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王妃様救出大作戦(3)

 荒れ果てた荒野のど真ん中。大規模火災に遭いながらも奇跡的に残った一本の大きな木。

 その木が、犯人に指定された待ち合わせ場所である精霊の加護の木だ。


 その精霊の加護の木の下で、ピンクブロンドのロングヘアーを風になびかせ、上品な花柄のドレスに身を包み、約束通り一人で犯人が接触してくるのを待っている。


 すると、犯人らしき男が三人、正面と左右からそれぞれゆっくりと精霊の加護の木に近付いてくる。


「約束通り、一人で来てくれたようだな」


 薄ら笑いを浮かべながら近付いてくる様は、非常に下品で不愉快極まりない。


 しかし、体格はそれなりに良いものの、賊というわりには貧相で、まるで貧しい農民のような身なりだった。


「直接お前に恨みはないが、俺らも頼まれたもんでな、恨むなよ」


 正面の男がそう吐き捨て、徐にナイフを振り上げながら走ってこちらに向かってきた。


「!?」


 次の瞬間、目の前の男が急に消えた。どこからともなく聞こえてきた「ナイスイ〜ン!」の掛け声と共に……


 何が起きたのかを全く理解できずにいると、残る二人の男たちが「何しやがる」と目の色を変えて左右から同時に向かってきた。


「「わぁぁぁぁぁぁっ」」


という叫び声と共に、また一瞬にして二人とも目の前から消えた。そして、やっぱり聞こえてくるあの掛け声。


「ナイスイ〜ン!」


 精霊の加護の木の周りには、大きな穴が三つもできてしまった。その穴の中では、男たちが「いてててて、出しやがれ」と各々騒いでいる。


(かなり深い穴だ。これでは魔法でも使わない限り出て来られないだろうな)


 すると、前方の岩山の頂上から


「お〜ほほほほっ」


 荒野中に響き渡る高貴な笑い声、それと共に現したその姿は、


「悪魔だ、いや違う、魔王だ! 魔王が降臨した。……それも二人も!」


 よく見ると、一人目の魔王の足下には縛り上げられた男が転がっている。もう一人の魔王が腰をかけているのは、椅子じゃない! 人だ!! おそらく犯人の男のうちの一人に違いない。


「見てはいけないものを見てしまった……」


 俺は、この一連の経緯が起きるのを何もせずにただ見ていただけ。ただ精霊の加護の木の下に立っていただけだった。


 王妃様に似せた恰好をして、一歩たりとも微動だにしなかった。


 そもそも、どうしてこんなことになってしまったのかと言うと……




 時は遡り、一時間前


 サフィーお嬢様とラズライト様が出発した後の出来事だ。


「さすが、ベロニカ、迫真の演技だったわね! アカデミー賞ものよ!! 次は、ジェイドに活躍してもらう番ね」


 スーフェ様が不敵な笑みを浮かべながら、ジリジリと俺に近付いてくる。その姿は悪魔にしか見えない。


(怖い、未だ嘗て、こんな恐怖を味わったことがあっただろうか。魔物に襲われた時とは、また違った恐ろしさだ)


 思わず後退りするも、ここは狭い馬車の中。俺に逃げ場はない。


「ジェイド、脱ぎなさい。私に任せておけば大丈夫だから。痛くはしないわ、心配しないで」


 狭い馬車の中で、スーフェ様が迫ってくる。やっぱり俺に逃げ場はない。


(えっ、やばい……?)


「スーフェ、怯えてるわよ」


 天の助けの女神様、ならぬ王妃様が来てくださった。


(助かった)


 そう思ったのも束の間。


「このくらいの年の男の子には優しくしてあげなきゃトラウマになっちゃうわよ。私に任せなさい」


(……ん? 危険な予感がする。むしろ危険な予感しかしない)


「ほら、お姉さんが優しく脱がせてあげるから」


 悪魔だ、悪魔がもう一人降臨した。女神のような顔をした悪魔が二人、ジリジリと俺に近寄ってくる。


「やめてくださいぃぃぃ」


 虚しくも、俺の悲鳴だけが荒野中に響き渡る。


「できた! なかなか似合うわね。成長期もまだだから、背格好もぴったりよ」

「あら本当、可愛いわ。昔の誰かさんを思い出すわね」


 悪魔たち、もといスーフェ様と王妃様に身包みを剥がされたあと、俺は王妃様が着ているドレスと同じドレスを着せられたのだ。


「何か、大切ものを喪ってしまった気がする……」


 着替えの最中もこれまた酷かった。悪魔たちがチャンスだとばかりに俺に触る。


「いい体ね〜 《ぺたぺた》」

「細いわー、ちゃんと食べてる?《にぎにぎ》」

「肌すべすべよ。羨ましいわ〜 《さわさわ》」


 やたらとボディータッチが多かったのは、気のせいだったと思いたい。


「ジェイド、動いちゃだめよ。すぐに終わるから、目を瞑って」


 そう言いながら、王妃様の顔がどんどん近付いてくる。 


(だめだ……)


 俺はぎゅっと目を閉じてしまう。


「パタパタパタ……」


(ん? 顔をふわふわの何かで叩かれている)


「まだ目を開けちゃだめよ」

「は、はい」


 もう言われるがまま、為されるがまま、俺には抵抗する気力すらも、もうなかった。瞼にも何かつけられて、唇に指が這う感触がある。


「もう目を開けて良いわよ、うん! 上出来ね」


 王妃様が俺の顔を見て、満足そうに頷いている。


「じゃあ、今度はこれも被って〜」


 スーフェ様が持っているのは、王妃様の髪型とよく似た、ゆるく巻かれたピンクブロンドのロングヘアーのかつらだ。


「後ろから見たら、ベロニカがもう一人いるみたいよ」

「あら本当。これからは王妃業務もジェイドに任せようかしら」

「「でも、やっぱりあの人にそっくりね〜」」


 スーフェ様と王妃様が声を合わせて言う。


「ジェイドも見てみなさい。はい、鏡。あなたは今日からジェイミーちゃんよ!」


 スーフェ様に手渡された鏡を覗いてみる。自分で言うのもなんだけど、そこにはとても美しい女性の姿が映っていた。


 王妃様は王妃様でも、故郷チェスター王国の王妃、俺の母様と瓜二つだった。


「次は、今回の作戦ね。ジェイドがベロニカ……王妃様の代わりに待ち合わせ場所に行く。以上!」

「えっ!?」


 思わず、驚きの声をあげてしまった。


(まさか、作戦って、それだけ?)


 俺は耳を疑った。そんなはずはない、と疑いの眼差しをスーフェ様に送る。


「ん? 以上よ」


 あっさりと否定された。


「あ! もう一つあったわ、絶対にその場から動かないこと。以上」

「……」


 俺はもう何も言葉を発することができず、ただ不安だけが募っていった。




 ……で、現在に至る。


 とりあえず、俺は広い場所に移動した。すると、すぐにサフィーお嬢様たちがやってきた。


 俺はサフィーお嬢様の無事なお姿を見ることができ、心底安心した。やっぱりサフィーお嬢様は天使のようだった。


「母上!」


 レオナルド王子が王妃様を呼ぶ声が、俺の背後から聞こえてきた。


(ああ、レオナルド王子も無事だったのか、良かった)


 振り返ろうとした瞬間、レオナルド王子に後ろから抱きつかれ、その反動で体勢を崩してしまった。

 不覚にも、俺はレオナルド王子とともに倒れてしまった。


 奇しくも、レオナルド王子が俺を抱きかかえるように。


 レオナルド王子と目があってしまった。この体勢で見つめ合うのは、非常に気不味い気分だ。


「これって、スチルシーンと同じだ……」


 微かに、サフィーお嬢様の呟きが聞こえてきた。


「母上、じゃない……?」


 その言葉と同時に、一気にレオナルド王子の顔が赤くなった。とっさに俺は、レオナルド王子から離れてサフィーお嬢様のいる方へと向かう。


「ご無事で何よりです。サフィーお嬢様」


 サフィーお嬢様が、マジマジと俺を見つめる。


「ジェイド、可愛すぎるわ……」


(あぁ、忘れていた。サフィーお嬢様だけには、この姿を見られたくなかったのに……)


 俺は今、ジェイミーちゃんだった。






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