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ペレス村に到着

「素敵な街〜! とってもたくさんの人がいるのね」


 私たちは、王妃様の生まれ故郷であるペレス村に到着した。ペレス村は、たくさんの観光客で溢れ返り、とても活気に満ち溢れている。


「あれ? 前に来た時には、何もなかったはずなのに?」


 お母様が「納得がいかない」と首を傾げている。


「スーフェ、一体いつの話をしてるのよ? 私が王妃になってからは、王妃の生まれ故郷だってことで、今では一大観光地よ。もちろん名物は……」


「「じゃがバター」」


 お母様と王妃様が声を揃える。


(本当にこの二人は仲良しね。二人は同級生なんだっけ)


 お母様と王妃様を見ていると、私も女の子のお友達が欲しくなってきた。未だ私には女の子のお友達がいない。


(それにしても、じゃがバターかぁ。あの、ほくほく感にバターの塩気が絶妙にマッチして、とっても美味しいのよね。うーん、食べたい!)


「ペレス村は、じゃがいもが特産物なんですね」

「そのとおりよ。この辺りは作物があまり育たなくて、唯一じゃがいもが生産されているの。でもじゃがいもは毒のある食べ物だと思われていてね」


(ああ、じゃがいもあるあるね! 芽が毒でお腹を壊すってやつ)


「そうなのよ、まさかスーフェが村に着くなり、じゃがいもを茹でてバターと一緒に食べ始めたときには、本当にびっくりしたわ。この村に住む者の間でも、じゃがいもは敬遠されてたのに」


 王妃様の言葉に私は心底驚いた。まさか、お母様が……


(お母様が、じゃがいもを茹でる!? 厨房にも入ったことのない、あのお母様が!?)


「私は、こんな美味しいものを食べないって聞いた時には耳を疑ったわ」

「しかも、ポテトチップスを作りはじめてからは、爆発的に大ヒットしたのよね。スーフェったら『薄く切って、油で揚げるのよ』って説明だけしかしないのよ。あり得ないでしょ?」


(あぁ、ポテトチップス。話を聞いていたら無性にポテトチップスが食べたくなったわ。まさか、この世界で食べられるかもしれないなんて、早く村探索をして見つけなくちゃ!)


「何ですか? ポテトチップスって?」


 レオナルド王子が王妃様に問いかける。


「じゃがいもを薄く切って油で揚げるのよ。あのパリッとした食感が病みつきになるのよね。でも油断するとすぐに太るから、要注意よ!」


(たしかに、油で揚げているから高カロリーなのよね。でも、分かっていても手が止まらないの! ポテトチップスもいいけれど、前世の私的には、甘いシェイクにフライドポテトの組み合わせが神だと言っています! 甘い、しょっぱい、甘い、しょっぱい……の無限ループ!!)


「でも、じゃがいもって毒じゃないですか?」

「まっ、あなたはそんなことばっかり言って。そんな偏った知識と偏見じゃ、立派な王になれないわよ。毒があるのは芽と青い部分よ。それに、さっきあなたが『美味しい、美味しい』って食べていたサンドイッチにも、じゃがいもが入っていたのよ。ねぇ、サフィーちゃん」

「はい、ポテトサラダを挟みました。少しでもお腹いっぱいになるように、と思って」


 私が用意していたサンドイッチは「ポテトサラダのサンドイッチ」と「タマゴのサンドイッチ」「ハムとチーズのサンドイッチ」だ。


「お口に合ったなら嬉しいです」

「まあ、まずくはなかったかな」

「よく言うわよ。もっと食べたいって駄々こねてたのは誰よ?」

「母上!! ところで、そちらのとっても美しい女性は、どなたでしょうか?」


 バツが悪くなったのか、話題を変えるレオナルド王子の思惑どおり、みんなが一斉にジェイドの方に目を向ける。


「見ないで下さい。もう早く着替えたい……」


 必死の訴えも叶わず、みんながジェイドを見てはニヤニヤする。


「ジェイミーちゃんって言うのよ。照れ屋だから格好良い王子様と一緒にいるだけで、とっても緊張しちゃってるみたいなのよ」


 お母様がわざとらしく意地悪に答える。それを聞き、目に見えて項垂れるジェイドの姿が可哀想で仕方がない。


「ジェイミー嬢か、ぜひ良かったら一緒に村を観光しませんか?」


 レオナルド王子はジェイド改めジェイミーちゃんに向かって手を差し出した。それはまるで乙女ゲームのワンシーン。


(たしか、ヒロインがレオナルド王子のトラウマを癒すために、二人で王妃様の故郷に訪れて、手を繋いでデートするのよね)


 私が乙女ゲームのストーリーを思い出しながらニヤニヤしていると、他のみんなも別の意味でニヤニヤしていた。


「王子に誘われるなんて光栄だな、ジェイミー」

「ほら、早く手を繋いじゃいなさいよ」

「どんなに楽しくても、必ず夜までには帰るのよ」


 この人たちは悪魔の群れだ。すでに私だけの力ではジェイドを助けることは不可能だ。


(ごめんね、ジェイド)


 私の気持ちを察したのか、ジェイドは観念したようだ。どうにでもなれ、と呟いていた。


「ゼヒ、ヨロシクオネガイシマス」


 そして、全く心のこもっていない、蚊の消えゆくような声でそう言いながら、レオナルド王子の手を取った。




 一日目の観光を終えると、王家で管理するお屋敷に着いた。


「じゃ、私たちは宿を探してくるわね」


 お母様がそう言って別れを告げようとするも、ガシッと腕を掴まれ、王妃様に引き止められた。


「何を言ってるのよ、一緒に泊まっていきなさい! ここは少し狭いかもしれないけれど、宿屋よりは安全よ」

「そうだ、ジェイミー嬢も疲れただろう? ゆっくり休んでいくと良い」


 半ば強引に、私たちはお屋敷の中へと案内された。


「えっと、使える部屋は……」


 どうしてか、王妃様はニヤリと微笑んだ。もちろん嫌な予感しかしなかった。


(あっ、今の王妃様の顔は、悪いことを企む顔だわ。やばい、やばすぎる。絶対に変なことを考えてるもの。本当にお母様と同類だわ。絶対に巻き込まれないようにしなきゃ)


 私は、すすす、とラズ兄様の影に隠れた。


「子供たちは男女別の相部屋でいいかしら? レオナルドもたまには同年代の子と過ごしてみなさい」


 王妃様にそう言われると、レオナルド王子とラズ兄様とジェイドが、男部屋として用意された部屋に向かおうとした。それなのに、


「ちょっと待ちなさい! ジェイミーちゃんはこっちよ。サフィーちゃんと一緒の部屋」

「「「えっ?!」」」


 お母様の呼び止める声に、私とジェイドとラズ兄様の声が被る。そりゃそうだろう。例え、ジェイミーちゃんでも、中の人はジェイドなんだから。


「だめだ、だめだ、絶対にだめだっ!」


 ラズ兄様が必死の形相で叫んでくれる。ラズ兄様は今、私たちの気持ちを代弁してくれている。まるで、魔王に立ち向かう勇者のようだ。


「あら、なあに? ラズはジェイミーちゃんと一緒の部屋が良いってこと?」


 お母様がこれ見よがしに、ニヤニヤしながらラズ兄様に尋ねる。


「なに!?」


 その言葉に反応したのは、もちろんレオナルド王子だった。


「違う違う。俺がサフィーと一緒の部屋だ。兄妹なんだから、何も問題はないだろう?」


 当然だ、と言わんばかりに提案をするラズ兄様。私も同意だ。

 もしこのメンバーで、2:2にならなければならないとするならば、それが一番無難だろう。


(ラズ兄様と同じ部屋だなんて、私の心臓がもたないかも!! 寝起きも絶対に見せられないし!!)


 けれど、私は思う。最終的には「実はきちんとそれぞれの部屋を用意してあるよ」ってパターンのはずだ、と。


(さすがにねぇ、いくらお母様たちでも、年頃の男女を同じ部屋で寝させるなんてねえ。……でも嫌な予感しかしないのはどうしてだろう?)


「じゃあ、レオナルドとジェイミーちゃんが同じ部屋でいいのね?」


 今度は王妃様が、ニヤニヤしながら、わざとらしくレオナルド王子に尋ねる。


(やっぱり、あなたたちは類友ってやつですね)


「えっ……」


 レオナルド王子が耳まで真っ赤な顔をして、戸惑いの声を上げ、続けて叫ぶ。


「むり、ムリ、無理! 絶対に無理です。婚姻前の男女が部屋を共にするなんて、絶対にいけません。ラズライト殿、行きましょう。今夜は二人で熱く語り合いましょう!!」


 レオナルド王子がラズ兄様を引きずって、男部屋に入っていった。


「サフィー……フィー ……フィー」


(あぁ、ラズ兄様、あとでお二人のお話を聞かせてくださいね)


 人ごとのようにラズ兄様を見送るも、次の瞬間、あの悪魔たちにとんでもない事実を突きつけられる。


「じゃあ、こっちの部屋が二人の部屋ね。私たちは向こうで大人の話し合いがあるから、じゃあね〜」


 お母様と王妃様が私とジェイドを置いて、仲良く去っていった。


「えっ、まさか!? お母様たち、本気ですか? ちょ、待ってください! って、行っちゃったわ……」


 私とジェイドの間に、気まずい沈黙が走った。






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