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王子がご立腹!?

 あれからフロランド計画は、フロー村のみなさんが一丸となって取り組んでくれることになった。今では、私たちの出る幕はほとんどなくなってしまった。


「あとは完成を待つだけね」

「そうですね。それに私たちはまもなく新学期ですから」

「うん! 久しぶりの学園はとっても楽しみだわ」


 そして、私たちの夏休みはあっという間に終わり、新学期が始まった。


「サファイア嬢、ジェイド殿、夏休み中は、大変世話になった。本当に感謝している」


 登校早々、ワイアット様が私たちにお礼を言ってきてくれた。さすが律儀なワイアット様。


「こちらこそ、とても楽しい夏休みの思い出になりました。ニナちゃんはお元気ですか?」

「元気すぎるくらいだ。ヒナがプールを気に入ったみたいで、毎日のように村のお友達と一緒に遊んでいるって言っていたよ。きっと、そこにニナも交ざって遊んでいるはずだよ」


(ふふ、ニナちゃんらしいな)


 ニナちゃんは「もし領地経営がうまくいったら、高等部から学園に入れるかもしれない」と話していたので、高等部に進学する唯一の楽しみもできた。


 もし、あの惨劇が現実のものとなっていたら、こんなに平和な日常はやって来なかったと思うと、本当に回避できてよかったな、と実感する。


(今回のことを教訓に、もう少し乙女ゲームについて考えてみなければいけないわね)


 みんなで和気あいあいと話していると「フンッ」という、やけに不機嫌な美しい声が聞こえてきた。しかも、私たちに聞こえるように、わざとらしく。


「フンッ」


(あら、また聞こえてきたわ)


 それは、間違いなくレオナルド王子の声だった。不機嫌なのに美しい声に聞こえるという不思議。さすが乙女ゲームの攻略対象者だ。


(キラキラ王子が不機嫌だなんて、夏休みの間に何かあったのかしら?)


 私は考える。レオナルド王子の過去のトラウマは回避した。高等部に入るまでは何も心配はいらないはず。


(レオナルド王子ルートの断罪は、私の一番回避したい運命なのよね。斬首はさすがに怖すぎるもの。だからこそ今は、うん、関わらないのが一番ね!)


 私は聞こえないフリをした。完全無視を決め込んだ。決して不敬ではない。忖度しないだけ。

 だって、私に向けて不機嫌な声を発しているかどうかなんて、わからないから。


 そして、お昼の時間になり、とうとう……


「どうしてお前たちは、俺を仲間外れにするんだ!?」

「「「「?」」」」


 レオナルド王子が怒りを露わにした。正確には、怒りというよりは、駄々をこねている子供に近い雰囲気を醸し出している。


 正直言って、何のことを言っているのか見当もつかなかった。私を含めてここにいる全員の頭の上には、大きなクエスチョンマークが付いているに違いない。


「仲間外れって、今まさに、一緒に昼食を食べているじゃないですか?」


 久々にみんなに会えるということで、みんなで一緒に昼食を食べようと、我がオルティス侯爵家の料理人たちが愛情込めて作ってくれたお弁当を、今まさにみんなで囲んでいる。


 もちろん、事前にレオナルド王子にも連絡をし、二つ返事で了解を得ていた。そんなレオナルド王子は、マイフォークにマイスプーン、マイお皿と、準備は万端だ。


(きっと、とても楽しみにしてくれていたのね。こんな風に、レオナルド王子の素直に嬉しさを表現してくれるから憎めないのよね)


 夏休みに仲良くなったワイアット様も一緒だ。もちろんラズ兄様も。


 レオナルド王子たちが一緒でも、ジェイドも食事を共にしてくれる。それは、お弁当を一緒に食べる時の譲れない条件だから、みんな了承済みだ。


 だから、テーブルに五人座って、仲良くお弁当を囲んでいるところだ。


(あれ? これっていわゆる“逆ハー”というものではないかしら?)


 私は、ぐるりと周りのメンバーを見回した。


 レオナルド王子にはジェイミーちゃん。

 ワイアット様にはニナちゃん。

 ラズ兄様とはそもそも兄妹。

 ジェイドは従者。


(……なんか、違かったみたいね。そりゃそうよね、だって私は悪役令嬢なんだもの)


 そんな事を私が考えている中、レオナルド王子の駄々こねは、未だに続いていた。


「違う! お前らだけ仲良くして、俺には紹介してくれないのか?」

「紹介? あ! もしかして、ニナちゃんのことですか?」


(この夏休みの出来事をもうすでにご存知だとは、さすが一国の王子様。情報が早いわね)


「どーしたんだ、レオ? ジェイミーのことはもう諦めたのか? それとも嫉妬作戦か?」

「んぐっ」


 ジェイドは喉に何かを詰まらせたようだ。とっても素直な反応をするから、お母様もラズ兄様もジェイドを弄ぶのが楽しくて仕方がないらしい。


「ジェイド大丈夫? はい、お水」

「も、申し訳ありません。ありがとうございます」


 レオナルド王子の発言が発端でジェイドが被害を被っているというのに、全くお構いなしにレオナルド王子は話を続けた。


(このジェイドこそが、ジェイミーちゃんの中の人なのに。どうして気付かないのかしら? これが巷で噂される、恋は盲目っていうものね)


 何となく、レオナルド王子が憐れで仕方がなく思ってしまう。


「ジェイミーちゃんにはもちろん会いたいよ。けれど、今回はワイアットの婚約者のことだ。みんなで夏休みに一緒に遊んだと聞いたんだ。俺のことを誘ってくれないなんて酷いじゃないか! 俺にはよく分からない卵だけ。とろっとしていて美味かったけど」


 とろっとした卵とは、温泉卵のことだ。あのあと試しに、試作品を作った。残念ながら黒くはならなかったけれど。


 これで、特別な日にはあの絶品唐揚げに温泉卵を合わせて、唐揚げ丼や、ボリューミーな唐揚げサラダ温玉付き、とかにしたら絶対に爆発的大ヒット間違いなし!


(そうだ! 今度、お母様と王妃様にも食べてもらおうかしら? お偉い様方の宣伝が一番効果的ってお母様が言っていたものね!)


 またも、私の脳内が脱線している間も、みんなの話は続いている。


「ニナのことなら申し訳ない。まだ正式な婚約者ではないので王子には伝えていないだけですよ。決して仲間外れではありません」


 ワイアット様はそれなりにフォローした。やっぱり真面目な人なんだなと思う。


「俺も遊びたかった……」


(あぁ、これが本音ね。ここまでしょんぼりされると誘ってあげれば良かったかしら?)


 見るからにしょんぼりとしたレオナルド王子の姿に、私の良心がズキっと痛む。


 けれど、さすがに一国の王子に温泉を掘らせるわけにはいかない。それに一国の王子だからこそ、予定がいっぱい入ってて忙しかったはずだ。


 優雅に諸國漫遊や避暑地巡り、涼しいところで美味しいものをいっぱい食べたり、各領地の視察とかもあるだろう。


 少しだけ気になってしまった私は、レオナルド王子に聞いてみた。


「レオナルド王子は夏休みは何をされていたのですか?」

「……補習」

「「「「えっ!? そんなまさか……」」」」」


 蚊の鳴くような声が聞こえてきた。何とか聞き取れるくらいのその言葉に、みんな同時に驚愕の声を上げた。


 夏休みに補習があるということは、即ち夏休み前の試験が赤点だったということだ。忘れてはいけない、レオナルド王子がロバーツ王国の王子であるということを。


(あれ? ちょっと待って?)


 ふと疑問に思ったことを、私は口にしてしまう。


「でもレオナルド王子って、入学式で新入生代表の挨拶をしていませんでしたっけ? S組だし」


 新入生代表挨拶は、例年トップの成績で入学した人が担ってきた。


 しかし、一国の王子だから、特例として入学式の代表挨拶に選ばれた可能性も十分にあり得る。けれど、成績順のクラス分けは……


「 サフィー、S組に入れる条件は成績の他にもう一つあったよな。レオは、おそらくそっちだ」


(金かっ!!)


 S組には、成績の上位者のほか、一年生に限っては、多額の寄付金によっても入れることになる。


(そっか、王族だもの、お金はたくさんあるものね。でも、何となく残念だわ)


 少しだけ、ジトリとした視線を送ってしまう。


「違う! それだけは否定する。俺だって今まで一生懸命勉強してきた。ただ、今回はどうしても試験勉強に身が入らなかったんだ。試験中に、どうしてか上の空になってしまって、挙げ句の果てに解答欄を一個ずらしてしまうし、踏んだり蹴ったりだ」

「でも、どうしてですか? 試験前に何かあったんですか?」


 レオナルド王子に尋ねると、隣でジェイドが必死に頭の上で腕を交差させている。ジャンプでもしそうな勢いだ。そして、ひたすら頭を左右に振っているではないか。


(バツ? 聞いてはいけないってこと?)


「サフィー、そんなの答えは一つに決まっているじゃないか。恋煩いさ」


 ラズ兄様がニヤニヤしながら答えてくれた。


「そのとおりだ。どうしてもジェイミーちゃんのことが忘れられないんだ……」


 やっぱりか、という表情で項垂れるジェイドは、この世の終わりを告げているかのようで。


(なるほど、そういうことね。私はどちらの味方についた方がいいのかしら?)


 私はレオナルド王子とジェイドを交互に見比べた。でも、決まらない。


(レオナルド王子も可哀想だけど、報われない恋だもの。このまま諦めてもらった方が良いかもしれないわ)


「このままだと、レオは二年からは、S組から外れてしまうんじゃないのか?」

「まずい、それは非常にまずいことになる。きっと俺は、王位継承権をも剥奪されてしまうんだ」

「え!?」


(嘘っ、そんなに一大事なの!? でもそうよね、一国の王子だもの。王子の頭がよろしくないのは、ちょっと嫌よね。ゆくゆくは、ロバーツ王国を背負わなくてはいけないんだもの)


 私はジェイドをちらりと見た。何かを感じ取ってくれたジェイドは、観念したようだった。


(視線だけで理解するなんて、ジェイドはやっぱり優秀な従者よね!)


「レオナルド王子、次の試験の前にはみんなで勉強会をしませんか? ジェイミーちゃんはすごく頭がいいので、きっと分からないところも教えてくれるはずですよ」

「本当か!?」


 私の申し出に、レオナルド王子は眩いほどの満面の笑みを浮かべて喜んでくれた。


「ああ、それに試験でいい成績をとれば、ジェイミーからご褒美がもらえるぞ」

「えっ!?」


 ラズ兄様のまさかの申し出に、ジェイドが驚き戸惑う声を上げた。一斉にみんなの視線がジェイドに向かう。


「……すみません。なんでもありません」


 一瞬にして空気を読んだジェイドは、あまりに不憫だった。


(ジェイド、ドンマイ! それに、勉強会は楽しそうだし、私にとってもありがたい話だもの)


「じゃあ、今度の試験前には、みんなで一緒に勉強会ということで決まりですね! 元気になってください。レオナルド王子!」

「あぁ、心配させてすまなかった。よし、元気が出てきたぞ! さあ、みなの者、美味しいお弁当を食べようじゃないか!!」


 こうして、レオナルド王子と一緒に勉強会をすることが決まった。






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