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乙女ゲームのシナリオ

 今日は学園がお休みの日。だから、もう一度きちんと、マジ恋という乙女ゲームに向き合おうと思っている。


 高等部に入学するまでの人生を、このまま能天気に自由に過ごして、その結果、やれるのにやらなくて後悔することだけはしたくない。


 前世の私は、やりたくてもやれなくて、辛い思いをしてきたのに、いつの間にか、そんな大切なことさえも忘れてしまっていた。


(きっと、今の私が恵まれすぎているからよね。それくらい幸せな毎日を過ごせていることに感謝するべきだわ)


「この世界は乙女ゲームの世界、か……」


 嘘のようだけど、実際に起こった出来事もある。これからもきっと、乙女ゲームのシナリオどおりに、この世界は進んでいくのだろう。


「乙女ゲームの物語の始まりは、ヒロインのノルンちゃんが入学してくるところからよね」


 ヒロインの女の子、ノルンちゃんは、王立魔法学園に入学する前の年に、聖女としての能力を開花させる。


「これは、たしか不思議な夢を見たのよね。たくさんの人を救う夢」


 そして、その聖女の力が認められて、晴れて特待生として高等部から魔法学園に入学することになる。


 特待生だと、学費や学校行事に伴う費用、その他の生活費なども、国から支給されることになるので、貴族だらけの魔法学園でも、不自由なく過ごせるようになる。


 まず、はじめに起こるのが「出逢い」のイベント。もちろん、とても美しいイベントスチルが見れる。


 入学してすぐ、ノルンちゃんは攻略対象者とそれぞれ運命的な出逢いを果たす。


 レオナルド王子ルートでは、学園の中庭にある花壇の前で二人は出逢う。

 レオナルド王子が、王妃様の名と同じ、ベロニカの花が咲き誇る花壇の前で、涙を浮かべていたところ、偶然中庭に迷い込んだノルンちゃんに出逢うのだ。


「ノルンちゃんの髪の色が、王妃様と一緒で、亡くなった王妃様を重ねてしまい、一目見て心奪われてしまったのよね」


 ワイアット様ルートでは、学園の敷地内で迷っていたノルンちゃんが、今にも泣きそうになりながら歩いていたところ、一度は横を通り過ぎたワイアット様がすぐに引き返して「俺についてこい」と一言だけ告げて、校舎の前まで連れて行ってくれる。


「乙女ゲームのワイアット様は、無口で表情が変わらないから、最初はちょっと恐い印象を持つのよね。ノルンちゃんが“ありがとう”と言っても、何も言わずに立ち去ってしまうし」


 イーサン先生ルートだけは少し変わっていて、ノルンちゃんが入学する前に、イーサン先生に会っていたことが判明する。

 ずっとお礼が言いたかったノルンちゃんは、学園に入学してすぐに、先生のことを一目で恩人だと気付く。


「この時も、ノルンちゃんは盛大に道に迷っていたところを助けられたのよね。ノルンちゃんは本当に可愛い女の子だから、自然と助けたくなっちゃうんだわ」



 そして、無事に出逢いを果たした二人が、急接近するイベントが「ドキドキ! 図書室での個人授業」だ。


 夏休み前に行われる試験のために、ノルンちゃんが図書室で勉強をしていたところ、ひょんなことがきっかけで、レオナルド王子やワイアット様が、勉強を教えてくれるようになる。


 ただし、イーサン先生は、勉強を教えたら不平等になってしまうので、本棚の本を取ろうとよろけたノルンちゃんを助けてくれる。


 きっかけのひょんなこと、というのが、サファイアがノルンちゃんに「馬鹿だ、コケだ」と罵ることだ。


 ノルンちゃんは平民出身のため、今までに勉強をする機会がなかった。だから、頭の方はあまりよろしくない。それなのに、サファイアは鬼の首を取ったように罵りまくる。


「そんなの仕方のないことじゃない!……まぁ、幸か不幸か、今の私には誰かを罵れるような学力を持ち合わせていないのよね。そもそも罵らないし!! そうなると、このイベントってどうなるのかしら?」


 スチルシーンは必ず起こると考えると、私が罵ろうがどうしようが、きっとイベント自体は起こるだろう、と結論を出す。


 けれど、もう一つ懸念事項がある。


「今のままじゃ、レオナルド王子もノルンちゃんに勉強を教えられそうにないわね。だって、補習組だもの。私よりも頭がよろしくないって、残念な王子様よね」


 こっそりと、レオナルド王子は頭がよろしくないままでいてほしい、と思ってしまう私がいた。



 次は、ノルンちゃんに過去を打ち明ける「過去のトラウマ回想シーン」のスチルが流れるイベントからの、デートイベントだ。


 レオナルド王子ルートでは、王妃様の死を乗り越えるために、敢えて王妃様の故郷でデートをする。


 ワイアット様ルートでは、幼馴染みの女の子と「もう一度一緒に行こう」と約束をしていた王都の街でデートをする。


 イーサン先生ルートでは、家族を亡くした先生に家族の温かさをもう一度味わってもらおうと、ノルンちゃんの家に招待し、帰り際に二人きりになる。


 レオナルド王子とワイアット様ルートの過去のトラウマは回避済みだ。けれど、イーサン先生ルートの過去のトラウマの回避については、実はもう手の打ちようがない。


 イーサン先生の過去のトラウマというのは、イーサン先生が幼い頃に発生した出来事だからだ。


 家族が襲われて、自分以外のみんなが亡くなってしまったことが、トラウマとなっている。


 イーサン先生の年齢は、25歳。ノルンちゃんの入学当時の年齢の10歳上という設定になっている。


 だから、イーサン先生の幼い頃というと、もう手遅れで、もしイベントどおりに事件が起きてしまっていれば、残念ながらすでにトラウマになってしまっているのだろう。


「できれば、ノルンちゃんにトラウマを癒してもらいたいところだけど、イーサン先生ルートは一家没落。ラズ兄様は留年してしまうし、私の家族みんなに迷惑をかけてしまうのよね……」


 ルーカス王子は、そもそも私には分からない。



 一番重要な断罪イベントは、卒業式の後だ。回避も何も、どうしようもできないと思う。


 そして、さらにその後に、二人だけのプロポーズイベントがある。こちらに至っては、もう私には全く関係のない出来事だ。勝手にやってくれと思ってしまう。



「正直言って、このマジ恋という乙女ゲームはイベントスチルが圧倒的に少なかったのよね」


 当時は「もっと見せろー!!」と思っていた前世の私だけれど、今の私的には、とてもありがたい。


「ふふ、少なくてラッキーだったわ。だって、変にドキドキしなくて済むもの。スチルシーンは必ず起きるのだから、その度に無駄にドキドキしたくないわ」


 きっと、平和なデートイベントでも私は無駄にドキドキしてしまうだろう。



……ということで、今回マジ恋という乙女ゲームに向き合った結果、


 今の私にやれることはなかった。


以上。


「よし! 高等部までの人生は、やっぱりこのまま能天気に自由に過ごしてみせるわ!」






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