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朝のひととき

 朝、目が覚めたら、大変なことになっていた。私の寝起きが悪いとか、そんな些細なことじゃない。


「うーん、まだ眠いよぅ、アオのもふもふ〜」


 ぎゅーっと抱きしめると、それは、もふもふの毛皮、ではなかった。


「アオが、もふもふじゃない!?」


 一瞬にして、脳が覚醒した。寝起きが悪いとかそんなこと忘れるほど。おそるおそる目を開けると、私が抱きついていたのは、そもそもアオではなかったのだから。


「きゃあぁぁっ!! ごめんなさいっ!!」


 慌てて抱きしめていた手を離した。


(う、嘘でしょ……)


 私は青褪めていいのか、真っ赤になった方がいいのか、どうしていいのか全く分からずに、ただ呆然と固まるしかなかった。


 だって、私が抱きしめていたのは、ジェイドだったから。


「いえ、大丈夫です。私は……もちろん何もしていませんから、ご安心してください」


 ジェイドは私と目を合わせることなく、朝の支度に入ろうとする。


(やってしまった……そして今、“私は”って言ったよね? じゃあ、“私は”ジェイドに何をしたの!?)


 私が見ていた夢、それは、アオのもふもふにひたすら抱きついて、もふもふをひたすら堪能している夢。正直言って、めちゃくちゃ幸せな夢だった。


 けれど、まさか隣でジェイドが寝ていたとはつゆ知らず、しかも抱きついていたなんて……


(もふもふを堪能していたってことは、ジェイドのもふもふを堪能していたってことだよね? ジェイドにはもふもふなんてないから、ひたすら、ぎゅーっと抱きついていたってことだよね?)


 私の全身が一気に火照りだした。湯気が出ているんじゃないかってほど。


(穴があったら入りたい。なのに、あの落とし穴たちは、全部綺麗に戻しちゃったから、もうないわよ!!)


 ジェイドをチラリと見ると、ばちっと目が合った。けれど、即座に逸らされた。


(うぅっ、言ってほしいよ、せめて、何があったのかを言ってくれれば、少しは対処の仕様があるのに……)


 この何とも言えない気まずい雰囲気をぶち壊してくれるかのように、突然それはやって来た。


「おっはよー!!」


 あり得ないほど元気な声が聞こえるのと同時に、部屋のドアがバタンと開いた。いつもなら落胆するところだけれど、今回ばかりは、天の助け!!


「お母様! それに王妃様まで。おはようございます」


 突然の奇襲にもかかわらず、私は助けを求めるかのように、二人に駆け寄り挨拶をする。


「あらあら? 何かあったのかしら〜? 二人して真っ赤な顔しちゃって」


 ニヤニヤとしながら、私とジェイドの顔を交互に見てくる。絶対にこの人たちは、何が起きたのかさえ、勘付いているのだろう。


「お母様たちこそ、こんな朝早くからどうなさいました?」


 もちろん何事もなかったように、私は平静を装う。これ以上、二人のおもちゃにされるわけにはいかない。


「朝の支度を手伝おうと思ってきたのよ。ね、ジェイミーちゃん」


 ジェイドはこっそりと逃げようとしていたものの、逃げられるわけがない。


(まさか、私を置いて逃げようとしたの?)


 もちろんあっさりと捕まってしまったけれど。


(この二人を天の助けだと思った私が浅はかだった。朝から悪魔たちが到来したのね)


 すかさずジェイドを生贄にして、私はそそくさと自分の身支度を済ませて、一人廊下に逃げる。


(やっぱり、自分で身支度ができるって最高! ごめんね、ジェイド)


 廊下に出て一息ついていると、見知った顔の人たちが歩いていた。


「おはようございます、レオナルド王子、ラズ兄様」

「おはよう、サファイア嬢。昨日は世話になったな。ところでジェイミー嬢は?」


 レオナルド王子は挨拶もそこそこに、私の周りをキョロキョロとしはじめる。


「お部屋で支度を整えていますので、間もなくいらっしゃると思いますよ」


 悪魔たちの奇襲攻撃については、恐怖で口にもできない。


「レオに会うために綺麗にしているんだろう。女性は好きな人の前では、一番綺麗な姿を見せたいものだからな」

「それは嬉しいな、ラズの言ってたとおりだな」


(おおっ、いつのまにか愛称呼びをするほど仲良くなってるの? しかも、呼び捨て!? 大丈夫かしら不敬罪!?)


「レオナルド王子もラズ兄様も、昨晩で随分と打ち解けられたようですね」

「サファイア嬢もレオでいいぞ。クラスメイトだし、ラズの妹君だからな」


(呼べません。ラズ兄様の不敬の余波が私にまで及ぶ危険がっ、お願いだから私まで巻き込まないで!!)


 よくよく話を聞いたら、昨晩はラズ兄様による恋愛指南が行われたみたい。けれど、さすがに疲れが出たのか、お互い早めに眠ってしまったそうだ。


 廊下でわいわいと盛り上がっていると、綺麗に化粧を施され、上品なワンピースに身を包んだジェイドが部屋から出てきた。


「おお! ジェイミー嬢、今日も一段とお美しい」


 ジェイド改めジェイミーちゃんを目にした瞬間、レオナルド王子のテンションがMAXに上がる。


 ジェイドの顔が目に見えて引き攣っていたけれど、もちろん私には何もできない。


(ジェイド、今日も頑張れ!)






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