうちにも一人、挙動がおかしい人がいたわ」

「ふふふ、面白そう!」

「ほどほどにしてあげてね。さあ、私も着替えてこようかしら!」


 お母様の冒険者姿が、よほど意外に思われたのだろう。しかもお母様が選んだのはよりによって、ビキニアーマーと呼ばれる超露出度が高いものだから尚更だ。


(ふふ、ちらちらした視線が多かった理由は、目のやり場に困ったからよね。罪作りなお母様なんだから!)


 私は、というと、すっぽりとシーツを被っているジェイドの表情が見えないのが、なんとなく不満だ。


(ジェイドもお母様みたいな大人の女性が好きなのかしら? ……私も早くお母様みたいなナイスバディになりたいわ……)



 そして、仮装パーティーの参加者が揃った。


 レオナルド王子はドラキュラの衣装。さすが乙女ゲームに王子様。似合いすぎて、献血希望者が増えそうだ。


 ワイアット様は海賊の衣装だ。クールな雰囲気でこの方も良く似合う。まるで前世の私の見た映画に出てくるヨーホーのあのイケメン風だ。


 ニナちゃんは猫耳つけて猫娘。元気なニナちゃんっぽくて、とっても可愛い!


 ヒナちゃんは魔女っ子だ。可愛いすぎるちび魔女に、切実にデッキブラシを持たせたくなった。


(みんな素敵に仮装をしているのに、やっぱりジェイドのやる気のなさが際立つわ。何なの、あのシーツ)


と、私が周りを見回すと、ふと気付く。


「あれ? 王妃様が見当たらない? レオナルド王子、王妃様はいらっしゃらないのですか?」

「母上ならいるぞ、ほら、あそこに」


 レオナルド王子の指し示した人、いや人じゃなかった、イエティだった。本物と見間違うほどのリアルイエティだ。


「あの中の人が、王妃様、なんですか?」


 正直、全てを持ってかれた気がした。それくらい、リアルで、怖くて、素晴らしかった。


「ああ、気に入った衣装がなくて悩んでいたらしいが、昨日になって突然思い立ったらしく、狩りたてほやほやのイエティの毛皮らしいぞ。早朝から職人が一生懸命仕上げていたからな」

「いろいろと突っ込みたいですけど、仮装に対する熱意はすごく伝わりました。尊敬に値します!!」


 たしかに、昨日の王妃様はとても悩んでいた。


(一番の功労者は、イエティを狩りに行ってくれた人よね。どこまで狩りに行ったのかは分わからないけれど、どうか、ゆっくりと眠って疲れを癒してほしいわ)


 そして、レオナルド王子にニナちゃんとヒナちゃんを紹介した。ワイアット様が少し照れながら紹介している姿が、とてもほのぼのとしていた。


 ニナちゃんもはじめは緊張していたみたいだけど、すぐに打ち解けていた。ニナちゃんの明るい性格もあるけれど、レオナルド王子の誰にでも好かれる人徳もあるのだろう。


 みんなで衣装を自慢しあっていると、もう一人足りないことに気が付いた。無駄に目立つはずなのに。


(あれ? ジェイドは? あのシーツお化けは無駄に目立つから見失うはずがないんだけど? あっ、いた!!)


「ジェイド!」


 私は無駄に目立つシーツおばけに駆け寄った。


(あれ? 返事がないな?)


「ねえったら?」


 ジェイドのお腹辺りに、ツンツンと攻撃を仕掛けた。けれど、反応は鈍い。鈍いどころか、


「フンッ」


(え? このやたらと偉そうな美声はジェイドの声じゃないっ!?)


「ごめんなさい。間違えました!!」


 すぐさまそのシーツおばけに頭を下げて、私はその場を立ち去ろうとした。


(でも、シーツおばけはジェイドのはずだよね? どうして?)


「サフィーちゃん。何してるの?」

「お母様!! ジェイドが、変なんです」


 ピンチの時に駆けつけてくれるお母様は、ヒーローか勇者のようだ。


「サフィーちゃん、何言ってるの? ジェイドなんていないじゃない」

「えっ? もしかして、お母様には見えないんですか? じゃあ、このシーツおばけは、本物のおばけぇぇぇ!!」


 私はお母様の影に隠れ、そしてパーティー会場内を見回した。


(じゃあ、ジェイドはどこに行ったの?)


「って、ふ、増えてるわ!!」


 シーツおばけが会場中に増殖していた。今にも失神して倒れそうになりかけた時、またあの不機嫌だけど高貴な美声が、私の耳に届いた。


「フンッ」


(また、あのシーツおばけから聞こえてくるわ。もしかして、私にしか聞こえてないの? 地獄耳のお母様に聞こえないってことは、やっぱり本物のおばけなの?)


「お母様、あのシーツおばけ、見えませんか? 先ほどから私に話しかけてくるんです」


『フンッ』の一言が、果たして話しかけているのか微妙だけれど、相手はおばけ。忖度しないと、呪い殺されてしまうかもしれない。


「サフィーちゃん、誰かに気付いてほしくて、わざと聞こえるように言っているみたいだけど、サフィーちゃんに言っているかどうかは分からないわ。だから、わざわざ忖度する必要はないわ」


(……そういう、ものなのかな?)


「さあ、行きましょう」


 お母様が私の手を引いて、その場を立ち去ろうとしたその瞬間、とうとう痺れを切らせたシーツおばけが、シーツを脱ぎ捨てた。


 まるで、イケメン紳士がマントを華麗に外すかのように、華麗に「バサァ」と、そのシーツを脱ぎ捨てた。


「どうしてお前は、いつも俺を仲間外れにするんだ!?」


 シーツの中の人は、まさかの金髪イケメンだった。その姿を見て、驚愕した。


「ま、まさか、あなたは……」

 

 今日一番の、サプライズゲストだと思う。


「仲間外れっって、今まさに、パーティーに参加しているじゃないの」


 私たちの騒ぎを不思議に思ったみんなが、続々と集まってきてくれた。


「スーフェ様、サフィー嬢、何の騒ぎだ? ……!?」

「スーフェ様、サフィーちゃん、おばけが出たって本当ですか? ……!?」

「スーフェお姉ちゃん、サフィーお姉ちゃん、大丈夫? ……?」


 そして、あの方も来た。


「あなた!」


 その声のする方を振り返ると、そこにはイエティ様がいらっしゃった。


「あなた、スーフェ、またやってるのね。もう、あなたったら諦めが悪いんだから」


 シーツおばけの正体は、国王陛下だった。


「ほら、仲間外れじゃないか、す、す、す、スーフェ」

「あんたに、スーフェって呼ぶのを許した覚えはないわ」


 お母様がピシャリと切り捨てる。


(仲間外れって、まさか!? いや、まさかね。それよりも、お母様っ、国王陛下に何を仰られているんですか!?)


 不敬だ。国王陛下に『あんた』呼び。それこそ、絶対に許されない。いくらお母様でも、国王陛下にそれはだめだろう。


 私は青褪めた。そんな時、イエティ様が優しく教えてくれた。


「サフィーちゃん大丈夫よ、いつものことだから。私たち三人は、高等部の同級生なのよ。 ほら、あなた、レオナルドに見られたら笑われるわよ」


 幸いなことに、レオナルド王子はお花を摘みに行っているらしい。尊敬するお父上、国王陛下のこんな姿は見たくはないだろう。


「だって、俺だってスーフェゴニョゴニョって呼びたいじゃないか。何年来の付き合いだと思っているんだ? 友達じゃないか!」


 途中ゴニョゴニョしたのは、お母様が殺らんとばかりの眼光で睨みつけたからだ。一国の王なのに、とても不憫に思えてきてならない。


「友達だと思った覚えなんてないわ」


 一連の流れと、お母様の不敬極まりない発言に、この会場全体が、すでに南極のように凍り付いている。ただ一人、王妃様だけは始終にこにこと笑っていた。


(高等部から、ずっとこの二人と一緒にいたら、何事にも動じなくなるだろうな)


 たしかに、フロー村での賊騒ぎでも、動じるどころか、とても楽しそうにしていたのを思い出す。けれど、そろそろこの空気をどうにかしたい。


「お、お母様、国王陛下に呼ばれるくらいいいじゃないですか、むしろ光栄だと思った方がいいですよ」


 いてもたってもいられなくなった私は、とうとうお母様にだけ聞こえるようにこっそりと呟いた。地獄耳のお母様だけにしか聞こえないだろうと思う声量で。


 私の知っている限り、お母様は初対面の人以外はほぼ「スーフェ呼び」をされている。それなのに、どうして国王陛下は呼ばせてもらえてないのだろうか。


(たしか、お母様は親しい人や信頼のおける人にはスーフェと呼ばせてるって言っていたのよね? まさか、国王陛下って信頼できな……おっと、これ以上は不敬になってしまうわ)


「サフィーちゃんがそこまで言うなら……でも交換条件があるわ」

「やめておく」


 国王陛下は即断した、英断だ。


「あらそう? 残念だわ」


 国王陛下は賢明な判断をされた。さすがだとしか言えない。国王陛下についていけば、ロバーツ王国は間違いなく安泰だ。


 国王陛下の「スーフェ呼び」は叶わなかったようだけど、その後のハロウィンパーティーは思う存分に楽しんでいたようだ。


 ちなみに、うようよと増殖していたシーツおばけは、国王陛下の護衛騎士の方たちだった。



 そんなこんなをしていると、ようやくジェイドを見つけて私は駆け寄った。


「ジェイド! どこに行ってたの? って、どうしたの? 目が真っ赤よ?」


 ジェイドの目は真っ赤に腫れていた。まるで、大泣きでもしたかのように……


「申し訳ありません、サフィーお嬢様。目にゴミが入ってしまって、別室に行っておりました」

「目が腫れるほどのゴミが入るなんて、ジェイドも災難だったわね。こちらもある意味、国家を揺るがすような災難が降りかかっていたわ」

「そのようですね」


 災難の根源の二人に目を向けると、今まさにお母様が国王陛下に絡んでいるところだった。






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