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ハロウィンパーティー!?

 もう少しでハロウィンの季節だ。と言っても、この国にハロウィンという季節の催しものはない。けれど、私は切望する。


(ハロウィンパーティーがやりたい!!)


「ジェイド、ハロウィンパーティーって知ってる?」

「ハロウィンパーティー? 聞いたこともないですね。どのようなパーティーなんですか?」

「本来の目的は違うのだけど、みんなで仮装して、わいわいとパーティーをするの! きっと楽しいわよ!」


 おばけは嫌いだけれど、みんなで仮装したら絶対に楽しいに違いない。しかも、私の周りの人たちは、さすが乙女ゲーム、と思うくらい、仮装が似合いそうな人ばかりだ。


「それは、とても楽しそうね」

「「!?」」


(出たっ、お母様だ)


「私も交ぜてよ。仲間外れは嫌だわ。それにパーティーは大勢でやった方が楽しいのよ。パーティーの準備は任せて。衣装はそれぞれ用意しましょう。当日までのお楽しみね」




******




「で、どうしてこうなった!?」


 ハロウィンパーティーを間近に控え、私は今、王城にいる。正確には、王城の厨房だ。王宮料理人の方と肩を並べて料理を作っている。


「サフィー大先生がいらしてくれるなんて本望です。ぜひご指導ください」

「や、やめてください。頭をあげてください」


 私に頭を下げてきたのは、王宮料理人であり料理長も務めるサンデーさんだ。

 どうして、こんなことになってしまったのかというと……




 時は遡り、今朝のこと。


「サフィーちゃん、少し私に付き合って。お友達がお料理を教えてほしいそうなの」


 珍しくお母様にお願いされた。いつもいつも、お母様にはお世話になりっぱなしなので、少しでもお母様の役に立ちたいと、そのお願いをすぐに了承した。


 それが全ての間違いだった。


 最初は、お母様のお友達の貴族のご婦人からの依頼だと思っていた。


 そこで気が付けばよかったのに……


 貴族が料理など、余程のことがない限りするはずがないということに。

 ニナちゃんが鳥を捌けるくらい料理がうまかったから失念していた。

 普通の貴族は、厨房に足を踏み入れることすらないということに。


 そして、馬車にゆられて連れてこられたのは……王城だった。


 そこで知らされた真実、王宮料理人のサンデー料理長は、なんと我がオルティス侯爵家の専属料理人のジョナ料理長のお友達だった。


 そう、お母様のお友達ではなく、ジョナ料理長のお友達への料理教室だった。


「お母様! 言葉が足りなすぎます!」

「あら? 私のお友達のお友達は、私のお友達よ」

「え、そうなんですか?」

「当たり前じゃない! じゃ、頑張ってね!」


 わけのわからない理論を持ち出され、私は一人

厨房に置いて行かれた。

 


 そして、現在に至る。


「えっと、どのような料理が作りたいのでしょうか?」


 私は緊張しながらも、何とか料理教室をはじめることにした。こんな状況でも卒倒して倒れない自分は、だいぶ肝が座ってきたな、とさえ思える余裕があった。


「今度、ハロウィンパーティーというものが開催されることになったので、それに出せるような料理がいいのですが、ハロウィンパーティーがどのようなパーティーなのかさえもよく分からなくて」


(まあ! 王城でもハロウィンパーティーが開催されるのね。と思いつつも、何となく嫌な予感がヒシヒシと感じられるのよね。今は気にしてはいけないよね)


 十中八九その予感は的中するだろう。それなら、なおさら美味しい料理を作ってもらおうと、私は頭を振り絞った。


「ハロウィンパーティーなら、やっぱりメインはかぼちゃ料理じゃないですか? せっかくだからおばけかぼちゃを使いましょうよ!」

「おばけかぼちゃ、ですか?」

「はい」

「その、おばけかぼちゃは、どこで手に入れるのでしょう?」

「お母様は以前、チェスター王国からいただいたと言っていましたよ。というか、多分そこに置いてある箱の中身が全てそうだと思います」


 そこにある箱、それはお母様が私と一緒に置き去りにしていったとっても大きな箱だ。あの中身はおばけかぼちゃに決まっている。


 そして、その予感は見事に的中した。大量のおばけかぼちゃがそこにあった。


「まず、かぼちゃは中身をくり抜いて、中身を料理に使います。外側は飾りにしましょう。あとは、せっかく仮装するので、衣装が隠れないように、立食形式の方が良いと思いますよ」


 立食形式のパーティーに相応しいメニューをサンデー料理長と共にアイデアを出し合った。


(もうっ、お母様ったら、もっと事前に教えてくれればゆっくりメニューを考えられたのに!!)


「がぼちゃのポタージュ、かぼちゃのグラタン、かぼちゃプリン、カボチャチップス、パンプキンケーキ。それに王城でやるのなら、王妃様の故郷の名物のジャガイモを使った料理も作りましょうよ! フライドポテトやポテトチップス。あとはサンドイッチにミニハンバーガー、ピザもいいかもしれませんね」


 短時間で様々な料理を提案し、実演した。


「さすがサンデー料理長! もうマスターしましたね。では、私はもう帰りますね」


 私はようやく解放された。そして、お母様のいる場所まで案内してもらった。


 そこでは、優雅に王妃様とティータイムするお母様がいた。


(お母様ずるいです! って、あれは、ワンちゃん!?)


 王妃様の横には、ワンちゃんらしき影が見えた。もしかしたら、私がずっと会いたかったお母様のお友達のワンちゃんかもしれない。


 私は走りたかった。けれど、ここは王城の中。はやる気持ちをグッと抑えて、ならばせめて、と無駄に優雅に歩いた。そしたら、やっぱり間に合わなかった。


「あら? サフィーちゃん! お疲れ様」

「サフィーちゃん、こんにちは。プリンとってもおいしいわ」

「王妃様、こんにちは。お口にあって嬉しいです」


 今、王妃様が食べているプリンは、先ほどまで厨房で作っていたかぼちゃプリンだ。


(早すぎる! かぼちゃプリンを作ったのってついさっきだから、まだ冷蔵庫の中で冷やしているはずなのに。きっと、お母様がまた魔法で冷やし固めたのね。それよりも……)


「お母様、ワンちゃんも王城に遊びに来ていたのですね。また会えなくて残念です」


 残念そうに話すと、笑顔を向けてくれたのは王妃様だった。


「私の愛しのベロちゃんに会いたかったのね!」

「えっ? 王妃様のワンちゃんなんですか?」

「あら、私の“推し”のスーちゃんの方が可愛いわよ」

「お母様のワンちゃんは、スーちゃんって言うんですか?」


(お母様と王妃様は仲が良いし、ワンちゃんたちも兄弟犬なのかしら?)


 今回見かけたワンちゃんも、以前見かけたお母様のワンちゃんと同じようなシルエットだった。


「今、お届け物をお願いしちゃったわ。ごめんなさいね。また今度、機会があったら紹介するわね」


 王妃様もワンちゃんにお使いをお願いしているらしい。なんて、賢いワンちゃんなのでしょう。




******




 そして、ハロウィンパーティーの前日。突然、王妃様がオルティス侯爵家の別邸にやってきた。


「サフィーちゃん、明日は楽しみに待ってるわね」

「はい。私もとっても楽しみです。王妃様は、お母様に会いにいらっしゃったんですか?」

「なかなか衣装が決まらなくて、相談しにきたの」

「お母様は残念ながら、お出掛けしてるんです。もう少しで帰ってくるとは思うのですが」

「そうみたいね、あっ、ラズちゃん! ラズちゃんも明日は来てくれるの?」


 そんな時、ちょうどラズ兄様が通りかかった。


 王妃様はラズ兄様のことを“ラズちゃん”と呼ぶ。なぜかラズ兄様も抵抗しない。お母様に呼ばれたら、絶対に嫌がりそうなのに。


「うわっ、失敗した。不意打ちすぎて、全然気付かなかった。……行きませんよ。仮装なんてしたくないし、王城なんて行きたくもありません」


 ラズ兄様がキッパリと断った。ラズ兄様は本当に明日のパーティーには行かないのだという。とても残念だ。


(ラズ兄様の仮装、見たかったわ……)


「絶対に楽しいわよ。ラズちゃんなら、悪役の仮装が似合いそうよね、例えば、魔王とか魔王とか魔王とか」


(たしかに! ラズ兄様は悪役令嬢の私と同じ血を引いているだけあって、悪役イケメン顔だ。めちゃくちゃ格好良い魔王様になりそう! 王妃様は聖女様なのに、まさかの魔王様推しなんですね!)


「……何が、お望みなんですか?」


 どうしてか、ラズ兄様は、何かを諦めたようだった。


「ふふふ、話が早いわね! サフィーちゃん、ラズちゃんを借りるわね! スーフェにはもう了承してもらってるから」


 そう言うと、王妃様はラズ兄様を従えて別邸を出て行った。





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