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運命の選択

 王都の別邸に帰ってきた。


 ペレス村への家族旅行という名の、王妃様救出作戦は無事に成功し、王妃様を救えて本当によかったな、としみじみと思う。


 振り返ると、いろいろとありすぎるくらい、内容が盛りだくさんの旅行だった。


 ラズ兄様の瞳の秘密や、お母様の従魔ちゃん、それに何と言っても、私の小さい頃の記憶がないということが判明し、たくさんの謎ができてしまったけれど。


 そして今日は、ジェイドに前世の記憶について全て打ち明けると約束している。


(気を引き締めて、集中しなくちゃね!)


 もうすでに、ジェイドは私が前世の記憶を持っていることを信じてくれているので、話すこと自体に不安はない。


 けれど、私が選ぶ「これからの運命」については、ジェイドは受け入れてくれないだろう。




 さっそく私は、前世の記憶を思い出してすぐに書いたノートをジェイドに見せながら、ひとつひとつ説明を始めた。


「ジェイド、このノートを見て」

「……あの、残念ながら私には読めないみたいです」

「だよね。この文字は私の前世の言葉、日本語で書いてあるのよ」


 私はノートに書いてあることを説明しつつ、補足しながら話しはじめた。


 前世の私はとても身体が弱く、15年の生涯だったこと。

 前世の私がプレイした「乙女ゲーム」が、この世界と同じだということ。

 その乙女ゲームだと、私は悪役令嬢で、ヒロインを虐めたことで、卒業式の後には必ず断罪される運命にあること。


 一度説明したことも、漏れがないように、順を追って説明した。


 そして、まだ全てを話せていなかった攻略対象者たちについても。なんなら、私のやりたいことリストまで。


「攻略対象者はこの四人なの。ただ、この最後に書いてあるルーカス王子っていう、隣の国の王子様のルートだけは知らないの」

「……」


 ルーカス王子のルートを知らないと言った途端、ジェイドの顔が険しくなった。


「ごめんね、本当はやっていればよかったんだけど、その前に死んじゃったから……」

「いえ、でも、本当にこのルーカス王子のことは何も知らないんですね?」

「えっと、断罪方法が刺されるってことだけは知ってるわ。でも、他は本当に知らないの。だって、顔も知らないのよ? 絶対にイケメンだったはず!!」

「そう、ですか……サフィーお嬢様、必ずその乙女ゲームとやらの物語のとおりになってしまうのでしょうか?」

「うーん? 全てが全く一緒ってわけじゃないと思うわ。でも、スチルという、物語の途中にとびきり綺麗な一枚絵が出てくるのね。それは確実に起こる出来事なんだと思うわ」


 賊に襲われた後に、王妃様がレオナルド王子に抱きかかえられるシーン。それは、乙女ゲームの中でレオナルド王子が回想する際に使われる重要なスチルだ。


 現実には、王妃様じゃなくて女装したジェイドだったけれど、私が遠目から見たら、乙女ゲームのスチルと同じように見えた。


「では、サフィーお嬢様が破滅エンドとやらを回避できるように、一緒に作戦を練りましょうか」

「……」


 ジェイドの提案に、思わず口を噤んでしまった。


「サフィーお嬢様? どうなさいました?」


(どうしよう、すごく言い出しづらいわ。でも……)


 意を決して、ジェイドに打ち明ける。


「ジェイド、怒らないで聞いてほしいの。これから話すことは、私が決意したことだから、必ず受け入れて。できないというのなら、これから先のことはジェイドに話すつもりはないから」


 私が自ら破滅エンドを選ぶつもりであることを、ジェイドに打ち明ける前に約束させた。狡いことだって分かってる。けれど、必ず否定されるに決まっているから。


「はい、お約束します」


 キョトンとした様子で答えるジェイドの顔は、なぜそのようなことを聞くのだろうか、と言っているようだった。


(騙すようでごめんね)


「約束したからね。じゃあ、話すよ。ジェイド、私はね、悪役令嬢としての運命を受け入れて、断罪されようと思っているの」

「へ?」


(ふふ、ジェイドにしては珍しく、素っ頓狂な返事だこと。やっぱり驚くよね)


「あ、あの、何を仰っているのですか?」


 ジェイドは明らかに動揺している。予想どおりの反応で、少しだけしてやったりだ。


(そりゃ、誰だって「私、断罪されます!」って宣言する人なんていないものね。でも私の決意は固いわよ)


「だから、断罪されようと思ってるの」

「……誰がですか?」

「もちろん、わ・た・し」


 私は思いっきり自分のことを指差して、わざとらしくゆっくりと、ハッキリと答えた。まるで自分自身にも言い聞かすかのように。


「今日の予定は特に何もありませんから、お部屋でゆっくりお休みしましょう」


 そう言いながら、ジェイドは徐に片付けをし始めた。


「ちょっと、ジェイド! 私は本気よ!!」


 すると、突然、綺麗な翡翠色の瞳が、私の顔に近付いてくる。


(……えっ?)


 次の瞬間、ジェイドの額が私の額に優しく触れた。


「熱は、ないようですね……」


 突然の出来事に、全身が一気に火照りだす。


(ちょ、ちょっと待って、たしか前にもこんなことがあった気がするわ……あれは、ラズ兄様だっ、もう、みんなして、人を病人扱いして!)


「熱なんて、ないわよっ!!」


 思わず顔を背けてしまった。だって、こんなに真っ赤になった顔を、ジェイドに見せるなんて恥ずかしすぎるから。


 ちらりとジェイドの方を見ると、ジェイドの顔も真っ赤に染まっているのが分かった。


 私だって、できることならずっとこのままでいたい。けれど、運命には抗えない。どんなに頑張ったって、結末は決まっている。


「ジェイド、私は悪役令嬢として生まれてきたの。それが私の運命なの。運命はね、どうしたって抗えないものなの。現に、前世の私は余命が少ないって言われていて、本当に15年で死んじゃったんだから。早く死ぬって言われていて、本当に早く死んじゃったの。どんなに抗っても、変えることなんて不可能だった」

「サフィーお嬢様……でも……」


 ジェイドはやはり納得できないと言った様子だ。けれど、私もこれだけは譲れない。


「お願い、ジェイド。せめて全てをやり切って華々しく散ることが私の目標なの。ほら、前世の私が考えたやりたいことリスト! 1つ目は置いといて、2つ目のもふもふしたいも、3つ目の学校に通いたいも、すでに叶ったのよ。次は4つ目の……」

「手を繋いでデートしたい」


 私が言い切る前に、ジェイドが呟いた。


「ふふ、もう覚えてくれたの? さすがジェイドね。これも、これから叶えるつもりよ。今の私の5つ目のやりたいことは、華々しく散ること。全て、最初から決めてたことだから」


 前世の私は、周りの人たちにたくさん迷惑をかけてきたことを、とても申し訳なく思っていた。だから今世こそは、誰にも迷惑をかけたくない。


 だから、私は破滅エンドの中でも、可能な限り誰も巻き込まないで、私だけが破滅する道を選択したい。もちろんヒロインのノルンちゃんの出方次第なんだけれど。


 どのルートを選ぼうとしているかは、ジェイドにももちろん秘密……





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